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2010/01/10

Kiyotaki-Moore

Kiyotaki-Moore ModelのDynare codeを検索したら簡単に見つかった。

当該論文のfig 3.と同じ図を導いている。
http://www.dynare.org/phpBB3/viewtopic.php?f=2&t=2238

追記。matlabコードも見つかった。
http://ideas.repec.org/c/dge/qmrbcd/113.html

2009/10/24

「法と経済」からみた中央銀行

「法と経済」からみた中央銀行
2009年10月21日 白川方明日銀総裁

低金利低インフレからバブルが発生してしばらくすると、バブルの限界がきてサブプライムショックが発生、証券化商品価格が下落したおかげでリーマンショックが発生、信用収縮が一気に起きて資金の貸し手が不在になった。そこで日本銀行は金利を低くして、担保を外国債まで広げて円やドルの資金を潤沢に供給し、CPや社債を買い入れ、ドル市場の安定のためにスワップを実施した。

日本銀行の業務は第一に通貨の安定であり、偽札の防止や物価の安定を頑張っている。中央銀行は信認が不可欠であるため中央銀行自身が努力しなければならない。通貨の安定は、法令や行政命令ではなく取引を通じて行なうものである。中央銀行で働くことは、パブリックな仕事であり、幅広い知識の重要であり、実務が重要であり、組織で仕事をすることが意義深く、変化への柔軟な対応の重要性である。

流動性と決済システム

2008年11月26日の白川方明日銀総裁の講演によれば、流動性に関する論文を欲しているらしい。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0811f.htm

「経済活動の変動を理解するうえで、流動性という概念は極めて重要であり、我々は流動性についてもっと研究を深める必要があるということです。近年、マネタリー・エコノミックスの世界では、ニュー・ケインジアン経済学に基づく論文が非常に増加しています。これらの研究は金融政策の運営に関し我々に様々な洞察を与えてくれましたが、資金流動性や市場流動性など、流動性を明確に意識した分析は、行われてきませんでした。しかし、流動性が突然過剰になったり、逆に突然枯渇するといった現象について十分理解することなしには、マクロ経済を分析することはできなくなってきています。幸い、最近では、流動性に関する研究は限界効用の高い分野であることが強く意識されるようになってきており、流動性に関する研究成果も多くみられるようになりました。」とのことである。

マネーサーチを勉強する研究者の方々には政策インプリケーションへの貢献を強く願うのである。

2009/08/29

Shin (2009)

Shin, Hyun Song (2009) "Financial Intermediation and the Post-Crisis Financial System," mimeo.

証券化は信用リスクを分散させるものであり、金融仲介が長いほど短期貸しと長期借りのギャップを埋めることができるとされていた。しかし、今回の金融危機はそれ以外の可能性を指摘した。証券化はレバレッジのかかったセクターにリスクを集中させた。短期債券は金融仲介業での貸し借りが大きく膨らんだ。金融仲介業同士は大きく絡み合うようになった。金融仲介の鎖が長くなることで、レバレッジの倍率とバランスシートの大きさが膨らんだが、鎖は短いほうが金融システムは安定的になる。

2009/08/06

Rajan (2005)

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』より。

Has Finance Made the World Riskier?
Raghuram G. Rajan

直接金融の進展は銀行という仲介機能が消滅した(disintermediation)とみなされるが、実際にはファンドなど新しい仲介役の登場した(Reintermediation)とみたほうがよい。

Caballero (2006)

On the Macroeconomics of Asset Shortages
Ricardo J. Caballero
NBER Working Paper No. 12753
December 2006

世界的には金融資産が不足している。家庭、会社、政府、保険会社、金融仲介機関による資産と担保として金融資産がグローバルに必要なのであるが、資産の供給がそれ追いついていない。金融資産の不足に対して資産の価格とバリュエーションの均衡が反応するということが、ここ20年の世界的経済成長で中心的役割を果たしている。いわゆる国際収支の不均衡や、(新興市場、ドットコム企業、不動産、金など)投機バブルの再発的な緊急事態、歴史的に低い実質金利と低い長期金利、世界的なディスインフレ現象や地域的なデフレ現象など、このasset shortageという観点から説明できる。

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』によれば、フレームワークとしては次のようになる。つまり、実物財と金融資産の二財モデルを考える。ワルラスの法則から、供給過多のとき相対価格は下がり、需要過多のとき相対価格が上がる。新興国において投資対象が不足しているために、金融資産の相対価格が上がると同時に、実物財の相対価格が下がると説明できるとのこと。

Tirole (1985)

Tirole, Jean (1985) "Asset Bubbles and Overlapping Generations," Econometrica, Vol. 53, No. 6. (Nov., 1985), pp. 1499-1528.

バブルを作るのは、耐久性・希少性・共通のBeliefである。バブルは必ずしも悪いものではなく、動学的効率性を満たすようにできる。動学的効率性の条件とは、経済成長率よりも投資収益率が大きい状態である。投資が過剰に行なわれているとき、経済成長率のほうが投資収益率を上回り、動学的効率性の条件が満たされない。

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』によれば、バブルな財に投資することで、資本投資が減るとともに投資収益率が上がり、資本の減耗とともに資本設備が適正水準となって動学的効率性の条件が満たされる、となるそうだ。これは世代重複モデルで描写される。

2009/08/05

Calomiris and Wilson (2004)

経済論戦は甦るより。

Calomiris, Charles W. and Berry Wilson (2004) "Bank Capital and Portfolio Management: The 1930s “Capital Crunch” and the Scramble to Shed Risk," Journal of Business.

企業家が投資家を選ぶという逆選択に対して、投資家は二通りの方法で対抗できる。第一に、融資を減らして、流動的な資産に持ち替えることである。第二に、不良債権の発生が預金に悪影響を与えないように、増資によって自己資本のバッファを増やすことである。大恐慌におけるニューヨークの市中銀行は圧倒的に第一の方法であり、貸出量の簿価と流動資産の比率を見ると、1922年から1931年にかけて2.06から3.33に上昇していたものの、それ以降低下を続けて1940年には0.25となった。第二の方法に関しては1930年以降の市中銀行は増資をしていないという事実がある。

Bernanke (1983)

経済論戦は甦るより。

Ben S. Bernanke (1983). "Nonmonetary effects of the financial crisis in the propagation of the Great Depression". American Economic Review 73 (3): 257–276.

大恐慌における貸し渋りを実証分析する。大恐慌における事実として、銀行の倒産規模が上昇するとともに、銀行以外の事業の倒産規模、とくに中小企業の倒産規模も上昇し、住宅ローンの債務不履行も急増していた。銀行貸出の規模として、商業銀行貸出残高の純増を個人総所得で割ったものを代理変数とすると、1930年10月までは比較的安定して推移していたものの、銀行の倒産規模が最高となった1930年10月には銀行貸出の規模も30%低下していた。
銀行預金に対する銀行貸出の比率を見ると、1929年には85%以上が銀行貸出に回されていたが、1930年10月から1933年1月にかけて72%から58%と急減した。預金が流動的資産へシフトするという貸し渋りの傾向が見られる。
大恐慌時のリスクプレミアムは拡大しており、1930年から1932年にかけて、BaaとTBの利子率格差は2.5%から8%へと拡大している。

Kiyotaki and Moore (1997)

経済論戦は甦るより。

Kiyotaki, Nobuhiro and John Moore. 1997. Credit Cycles. The Journal of Political Economy, Vol. 105, No. 2 (Apr., 1997), pp. 211-248.

投資家と企業家の間にあるホールドアップ問題に着目する。企業家は土地から生産価値を生み出す。生産規模の拡大のためには土地を購入する資金が必要なので、純資産以外に投資家から借りることになる。資金が一旦貸し出されると、企業家によるホールドアップが予想されるので、投資家は企業家の土地を担保とする。ゆえに、土地の担保価値に等しい分だけ、企業家は投資家から借り入れることができる。
何らかのショックによって企業化の所有する土地の担保価値が低下したとき、投資家が貸出しを減らすことになるので、企業家が土地の購入を控えることになる。土地の需要が減ると土地の値段が低下することになるので、土地の買い控えと担保価値の減少の相乗効果によって加速度的に地価が低下することになる。
こうしたデフレスパイラルに対しては、投資家から企業家への富の移転が求められる。企業家の資産の担保価値が増加すれば好循環が生まれ、実質国民所得も増加する。(ただし、デフレスパイラル自体はforward-lookingに織り込まれてしまう。現実にはダラダラと下がるらしい。)

Bernanke and Gertler (1990)

経済論戦は甦るより。

Bernanke, Ben and Mark Gertler. 1990. Financial Fragility and Economic Performance. QJE.

企業家と投資家の間に情報の非対称性が存在する。企業家の責任が限定されているために、risk-lovingに事業を行なう。この傾向は事業に出資する純資産が少ない企業家ほど顕著である。したがって、純資産が少ないほど、貸出の利子率にリスク・プレミアムが上乗せされる。リスクプレミアムが上乗せされるために、ある純資産を下回ると投資を見送らざるをえなくなる。多くの企業家がこの純資産を下回るとき、経済が急激に収縮することになる。
政策インプリケーションとしては、(投資家と企業家の間に立つ)銀行が企業家の能力をモニタリングする必要があるということが提言されている。つまり、企業家のrisk-lovingな事業を回避するためには、計画の見送りに対して報酬を与える必要がある。この投資家から企業家への富の移転によって経済が正常化するわけだが、これとしては過剰債務を抱える企業家に対する投資家の債権放棄が挙げられる。銀行が投資家と企業家の間に立っているとき、銀行に対する公的資金の注入が投資に対してプラスの効果をもたらす。銀行が競争的行動をとるとき、銀行セクターに対する支援は企業家への支援となる。

2009/08/03

Peek and Rosengren (2000)

経済論戦は甦るより。

Peek, Joe and Eric S. Rosengren, 2000. "Collateral Damage: Effects of the Japanese Bank Crisis on Real Activity in the United States," American Economic Review 90, 30-45.
不況下では貸し手のストック減少のみならず、借り手の投資縮小が考えられる。邦銀の貸し渋りの影響から借り渋りの影響を除去するために、不況の影響を受けていないアメリカ企業への貸出を見る。すると、米銀や日本以外の外国銀行からの貸出はパターンやトレンドは見られない。しかしながら、邦銀の貸出は1986年から1991年まで急速に上昇した後、1992年から急激に下落した。これは株価半減による含み益の消滅から、バーゼル協定の定める自己資本を資産圧縮によって確保する必要があり、長期的関係のない海外案件から貸し渋りをしたと推測される。

2009/07/22

主要国の中央銀行における金融調節の枠組み

主要国の中央銀行における金融調節の枠組みby白川方明

FRS,BOJ,ECB,BOEが市場金利を政策金利に誘導する手段は主に三種類。
(1)法令または契約に基づく中銀当預の積み立て制度
金融調節を円滑に実施するためには、同時に、中銀当預に対する需要が安定的かつ予測可能であることが不可欠である。中銀当預は民間金融機関の様々な取引にかかる資金決済に利用される。中銀当預の残高について、日々の資金決済需要を安定的に上回る一定の水準に維持するように促す仕組みが設けられていれば、中央銀行による中銀当預に対する需要の予測は容易になり、金融調節を円滑に行うことが可能となる。

(2)公開市場操作
オペは、概念上、長期オペと短期オペに大別されることが多い。長期オペは、主に、銀行券など、中央銀行の安定的な負債に対応するものとして、長期的に資金を供給するための手段であり、国債の買入れがその典型例である。他方、短期オペは、主として一時的な資金過不足に対応するための手段であり、例えば、期間の短いレポ取引(債券等の売戻し条件付き買入れもしくは買戻し条件付き売却)や有担保の資金貸付けなどを通じて実施される。
金融調節において長期オペを用いると、一度に長期間に亘る資金供給を行うことが可能となり、短期金融市場において巨額の短期オペを頻繁に実施する必要性が低下する。この結果、中央銀行のオペにより短期金融市場における金利形成を歪めることを回避できるとともに、オペにかかる中央銀行・民間金融機関双方の実務負担も軽減することができる。他方、長期オペは中央銀行の資産の固定化にもつながるため、その規模が安定的な負債に見合わないものになると、資金過不足の変動に合わせて柔軟に金融調節を実施していくことがより難しくなる惧れがある。

(3)スタンディング・ファシリティ
金利を上と下ではさむというアレ。
貸付ファシリティ:補完貸付制度
預金ファシリティ:当時はBOEとECBのみ。

国際金融ネットワークからみた世界的な金融危機

国際金融ネットワークからみた世界的な金融危機

ネットワーク分析という研究手法があるらしい。金融取引関係を見える化すると、金融取引のハブ機能が浮かび上がってくる。

まず、縦軸をクラスター係数、横軸をリンク次数としてプロットする。クラスター次数は地域内での取引密度を表わし、リンク次数は地域間での取引密度を表わしているとしてよい。これによれば、国際金融は大国の金融機関が水平的でそれ以外は垂直的という屈折したグラフが出てくる。国際貿易は直線であることと比べると、国際金融は大国の金融機関がハブとなっていて、各地域の橋渡しをしているのだと考察することができる。

一方、縦軸を媒介性、横軸を近接性としてプロットする。近接性はある機関から別の機関までに取引仲介される数を示し、媒介性はその地域の機関が取引仲介する数を表わしているとしてよい。これによれば、大国金融機関のハブ機能のおかげで、取引仲介数が低く抑えられていると考察することができる。

こうしたハブ機能はある程度までのショックには強く、別のハブを回していけば機能する。しかし、ハブが大幅に傷んだとき、国際金融取引がまったく機能しなくなる。1998年から2008年の国際金融取引の高まりから、英国とユーロ圏の相互取引が急膨張した。債権債務の膨らみがこうしたリスクを大きくしたものとみられる。

2009/06/20

Diamond and Rajan (2001)

Diamond, Douglas W. and Raghuram G. Rajan (2001) "Liquidity risk, liquidity creation and financial fragility:A theory of banking," JPE.

背景
借り手にとっても貸し手にとっても流動性が重要である。借り手は資金集めがいつもうまく行くとは限らないという不確実性に直面している。貸し手は急に資金が必要になったときに貸した金を回収しなければならないという不確実性に直面している。商業銀行はこうした借り手と貸し手の間に立って金融仲介業務をしているのだ。

モデル設定
Diamond and Dybvig (1983)のように確率的にimpatient lenderとpatient lenderが発生する。impatient lenderはliquidateやsellによって現金を調達する。

さらにrelationship lenderは借り手の情報をよく知っている。資産を差し押さえて現金化する際には他の貸し手よりも資産の用途を知っているので高く処分できる。

後はかなりゴリゴリ。
Lecture Note 1, Note 2

含意
銀行の借方では資金不足の借り手に資金供給している。その一方で資金供給するための資金を預金者から集めている。銀行はfragile capital structure (subject to runs)をもつrelationship lenderなのだ。銀行はfragile capital structureを管理する能力を持っており、その能力から手数料(rent)を得ている。このrentはbank-runが生じると無に帰してしまう。

貸し手と借り手の双方に流動性を供給しているのは金融機関のなかで銀行だけである。MMFでは預金者に対するliquidityを保っている反面、運用は流動性のある資産で行なうのであって、illiquid assetsは避ける。生命保険では契約者に支払うタイミングが観察可能であるから云々。IBは将来のキャッシュフローに興味があって、VCはベンチャーのon-goingに興味がある。

預金資金は安全資産に投じて貸出資金は市場から調達するというナローバンク論は、銀行の流動性供給という役割を殺すことになる。全額保護の預金保険もまた銀行の流動性供給を殺す。部分保護の預金保険はうまくいかないこともない。引出規制は預金者が困ってしまう。

2009/04/24

ティロール(2007)

ジャン・ティロール(2007)「国際金融危機の経済学」北村行伸、谷本和代訳、東洋経済新報社。

アジア通貨危機とIMFの荒治療に関するコンセンサス
-弱い通貨国が対外債務を抱えすぎない。
-短期借りより長期投資の呼び込みが望ましい。
-投資上の制度に国際基準を適用して投資家の急激な逃避を防ぐ。
-国際基準における裁量余地が高リスクを生んでいる。
-国家の金融状態の透明化が望ましい。
-金融危機が発生したとき投資判断を誤った投資家もこれを負担すべきである。
-固定為替相場制は危機に脆弱である。

Dual-Agency Problem
-投資家の収益を確約するのは、国と企業の両方である。
-国が国内投資家の保護に走るとき、外国投資家と企業の契約に外部性が存在する。
-外国投資家は国と契約を結べない。

Common-Agency Problem
-借り手が複数の投資家から借り入れているとき、ひとつひとつの契約が他の契約の外部性となる。

Tirole (2003),AER

まとめ
IMFが何をやるかはっきりしていないし、いままでを見ても成功を事前に導くというよりは失敗の事後的処理をしている。失敗について具体的に分析すべきである。金融危機の原因としては、政府が外国投資家に影響を与えるにも関わらず、その間に契約がなかったからであろう。したがって、外国投資家の代表としてIMFが債務国を監視すべきである。IMFはLLR機能よりも、危機管理機能が重視されるべきである。IMFは危機に対応できるほどのポケットマネーを持っていない。また、アジア危機のときの政策は、外国投資家の信頼という観点では、間違っている可能性が高い。

2009/04/22

Diamond and Dybvig (1983)

Diamond, Douglas W. and Philip H. Dybvig (1983) "Bank Runs, Deposit Insurance, and Liquidity," JPE, pp. 401-419.

T=0,1,2の三期間を考える。T=0からT=1までは資産の貯蔵技術がなく、T=1からT=2までは資産が貯蔵できる。そのため、個人は次のような性質の特殊証券を購入する。
T=0にて価格1である。
T=1にて価格1である。
T=2にて価格R(>1)である。
各個人はT=0のとき資産1を有しており、全資産を特殊証券に投じる。T=1にて各個人はType1とType2に区別され、特殊証券を資産に戻すか、特殊証券として保有し続けるか選択できる。Type1はT=1における消費に関心があり、Type2はT=2における消費に関心がある。Type-tがT期において償還する特殊証券の総額をと表わそう。貯蔵技術の仮定からType2のT=2における消費量はとなるので、リスク回避的な効用関数と割引率を考慮して次のように書ける。

ナッシュ均衡は


ところで、いまType1とType2の比をt:1-tであるとしよう。このとき、最適解は


要するに、このままでは最適解が達成されない。

ここで銀行の登場である。T=1で取り出すとき1より大きくし、T=2で取り出すときRより小さくするのである。ところがT=1のとき銀行の資産は1なので、想定以上に償還請求が行なわれると「銀行取付」となる。銀行取付が考えられるとき(その行為こそが銀行取付を引き起こすとしても)預金引き出しが最適反応となる。そこで、償還に上限を設けることでType1だけが償還するようにすれば最適解が得られる。
ここまでの話は t が一定値の場合である。

さて t が確率変数で、銀行はその t の値を知りえないという情報の非対称性を仮定する。このとき最適解もまた t に依存するので、銀行の機能で最適解を導くことは難しい。そこで政府が事後的に情報を得て、公的資本注入と税で個人資産を調整することを考える。うまく税率を設定すれば、たしかに最適解を達成できる。


コーディネーションの失敗
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/46da2ef9e2ab23b0272017150acfd5d1
[経済]Diamond-Dybvigの銀行取付モデルをめぐるメモ
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20081009

2009/02/07

グリーンスパン(2008)

アラン・グリーンスパン(2008)『波乱の時代 特別版―サブプライム問題を語る』山岡洋一訳、日本経済新聞出版社。

サブプライム・モーゲージについて詳しく解説しているが、サブプライムでなくとも他の証券がバブル崩壊を導いたに違いないという。

では、何が問題なのか。

銀行はいままで保守的な預金者のおかげで、貸出金利と預金金利の差とかでリスクを吸収していたが、保守的な預金者が減って、リターンを求めがちな投資家に依存するようになった。そのために証券会社だけでなく銀行までも資金調達に苦労し、金融仲介機能の健全性が失われて経済に大打撃を与える。いつもは証券か銀行かチョンボしてないほうが機能していたけど、今回は両方ダメ。

リスク管理システムがしっかりしていれば、金融システムが凍結することはないのだが、どうしてもモデル化が難しい。アニマル・スピリッツのような人間の非合理的反応を説明変数として加えたいところ。しかし、リスク管理を強化したところでバブルの時期が長く延びるだけ。投機の波を効果的に抑えることは不可能なので、市場が常に十分な柔軟性と回復力を持ち、保護主義や硬直的な規制に縛られておらず、危機のショックを吸収し緩和できるようにしておくべきと主張する。必要なのは取り締まりの強化だけ。

非金融セクターは低い長期金利を背景に財務状況は改善済みであった。事業を拡大しても満足できる利益率を確保できそうになかったからである。現在の非金融セクターは、借入れの難しさよりも売り上げの落ち込みを心配している。

市場の知識という面では、金融規制当局は民間のリスク管理者に劣る。新BIS規制が民間のリスク評価モデルを参考にしたように、今後も民間による市場慣行が官製ルールとなる。民間のリスク管理の仕組みを改善するしかないが、市場は既に改善の兆候が、deleverageや流動性の低いABSの需要減少に現われている。

公的資金は、優良な担保を提供する金融機関には融資しても問題ない。しかし、闇雲に救済するとなれば、too big to failの見解が浸透して金融システムを歪ませてしまう。民間のリスク管理は数十年に一度の事態以外ならば耐えられるが、そうでなければ中央銀行が頑張るしかない。政府としては、FRBの財務基盤や金融政策に影響がないようにすべき。ベアスタ救済で作った手続きを法制化し、救済の条件を規定し、制限する。システミック・リスク対策として財務省権限の公的資金投入の透明化、RTCのような金融仲介機関の破綻処理組織の整備を。

デリバティブの規制は良くない。闇雲な規制の強化もナンセンス。CDSは役に立っているし、監督体制を確立した国も金融危機に対応しきれてない。ただ、金融機関は適切な資本と流動性の余裕を持ち、予想外の事態に耐えられる能力を備えるべき。

バブルが膨らむのは、信用がありあまって長期金利が低くなっていたから。過去の経験では、深刻な信用危機によってデフレが発生する。しかし、いまではマイルドなインフレだ。エネルギーや食料品などの商品価格の高騰からだ。中央銀行は今後、インフレに悩むだろう。アメリカの長期金利は10%を超える一方、株式や不動産など収益性資産の利回りは低下するだろう。(・・・って原油価格がいま下がっているのは、一過性のものなのか?)

長期国債は上がってきているかもしれません。

2009/02/04

小幡(2008)

小幡績(2008)『すべての経済はバブルに通じる』光文社。

第一章 証券化の本質

証券化の前後で、実際経済での「資産の収益性、将来得られるキャッシュフロー」に関するリスクが、流動性リスクに変質した。いったん、このような変質が起こってしまえば、「自分より高く買ってくれるバカ」がいればいいのであって、原資産なんか、どうだってよくなる。格付け機関だけでも、原資産に基づいた格付けを行えていれば、まだ実体に基づいていた。

第二章 リスクテイクバブルとは何か

サブプライムローンのバブルは、「住宅価格が上昇し続けていたから」ということになる。なぜ住宅は上昇し続けたのかは、「サブプライムローンは、定義より、低所得者をマイホーム市場に参入させることになったが、それが、住宅需要を増やした」という事実が背後にある。サブプライムの借り手が破産するなりして、住宅需要が減るようなことになると、バブルを支える住宅価格の上昇がストップしてしまうので、彼らの破産を予防し支援するインセンティブもあった。

http://www.sugi-shun.com/mt/2009/01/post-32.html
第3章 リスクテイクバブルのメカニズム

プロの投資家が、ちまちま運用すれば、「もっと儲けよ、さもなくば解約するぞ」と顧客から言われてしまう状況、過度にリスクをとりに行くインセンティブがあったと推察できる。この問題の背後には、ファンドの顧客とマネージャーの間に、ファンドマネージャーの真の能力をめぐる情報の非対称性があった。

この情報の非対称性の結果、ファンドマネージャー達は、「リスクを適正評価出来ないリスク」にされされた。もちろん、マーケット全体で見れば、way too much risk takingな状態になる。合成の誤謬。

第4章 バブルの実態―上海発世界同時株安

マーケットでは、何が真実かよりも、「みんなが何が真実だと思っているか」ということが重要。

http://www.sugi-shun.com/mt/2009/01/post-37.html
(略)
第8章 キャンサーキャピタリズムの発現―二一世紀型バブルの恐怖
20世紀型のバブルは、発生メカニズムがなかったが、21世紀型は、発生メカニズムがある、と著者は主張する。リスクテイクバブルは、構造的な市場に組み込まれていたのだ、と。

http://www.sugi-shun.com/mt/2009/01/post-11.html