2010/02/04

Johnson (1982)

Chalmers A. Johnson. MITI and the Japanese Miracle: The Growth of Industrial Policy, 1925-1975 (June 1, 1982 ed.). Stanford University Press. pp. 412.
chap.1
いわば通産省の産業政策を経済成長の源泉とする政治学本である。一方、Esteban-Pretel and Sawada (2009)では、産業政策は無効というシミュレーションをしている。とはいえ、後者の論文では産業政策を補助金のようなTangible policiesと行政指導のようなIntangible policiesに分け、経済的な変数として識別できるTangible policiesのみを扱っている。したがって、前者の政治学本はIntangible policiesであり、これを否定したわけではない。そのIntangible policiesを否定する本としては三輪芳朗とマーク・ラムザイヤーの本がある。(ここにレビュー。)ちなみにこの三輪先生は、産業組織論とかコーポレート・ガバナンスがご専門なのだが、ゲーム理論からはアプローチしないという先生でおられる。行政改革委員会で滅茶苦茶やっていたみたいである。

Rationality

http://gregmankiw.blogspot.com/2010/01/economics.html
ミクロ経済学の重要な仮定であるのは「One More. Rational people make decisions on the basis of the cost of one more unit.」である。ところが下記のジョーク動画でも言っているが、オレンジを買う人がワンモアオレンジ、ワンモアオレンジと繰り返し言って買うわけがない。ドラマ不毛地帯でも、ここで引き下がるわけにはいかんのや、というような非合理的な現実に直面する。もし人間がそのように動くならば一般均衡モデルは脱構築しなければならないが、その場合どのような仮定がモデルの前提になるのかは不明である。Matsuyama (JPE 2002)のようにイチかゼロを選ぶ選好を持っているのかもしれない。

Mankiw's 10 principles of economics

2010/02/03

行動経済学


このNudgeという本が読み途中で床に転がっているのだが、行動経済学の本である。この人気の行動経済学は、経済学の傍流に過ぎず、以下のように断じられている。
http://blog.livedoor.jp/yagena/archives/50564161.html
「行動経済学/実験経済学/神経経済学に関連するセッションが一つもない」(中略)私は行動経済学系の専門家ではないので断定的なことは言えませんが、書かれる関連論文の本数は已然として多いものの、昔と比べると、革新的な論文が量産されているような印象はあまりありません。(中略)世間で盛り上がりを見せるこれらの分野に対して、一定の距離を置いて冷静に見つめ直すべき、というプログラム委員会の強い意思表示である可能性もあるのではないかと思います。(後略)
http://unrepresentativeagent.blogspot.com/2009/12/rant-on-behavioural-economics.html
行動経済学なるものが正確に何を指すのか僕にはよくわからないけれど、hyperbolic discountingとかloss aversionとかのような普通でない(exotic) preferenceであれば、habitのように、これまで使われたフレームワームに取り入れられて終わるのではないだろうか。経済学の「標準的な」フレームワークはとても柔軟である。(中略)わけのわからない些細なことをちょっと変わった仮定を使って説明するよりも、マクロ経済学の観点でいえば、標準的なセットアップで最適とされる政策と「行動経済学的」な仮定の下で最適な政策が大きく異なる、というような例がほしい。
そりゃーそーだわ。ミクロ的基礎付けにどうやって応用するかが第一関門で、そうすると結局単純化した形で取り込まれることになるわけで、そうすると結局既存のモデルと大差がなく、既に取り込まれているとも言える。

多田洋介(2003)『行動経済学入門』日本経済新聞社。
http://chachaimemo.blogspot.com/2009/03/2003.html
日本経済学会2008年度石川賞講演論文「行動経済学は政策をどう変えるのか」
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~iwamoto/Docs/2009/KodoKeizaigakuhaSeisakuwodoKaerunoka.pdf
↑内容は面白いが、引用しにくいし、まとめられないからpdfを直接読むと良い。

Mankiw, Weinzierl, and Yagan (2009)

Journal of Economic Perspectives
Vol. 23, No. 4, Fall 2009
Optimal Taxation in Theory and Practice
N. Gregory Mankiw, Matthew Weinzierl and Danny Yagan
http://unrepresentativeagent.blogspot.com/2009/12/optimal-taxation-in-theory-and-practice.html
1.最適な限界税率曲線(収入レベルに応じた限界税率をあらわす)は「能力」の分布度合いによって異なる。
2.高収入の人に対する最適限界税率は下がる可能性がある。
3.Flat taxとLump-sum Transferの組み合わせが最適課税に近い可能性がある。
4.最適な再配分の度合いは賃金格差とともに拡大する。
5.税率は収入だけではなくて個々人の特徴(学歴、IQ、年齢、性別、背の高さ、肌の色、人種、等)に依存するのが最適である。
6.最終消費財のみ課税されるべきである。そして、税率は一律であるべきだ。
7.資本所得(capital income)に課税してはいけない。
8.長期的な課税方法を考えた場合、最適課税は、過去の収入の歴史や現在の資産レベルに依存し、それらが労働収入と資本収入に対する課税方法に与える影響は単純ではない。
ふーむ。第三項はフリードマンの負の所得税、あるいはベーシック・インカムということになるんだろうか。しかしながら、政府税調の石光弘でさえ党税調との協調に失敗したのだから、最適税制というものは結論をひとつにできる性質のものではなく、税制改革は到底の努力を費やさなければ不可能である。その点、税制についてのモデルを考えるとなると火傷しかねないので、手をつけないほうが宜しいであろう。

Doepke and Schneider (2006)

Matthias Doepke & Martin Schneider, 2006. "Inflation and the Redistribution of Nominal Wealth," Journal of Political Economy, University of Chicago Press, vol. 114(6), pages 1069-1097, December.

This study quantitatively assesses the effects of inflation through changes in the value of nominal assets. It documents nominal asset positions in the United States across sectors and groups of households and estimates the wealth redistribution caused by a moderate inflation episode. The main losers from inflation are rich, old households, the major bondholders in the economy. The main winners are young, middle-class households with fixed-rate mortgage debt. Besides transferring resources from the old to the young, inflation is a boon for the government and a tax on foreigners. Lately, the amount of U.S. nominal assets held by foreigners has grown dramatically, increasing the potential for a large inflation-induced wealth transfer from foreigners to domestic households.

http://unrepresentativeagent.blogspot.com/2010/01/inflation-and-redistribution.html
Doepke and Schneider(JPE2006)は、一言で言うと、予想されなかったインフレによって得する人と損する人をデータから整理して、突然インフレ率がこの先10年5%上がった際、得する人と損する人が実際どのくらい得あるいは損するのか計算してみた論文である。インフレが異なる主体にどのように異なる影響を与えるか、というのは、閉鎖経済でのrepresentative agentとして国をモデル化する場合完全に無視されている要素であるが、その危険性を指摘した論文とも言えよう。

http://lagakos.faculty.asu.edu/~lagakos/teaching/ds_2006_5.pdf
まとめスライド(?)

2010/02/01

Hochberg, Ljungqvist, and Lu (2007)

Whom You Know Matters: Venture Capital Networks and Investment Performance
YAEL V. HOCHBERG, ALEXANDER LJUNGQVIST, and YANG LU
THE JOURNAL OF FINANCE VOL. LXII, NO. 1 FEBRUARY 2007

ベンチャーキャピタルのパフォーマンスがリレーションシップやネットワークの強さによって形付けられるらしい。さらに、良かれなネットワークを有しているベンチャーキャピタルのポートフォリオに含まれる会社は、その後の融資あるいは出口戦略まで生き残る傾向が強いようだ。

http://jp.techcrunch.com/archives/20090627the-top-100-networked-venture-capitalists/
著者らが過去のベンチャーの見返りを調べたところ、「ネットワークに優れたVC会社は、有意に優れた投資実績を得ている」ことがわかった。各社のポートフォリオにあった会社のうち、IPOまたは買収によってExitした会社の数を、成功の指標にしている。

この研究では、あるVC会社のネットワークの定義を、投資ラウンドで共同出資したことのある他の全VC会社数から成るとしている。共同出資者が多いほど、そのVCのネットワークは優れていることになる。そしてネットワークが多いほど、全体の見返りも大きい。VC会社のネットワークの大きさと、見返りの大きさとのこの相関は、契約案件や人材、アドバイザー、潜在顧客、見込みExitなどの情報へのアクセスと何らかの関係があるのかもしれない。

Arthur (1989)

Positive Feedbacks in the Economy
Journal article by W. Brian Arthur; The McKinsey Quarterly, No. 1, 1994.

どうやら限定合理性系の経済学者らしい。ダイヤモンド社から内容Quote.

伝統的な経済理論は、収穫逓減という前提の上に構築されている。経済活動においては、常に負のフィードバックが起こり、価格や市場シェアの変化は予測可能で、それらは必ず均衡につながる、というものだ。どのような大変化も、結局は自らに対する反応によって帳消しとなるために、この負のフィードバックは経済を安定化させる傾向がある。例えば、1970年代の石油価格の高騰は、省エネルギーや油田探査活動の強化を促して、80年代初めには「予測どおりに」石油価格の暴落を招いた。伝統的な理論によれば、均衡が、その状況下で可能な限り「最適」な結果、すなわち最も効率的な資源の利用と配分を定める。

Unquote.ここから先は本文を読んでね、というダイヤモンド社の魂胆だと思うが、収穫逓増の世界では逆のことが起こるということはKrugman論文等々によって確認済み。目新しい研究というよりはむしろ当時の最新経済学を実務家に講義しているイメージ。ちょっと実例をあげているのかな。