2009/12/31

新ハーバード流交渉術



色々ゴチャゴチャと書いてあるけれども、要するに交渉は対立じゃなくて協同作業だということみたいだ。第十章のペルーとエクアドルの国境紛争の例がわかりやすい。まず、相手方を理解し、そして価値観を理解していることを示す。敵意を振り払ったら、共通の土台を見つけて、最初のつながりを作る。相手のステータスによっては尊重したほうがよいこともあるので、そのような場合は先に行かせて後から入る。そして、自らの自律性を保つとともに、相手方の自律性を傷つけない。最後に交渉においては、自分の意見と相手の意見をぶつけていくのではなくて、みんなの意見(つまり自分の意見でも相手の意見でもない)を作っていかなければならない。以上の五つの点を抑えていけば、合意へと進めるのだろう。

で、交渉といえばWin-Winなのだが、これは交渉のひとつの結果であるにすぎなくなっている。国際取引演習の授業で交渉の七要素とか習ったけど、それをいまいち交渉で使えなかった。実験経済学の被験者で、Win-Winなペイオフ(それでいて自己利益が最大)を選択しても拒否された。というわけで、Win-Winの外にある要素が経済学には必要なんだろう。研究はされているらしいけど、その内容は知らん。

Matsuyama (1992)

Matsuyama, Kiminori, 1992. "Agricultural productivity, comparative advantage, and economic growth," Journal of Economic Theory, Elsevier, vol. 58(2), pages 317-334, December.

Lectured by Imrohoroglu...
-Higher agricultural productivity leads to faster industrial growth and thus to faster overall growth.
-Higher agricultural productivity enables the economy to allocate a larger fraction of its labor force to the knowledge-producing sector, which is manufacturing.
-The striking result in this case is that the implications of the closed and the open economies are very different.
-Higher agricultural productivity, in the presence of international trade, can lead to delayed industrialization or even to de-industrialization, rather than being the source of rapid industrialization as in the closed economy.
-specialization according to comparative advantage may have negative long-run consequences in the presence of sector-specific externalities.

Rosenzweig and Schultz (1983)

Rosenzweig, M.R. and T.P. Schultz.,(1983) “Estimating a Household Production Function: Heterogeneity, the Demand for Health Input, and Their Effects on Birth Weight”, Journal of Political Economy.91-5:723-746.

出生児の体重を被説明変数にして、早生まれとか喫煙とかを説明変数。モデル設定はよくわからん。効用関数と子供の健康の関数と財の需要関数があるみたいだ。まあ、これもGMMで解きますよってか。

Rosenzweig and Wolpin (1980)

Rosenzweig, Mark R & Wolpin, Kenneth I, 1980. "Life-Cycle Labor Supply and Fertility: Causal Inferences from Household Models," Journal of Political Economy, University of Chicago Press, vol. 88(2), pages 328-48, April.

Rosenzweig and Wolpinは共同論文をいくつか書いているらしい。アッー
子供の数が一人か二人、その母親が働くか働かないか。で、子供の数が増えることによって、労働意欲が増すかどうかというと、条件付き期待値が説明変数である子供の数に影響されてしまうので、単純には計算できないのだとか。というわけで、双子のデータを操作変数にしたが、正確には高齢女性やアフリカ系女性が双子を産みやすいとするファクターが存在している。

Hansen and Singleton (1982)

Hansen,L.P. and K.J.Singleton, "Generalized Instrumental Variables Estimation of Nonlinear Rational Expectation Models," Econometrica, vol.50, No.5, pp.1269-86, ERRATA, vol.52, pp.267-8.

http://web.econ.keio.ac.jp/staff/ito/pdf00/GMM.pdf(日本語解説)
http://www.uh.edu/~bsorense/GMM1.pdf
ふむふむなるほど全然わからん。
動学的最適化問題からオイラー方程式を導いて、期待値と実現値の差を誤差項とする。誤差項の期待値がゼロということをモーメント条件式としてパラメータをGMM推定。・・・ということで、いいのかな?どうせ推定結果のパフォーマンス悪いんだろ。

2009/12/27

Jaimovich and Rebelo (2009)

the American Economic Review: Vol.99, No.4 Sep. 2009
Title:”Can News about the Future Drive the Business Cycle?”
Auther: Nir Jaimovich & Sergio Rebelo

http://www.aeaweb.org/annual_mtg_papers/2007/0106_1430_0904.pdf

概要は
http://www.shiromage.com/?cat=11
今回のこの論文は「将来に関するニュース」をショックにし、3つの特徴をモデルに導入すると「とってもいいモデルになりましたよ!」というのが売りなのです。この論文においては「数年後に技術進歩が大きく発展するニュース」をショックとし、1.資本活用の柔軟性(ニュースを受けて投資を変更することが、どれくらいの割合で可能か:柔軟性)、2.調整コスト(ニュースを受けて行なう様々な調整にどれだけ費用がかかるか)、3.労働供給に対する短期の富効果(短期において、所得や資産の増減が労働時間に与える影響)、の3点を重要な特徴として分析しています。結論から言えば、このセッティングは功を奏し、うまく”the Business Cycle”を再現できました。

http://unrepresentativeagent.blogspot.com/2009/11/news-shock.html
(1)投資が今から増えるように投資の調整コストを入れた。調整コストがあるといっぺんにたくさんの投資をするよりゆっくり長期にわたって投資をしたほうが安上がりになるので、ニュースがあれば今の時点から投資を増やすincentiveが生じる。(2)income effectが存在しないutility functionを使った(いわゆるGHHタイプと呼ばれるやつ)。これで、消費と余暇時間の増加を消すことができる。(3)資本のutilizationの程度を調整できるようにした(variable capital utilization)。これによって生産がニュースに強く反応するようになるとintroductionでは書いてあるけど、もっとちゃんと読まないとロジックはわからない。

2009/12/14

縦列駐車の完璧な公式

http://personal.rhul.ac.uk/uhah/058/perfect_parking.pdf

だが、ちょっと待って欲しい。
横車を押せば公式が変わるのではないか。

2009/12/08

ガンダムごっこに関する研究(その2)

nii.ac.jp

ガンダムごっこに関する研究(その2)―ガンダムごっこについての闘いの構造
Japan Society of Research on Early Childhood Care and Education

1983年の幼稚園児・・・。

2009/11/21

Rossi-Hansberg and Wright (2007)

Establishment Size Dynamics in the Aggregate Economy
By Esteban Rossi-Hansberg and Mark L. J. Wright
American Economics Review

産業別に産業特殊的な人的資本を蓄積するとして、各産業の中では利潤最大化企業の参入退出があって、各企業は中間財を生産する。消費者は中間財を組み合わせて最終財として消費する。そうしたときに、各企業の成長率と退出率は企業規模が大きいほど小さくなり、その企業規模の分布は人的資本の影響が少ない産業ほどテイルが薄くなっていると考えられる。

2009/11/19

Hornstein (1993)

Hornstein, Andreas, 1993. "Monopolistic competition, increasing returns to scale, and the importance of productivity shocks," Journal of Monetary Economics, Elsevier, vol. 31(3), pages 299-316, June.

Notes
CES型関数で差別化された財を収穫逓増な独占企業で生産する。家計は財の消費と余暇を効用とする。一階条件は簡単に解けるので、あとは電算機の仕事。

2009/11/04

ロジカル面接術

訴えるべきは「私は御社に貢献できます」であり、その手段として「私は能力があります」と「私は御社と方向性が同じです」があるようである。したがって、自己PRと志望動機はそのように書くべきであり、伝えるべきである。

2009/11/02

Five political risks to watch in Japan

http://twitter.com/finalvent/status/5363018595
-歳出削減と支出膨張
-中央銀行の独立性
-安全保障の緊張
-円高問題
-政治家と官僚の関係
http://www.reuters.com/article/politicsNews/idUSTRE5A111A20091102?pageNumber=1&virtualBrandChannel=0&sp=true

弱者の兵法

「組織はリーダーの力量以上には伸びない。」
メンバーがついていきたくなるリーダーでなければならず、リーダーもメンバーの身になってチーム育成を考えなければならない。リーダーがメンバーのやることを決めるよりは、メンバーそれぞれが考えるようになればよいわけで、そのためには色々とコーチングを工夫する必要がある。

まずは吸収欲のある状態でないとコーチングの意味はない。しかし、積極的に学びたがっている場合には、具体的な方法論を教えなければならない。自分の経験としてどのように対処したか話すとともに、学び手の特徴にあった個別的アドバイスを付け加えるとよいらしい。

2009/10/26

坂の上の雲 (1)




NHKドラマ化に向けて読んでみる。大まかな流れは単行本で予習してドラマを楽しもうと思う。

主人公は秋山兄弟と正岡子規の三人。いずれも愛媛出身。秋山好古は大阪師範学校を経て、陸軍士官学校へ。プロシア勝利の中、フランスに留学。やがて騎兵を率いてコサック師団を倒すこととなる。秋山真之は共立学校で英語を学んだ後、大学予備門を中退して、海軍兵学校へ。やがて参謀としてロシア海軍を倒す。正岡子規は真之と予備門まで一緒であり、帝国大学文科大学(のちに退学)へ。升(のぼる)さん。吐血の経験から子規と号する。俳句文化に貢献。

共立学校(のちの開成高校)の英語教師が高橋是清。予備門(のちの一高)の同級が夏目漱石、山田美妙、尾崎紅葉、寺石正路、米山保三郎。同じ愛媛出身に高浜虚子。

ワインがあるので日本に来たドイツ軍人メッケルの言葉「戦いは、出鼻で勝たねばならぬ。」は宣戦布告と先制攻撃を同時に行なうものであったが、日本軍はこれを濫用し名物になったという。

好古の「質問の本意をきかずに弁じたてるというのは政治家か学者のくせだ。軍人は違う。軍人は敵を相手の仕事だから、敵についてその本心、気持、こちらに求めようとしていること、などをあきらかにしてから答えるべきことを考える。そういう癖を平素身につけておかねば、いざ戦場にのぞんだときには一般論のとりこになったり、独善におちいったりして負けてしまう。」という言葉は示唆に富む。

真之の「これが過去五年間の試験問題だ。教官というものは癖があって、必要な問題はたいていはくりかえして出す。それにあわせて、平素から教官の顔つきや説明ぶりをよく観察してその特性をみぬいておけ。その二点を合わせ察すればおのずからなにが出るかということがわかる。試験は戦いと同様のものであり、戦いには戦術が要る。戦術は道徳から解放されたものであり、卑怯もなにもない。」という言葉は参考にしておこう。

参考になりそうなサイト
http://www.sakanouenokumo.jp/

14 fourteen

モデルは酒鬼薔薇聖斗であるが、あの事件の報道は酷いものであった。小説では、少年が独自の世界観を有するに至り、その中二病ゆえに現実世界を変えようとしたのであった。この少年が住む世界は我々の世界とは違うのであり、我々ひとりひとりの世界もまた違う。

やりたいことがないヤツは社会起業家になれ

そりゃーやりたいことがなければ、社会貢献したくなると思うさ。マズローの欲求階層を超えた欲求があるとすれば、他者実現欲だろう。しかし、重要なのはビジネスモデルであって、これがなかなかネックである。著者の山本繁だって、バイトとかベンチャー支援でなんとか食い繋いでいる。レベニューを出すには山本繁以上に頑張る必要がある。小学生のときから不況社会の我々が何をできるのだろうか。

2009/10/25

日本人に一番合った英語学習法

斉藤兆史と書いて「よしふみ」と読むのは初めて知ったが、英語の先生である。英語学習法は概して三種類あるようである。第一に、幼少期に英語圏に行ってしまうことである。これは英語がネイティブ並みなるが、日本語が逆に不自由になってしまう。第二と第三はコミュニケーション重視と文法重視である。概して、コミュニケーション重視は文法軽視の裏返しであり、英語を話してきた日本人が素読・暗唱・文法・多読によって学習してきたことに反するという。一方、英語以外に一芸があれば、英語自体はそこまででなくても、コミュニケーションに不自由しない。

2009/10/24

「法と経済」からみた中央銀行

「法と経済」からみた中央銀行
2009年10月21日 白川方明日銀総裁

低金利低インフレからバブルが発生してしばらくすると、バブルの限界がきてサブプライムショックが発生、証券化商品価格が下落したおかげでリーマンショックが発生、信用収縮が一気に起きて資金の貸し手が不在になった。そこで日本銀行は金利を低くして、担保を外国債まで広げて円やドルの資金を潤沢に供給し、CPや社債を買い入れ、ドル市場の安定のためにスワップを実施した。

日本銀行の業務は第一に通貨の安定であり、偽札の防止や物価の安定を頑張っている。中央銀行は信認が不可欠であるため中央銀行自身が努力しなければならない。通貨の安定は、法令や行政命令ではなく取引を通じて行なうものである。中央銀行で働くことは、パブリックな仕事であり、幅広い知識の重要であり、実務が重要であり、組織で仕事をすることが意義深く、変化への柔軟な対応の重要性である。

流動性と決済システム

2008年11月26日の白川方明日銀総裁の講演によれば、流動性に関する論文を欲しているらしい。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0811f.htm

「経済活動の変動を理解するうえで、流動性という概念は極めて重要であり、我々は流動性についてもっと研究を深める必要があるということです。近年、マネタリー・エコノミックスの世界では、ニュー・ケインジアン経済学に基づく論文が非常に増加しています。これらの研究は金融政策の運営に関し我々に様々な洞察を与えてくれましたが、資金流動性や市場流動性など、流動性を明確に意識した分析は、行われてきませんでした。しかし、流動性が突然過剰になったり、逆に突然枯渇するといった現象について十分理解することなしには、マクロ経済を分析することはできなくなってきています。幸い、最近では、流動性に関する研究は限界効用の高い分野であることが強く意識されるようになってきており、流動性に関する研究成果も多くみられるようになりました。」とのことである。

マネーサーチを勉強する研究者の方々には政策インプリケーションへの貢献を強く願うのである。

2009/10/23

Palacios-Huerta (2001)

Ignacio Palacios-Huerta, 2003. "Professionals Play Minimax," Review of Economic Studies, Blackwell Publishing, vol. 70(2), pages 395-415, 04.

ペナルティキックでキッカーとゴールキーパーが左右の意思決定を行なうゲームを考える。そのとき勝率をペイオフとしたときの混合戦略ナッシュ均衡を解いてやると、実際の意思決定の割合とほぼ等しかった。したがって、サッカー選手はミニマックス戦略をとっているのだ、というような論文。いまいちこの論文の凄さがわからなかった。

2009/10/13

大野(1978)

大野耐一(1978)『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして』ダイヤモンド社。

古きよきトヨタが生産性向上を達成したのがよくわかる。かつてアメ車の向上の生産性は日本の9倍だったらしい。そこでトヨタは人間の能力をフル回転させることにした。待ち時間とか不良製品とか在庫管理とか労使ともに不幸な要素を徹底的に吐き出すのがトヨタ式である。小生が着目するのは、熟練労働をマニュアル化することで、非熟練工にも多能工として働けるようになることである。待ち時間も不良製品も在庫管理もゼロにしてしまえばそれ以上の改善は見込めない。ただ、労働生産性は上げ続けることができるはずである。そのためには生産財の発展のみならず、工員のノウハウ蓄積が不可欠と思われる。マニュアルを作ることによって、ノウハウ伝達のコストが大幅に下がったのではないかと推測している。これによって、過去の先端が現在で常識になるのである。

2009/10/10

Remember the Titans (2000)

飛行機に乗っている間に映画を見ていたのだが、高校で見せられた映画があったので選んでしまった。

昭和の頃のアメリカ、白人高校と黒人高校が統合されるとともに、フットボールチームも統合することになった。予想される通り、人種間の価値観の違いを乗り越えて州大会優勝といったところである。チームスポーツということもあるが、ユナイトしていない組織というのは力を発揮しない。金卵みたいに、アメフトは「うりゃー」と言っていればなんとかなるもんだと思ってた。

Roubini and Setser (2005)

Nouriel Roubini and Brad Setser (2005) "Will the Bretton Woods 2 Regime Unravel Soon? The Risk of a Hard Landing in 2005-2006," mimeo.

2000年代前半のアメリカは経常赤字を大量に拡大していった。それにもかかわらず、ドル安によって調整されず、アメリカの大きな経常赤字と他国の経常黒字という国際収支の不均衡が大きくなっていった。これには日本や中国による為替介入も大きく関連しており、米国債の大量購入によりドルは買い支えられていた。これによって世界の通貨は固定相場的となったため、新しいブレトンウッズ体制とみなされた。これを新ブレトンウッズ体制あるいはBW2という。この新ブレトンウッズ体制では、国際収支の不均衡という不自然な状態が維持されており、ソフトランディングあるいはハードランディングが不可避と言わざるを得なかった。

2009/10/09

Okuribito (2008)

死生観が漂う味わい深い作品である。主人公は色々あって田舎で死化粧を職業とすることになった。で、納棺師は死と接しており、死を人生におけるゲートと認識するだが、被差別な職業だとは思いもしなかった。妻の広末が主人公の本木に対して、明らかなる嫌悪感を丸出しにしていた。映画が描写している世界と自分との認識のズレを感じた。

最初に世界の時間軸があって、そこに偶然ひとりひとりの生の線分が存在している認識が自分にはある。実際の世の中が、死を穢れた存在として扱っているのか、あるいは悲劇の瞬間として扱っているのかよくわからない。経済学には自殺の経済学があるらしいが、どうやらその実証研究を行なっていた女性がいるようである。死生観の哲学的考察についてはショウペンハウエルが行なっていたような気がするものの、古典の邦訳は目が痛くなるので読むのはまっぴらごめんである。

Ghosts of Girlfriends Past (2009)

いわば○○○ンの物語であるが、その師匠である叔父さんがあり難い教えを遺している。ターゲットは直接見ずに、鏡を使う。ターゲットに目を付けたら、直接話さずに取り巻きに話しかけてみる。向こうからホイホイついてきたら、首から上を二回褒めてみる。んで、思い切りけなす。そしたら、お手の物らしい。

Yeaple (2005)

Stephen Ross Yeaple (2005) "A simple model of firm heterogeneity, international trade, and wages," JIE.

授業で聞いた話だと、Melitzモデルの拡張だった気がする。ホモ財とヘテロ財に分けて、ヘテロ財をさらに高スキル財と低スキル財に分ける。技術競争のために高スキル財のみ輸出可で、ホモ財は低スキル財産業でも吸収できない低スキル労働者の雇用を吸収する。つまり、スキルの差は企業そのものというよりは労働者のほうにあって、高スキル労働者が集まって高スキル財産業を形成し、低スキル労働者が集まってホモ財産業を形成し、それ以外が低スキル財産業を形成したと考えてよいだろう。そして、企業の生産性は労働者のスキルの関数となっている。この論文では、貿易を通じて高スキル財産業の賃金が上昇するとともに、低スキル産業の賃金が低下することを示し、さらに貿易を通じて生産性が成長すると結論したようである。

まとめスライドも発見した。

2009/10/06

Blanchard and Weil (2001)

Blanchard, Olivier and Philippe Weil (2001) "Dynamic Eciency, the Riskless Rate, and Debt Ponzi Games under Uncertainty," Advances in Macroeconomics.

基礎的財政収支が均衡しているとしても、債務残高の国内総生産比の推移を簡単には一意に予想できないということである。経済成長率が利子率より高くても比率が危険水準に達することもありうるし、利子率が経済成長率より低くても比率が限りなくゼロに近づくこともありうる。
成長率がランダムだから、債務残高の国内総生産比はグニャグニャに動く。が、分布によってはバイアスがかかった状態で動く。

2009/09/22

Melitz (2003)

Marc Melitz. 2003. “The Impact of Trade on Intra-Industry Reallocations and Aggregate Industry Productivity.” Econometrica v. 71 no. 6, pp. 1695-1725.

CES型効用関数と収穫逓増に加えて、企業における技術のバラツキと参入退出を仮定した超重要モデル。

国際経済学に関して以下の事実を説明した。
企業の異質性としては、次のようにまとめられている。
事実1:輸出企業は企業全体から見ればごく一部である。
事実2:輸出企業は非輸出企業よりも規模が大きく生産性が高い。

貿易自由化による影響は、次のようにまとめられている。
事実3;大規模で生産性が高い企業が輸出によって生産を拡大する。
事実4:小規模で生産性が低い企業は市場から撤退している。
事実5:セクターレベルの生産性は向上している。

てって研究所企業の生産性の異質性と貿易

2009/09/21

Conger (1998)

Jay A. Conger (1998) "The Necessary Art of Persuasion," HBR.

説得のステップ
(1)信頼を確立する。
(2)相手と見解が一致するところに目標を設定する。
(3)わかりやすい言葉と事実に基づき、そのような見解に至った論拠を明らかにする。
(4)聞き手と感情的に繋がる。

失敗する説得
(1)自分の意見をゴリ押しする
(2)妥協を拒む
(3)説得の秘訣は優れた議論を展開することと誤解する
(4)説得は一回すれば十分と考える

Manzoni and Barsoux (1998)

Jean-Francois Manzoni and Jean-Louis Barsoux (1998) "The Set-Up-To-Fail Syndrome," HBR.

上司による自主性の剥奪・過小評価と部下自身の自信喪失・受動的行動が負のスパイラルをなすことがある。能力の無い部下に任せられないと思って、上司が部下のやることを全部決めていると、部下は信頼されていないと思うとともに、自分の能力を疑って自発的な行動をとらなくなる。

仲裁をするためには、
(1)上司は議論のための適切な環境作りをすべきである
(2)仲裁を意見一致までのプロセスとして利用すべきである
(3)低調な業績の原因が何かについて共通の理解に至るべきである
(4)業務目標と今後の関係を発展させるための互いの考えを合意させる
(5)上司と部下は将来もっとざっくばらんに話し合うことで合意する
が必要だが、必ずしも仲裁が最善の解決策とは限らない。

したがって、予防が最重要であって、
上司は上述のような異変の存在に気づき、自分がその問題の一部である可能性を認め、
明確に、問題に的を絞った仲裁の労をとることが必要である。

Livingston (1982)

J. Sterling Livingston (1982) "Pygmalion in Management," HBR.

ピグマリオン効果は次のような事実でまとめられているらしい。
(1)マネジャーが部下に何を期待し、またどのような扱い方をするかによって、部下の業績と将来どれだけ昇進できるかはほとんど決まってしまう。
(2)優れたマネジャーの特質とは、高い業績を達成できるという期待感を部下に持たせる能力のことである。
(3)無力なマネジャーはこうした期待感を持たせることができず、その結果、部下の生産性も向上しない。
(4)部下は、自分に期待されていると感じていることしかやらない傾向が強い。

Goffee and Jones (1996)

Robert Goffee and Gareth Jones (1996) "What Holds the Modern Company Together?," HBR.

交流と結束を評価軸にして企業文化を四つの型に分類する。
ネットワーク型は交流は多いが、結束は弱い。
共同体型は交流は多く、結束は強い。
分裂型は交流が少なく、結束は弱い。
傭兵型は交流は少なく、結束が強い。

それぞれの企業文化の型は成功の鍵のひとつとなる。

2009/09/19

Takeuchi and Nonaka (1986)

Hirotaka Takeuchi, Ikujiro Nonaka (1986) "New New Product Development Game," HBR.

日本企業(富士ゼロックス、キヤノン、ホンダ、日本電気、エプソン、ブラザー)と米国企業(3M, Xerox, IBM, Hewlett-Packard)の事例を示した上で、新製品開発の業務の進め方はリレー形式よりはラグビー形式が望ましいと論じている。つまり、

(a)トップは大まかな挑戦的目標をプロジェクトチームに丸投げし、
(b)そのチームにおいては、自分で決められる自律性、限界を超えての挑戦魂、異分野共同の特徴があり、
(c)時系列的な仕事をリレー的に引き継ぐのではなく、オーバーラップした引継ぎ期間を設けており、
(d)各階層各部門での学習があり、
(e)創造性を殺さずに自発性を重んずる管理があり、
(f)ひとつのプロジェクトにおける学習成果は他のプロジェクトに伝達される

という特徴があるというのだ。

スクラムの元になった資料 - [ハーバードビジネスレビュー] New New Product Development Game

2009/09/12

Jensen and Miller (2008)

Jensen, Robert T., and Nolan H. Miller. 2008. "Giffen Behavior and Subsistence Consumption." American Economic Review, 98(4): 1553–77.

ギッフェン財をはじめて実証したかもしれない論文とされる。消費モデルとしては栄養に着目する。パンは低予算で高カロリーを得たい。食肉は美味しいので食べたいが、支出に対するカロリーはできるだけ抑えたい。こうした2財をベーシック財とファンシー財と呼ぶ。

このとき、貧困者がパンの価格高騰に直面したことを考えよう。このとき、食肉の消費を増やしたいかもしれないが、カロリーが減ってしまうので増やすことができない。ゆえに、パンの消費を増やすことになる。

こうした観点から中国の貧困層を狙って社会実験をした。湖南ではコメがギッフェン財的であり、甘粛ではコムギがややギッフェン的である、という結果が得られたようである。

2009/09/05

Dixit and Stiglitz (1977)

Monopolistic Competition and Optimum Product Diversity
Avinash K. Dixit; Joseph E. Stiglitz
The American Economic Review, Vol. 67, No. 3. (Jun., 1977), pp. 297-308.

規模の経済が働いているとき、色々と仮定を置かないと単純化できない。第一に、完全競争では赤字となるので、結局は独占競争プライシングとすべきである。第二に、一財の集中消費よりは多財のバラエティ消費のほうが満足できるはずなので、無差別曲線は凸性を持っていなければならない。

CES関数は色々と便利な性質を持つ。最適解は所得に比例するので、所得分布がどんな形であっても集積することができる。代替の弾力性がセクター毎に異なると、いずれかのセクターを集中消費する複数均衡が生まれる。

2009/08/31

安場保吉

安場経済学の意義とその背景

開発経済学で結構重要な先生。
安場先生のご研究は経済発展の理論的・実証的・比較経済史的研究に関わる,きわめて幅の広いものである。たとえば,アメリカにおける出生率の研究や米国奴隷制の研究はアメリカ経済史に大きな影響を残した。また,わが国で数量経済史(Quantitative Economic History)と呼ばれる分野における,戦前日本の生産指数や統計の信憑性の検討,日本経済の二重構造に関する考察,海上輸送と工業化についての研究等は学界の財産となっている。安場先生は1970年代からアジア諸国の経済発展にも関心を持たれ,この分野でもパイオニアとなられた。その上で,安場先生はその著書『東南アジアの経済発展:経済学者の証言』(ミネルヴァ書房,2002年11月刊)において,ご自分の立場を「新古典派ラディカル政治経済学」とまとめられた。

2009/08/29

Krugman (1994)

Krugman, Paul (1994) "Competitiveness- A Dangerous Obsession," Foreign Affairs.

製造業の衰退は消費構造の変化であり、貿易赤字のせいではない。
国際貿易はプラスサムであり、国ごとに競争するものではない。
参照→kuma_asset

Shin (2009)

Shin, Hyun Song (2009) "Financial Intermediation and the Post-Crisis Financial System," mimeo.

証券化は信用リスクを分散させるものであり、金融仲介が長いほど短期貸しと長期借りのギャップを埋めることができるとされていた。しかし、今回の金融危機はそれ以外の可能性を指摘した。証券化はレバレッジのかかったセクターにリスクを集中させた。短期債券は金融仲介業での貸し借りが大きく膨らんだ。金融仲介業同士は大きく絡み合うようになった。金融仲介の鎖が長くなることで、レバレッジの倍率とバランスシートの大きさが膨らんだが、鎖は短いほうが金融システムは安定的になる。

2009/08/24

Buera and Kaboski (2009)

Buera, F. J. and Kaboski, J. P. (2009), The Rise of the Service Economy, NBER WorkingPaper 14822.

原点から正の無限大までにサービスを配置して、パラメータが小さいほど簡単なサービスで大きいほど複雑なサービスとする。サービスは家庭で作り出すか、市場から調達するか選ばれ、工業製品はサービスに付随して消費される。家庭で作り出されるサービスはカスタム化可能なので高い効用が得られる一方、市場のサービスは低いコストで調達できる。

所得が上昇するにしたがって、より複雑なサービスが消費されるようになり、最初の段階では家庭ではなく市場から安く調達される。経済全体の生産性成長にしたがって、コストよりも効用のほうが重要になり、市場から家庭へと消費がシフトする。したがって、サービス財を消費せず→市場サービス財を消費する→家庭サービス財を消費する、というプロダクト・サイクルがみられる。一方で、低スキル労働者の世代が高スキル労働者に置き換わると、機会費用の関係で、家庭サービス財から市場サービス財へと消費行動が変わる。

この論文では、三つの事実をモデル化した。第一に、サービス財の消費が増え、GDPにおけるサービス部門の割合が60%から80%に増えたこと。第二に、低スキルなサービス業が衰退する一方で高スキルなサービス業が25%も増え、スキル集約的なサービス財の量と対価が増えたこと。第三に、大卒の給料と高卒の給料の比が125%から200%に増えたこと。

2009/08/19

Antras et al. (2006)

Antras, Pol, Luis Garicano, and Esteban Rossi-Hansberg, 2006. "Offshoring in a Knowledge Economy," The Quarterly Journal of Economics, MIT Press, vol. 121(1), pages 31-77, 02.

Model
様々なスキルをもつ人々がチームを組んで問題解決という生産活動をする。各チームはひとりのマネジャーとマネージャーのスキルに対応した労働者が就く。コミュニケーションコストが小さいほど多くの労働者で厚生可能である。
開放経済においては市場としてNorthとSouthを考える。SouthはNorthよりもスキルの上限が低い。SouthがどれほどNorthのスキルに追いついているかというパラメータとしてOverlapを設定する。Overlapにより均衡が二種類現れる。Southがすべて労働者になるLow Quality Offshoring EquilibriumとSouthにもマネジャーが残るHigh Quality Offshoring Equilibriumである。Communication costとOverlapが低いときLQEとなり、高いときはHGEとなる。

Globalizationの影響
LQEなときにはNorthの賃金格差が広がり、HQEなときには賃金格差は小さくなる。Northにおける限界収入はskillが高ければ増えるが、低ければ減る。

LQEなときにはSouthの低スキル労働者の賃金が上昇し、HQEなときには賃金は下がる。LQEなときにはNorthの低スキル労働者の賃金が下がり、HQEなときには賃金が上がる。最低水準のスキルを持つ人々は賃金が下がる。

Communication Costの低下
悪いマネジャーが労働者とうまく仕事ができる一方で、良いマネジャーが労働者とマッチしなくなる。労働者におけるスキルのバラツキが増えることによって、賃金格差が広がる。収入のベースラインは何の話なのかよくわからん。

Skill Overlapの増加
限界収入のバラツキが減る。収入のベースラインは上がる。労働者におけるスキルのバラツキが増えることによって、賃金格差が広がる。

2009/08/18

Iversen and Wren (1998)

Iversen, Torben and Anne Wren (1998) "Equality, Employment, and Budgetary Restraint: The Trilemma of the Service Economy," World Politics, July 1998.

1960年代まで製造業が雇用の中心だった。経済成長によって、必需財から工業製品へと需要が移り変わり、エンゲルの法則が働いた。さらに、生産性の向上から相対価格が下がり、マテリアル財(テレビ、家、車、家電など)の潜在的ニーズが満たされるに至った。製造業が経済成長を牽引し、雇用を吸収するとともに、実質賃金を引き上げたと言って良い。

1970年代後半以来の20年間で経済構造は大きく変化した。国際化によって政府の役割が限定的になるとともに、新興国が低賃金労働力を供給するようになった。賃金格差と失業の発生は公共部門の拡大によって緩和できるかもしれないが、財政規律との両立は難しい。

工業製品自体も市場全体に行き渡り、量より質が求められるようになった。工業製品の需要が伸び悩む代わりに、サービス財へと需要がシフトした。そして、サービス部門が成長の源泉となるに至っている。ところが、サービス部門自体は生産性の向上の余地がなく、雇用が拡大しているところは低賃金となる。公共部門で高賃金の雇用を確保することは可能だが、財政への負担となる。以上がサービス経済のトリレンマとなる。

エスピンアンデルセンの福祉国家レジームによってトリレンマにおける位置づけを分類できる。自由主義国家においては財政規律と雇用を重視する。保守主義国家においては財政規律と平等賃金を重視する。社会民主主義国家においては雇用と平等賃金を重視する。

Hicks(1937)

Hicks, John R. (1937) "Mr. Keynes and the 'Classics'; A Suggested Interpretation," Econometrica, Vol. 5, No. 2 (Apr., 1937), pp. 147-159.

Hicks(1937)はKeynesの一般理論をIS-LMモデルへと昇華させた。従来の新古典派のモデルでは、 I(Yf, i)=S(i), M=kYとなる一方、Keynesモデルは、I(i)=S(Y), L(i)=Mとなっている。新古典派では所得は完全雇用水準であり、 貨幣量との間に貨幣数量説が成り立って、貨幣の中立性が保たれる。このHicksに書き改められたKeynesモデルが初期のIS-LMモデルである。縦軸に利子率、横軸に所得をとれば、二つの関係式をIS曲線とLM曲線として図示することができ、経済を簡易に表現できるようになった。このIS-LMモデルを原型にマクロ経済学が発展したわけである。

Blanchard and Perotti (2002), Mountford and Uhlig (2005)

Mountford, Andrew and Harald Uhlig (2005) "What are the Effects of Fiscal Policy Shocks?," SFB 649 Discussion Paper 2005-039.
Blanchard, Olivier J. and Roberto Perotti (2002) "An Empirical Characterization of the Dynamic Effects of Changes in Government Spending and Taxes on Output," Quarterly Journal of Economics, Vol. 117, Issue 4 (Nov., 2002), pp. 1329-1368.

Mountford and Uhlig (2005)は、構造VARの枠組みで政策ショックを適当に識別し、 1955年から2000年におけるアメリカの四半期データを分析した。重要なインプリケーションは以下の4つである。第1に、予期されない減税が最も高い乗数効果で経済を刺激する点である。ただし、減税分の財源は国債で補われる。第2に、政府支出乗数が低い点である。 従来型のIS-LMモデルでは、増税を伴わない国債を財源とした財政出動が、減税よりも乗数が高い。ところが、この実証分析では減税のほうが効果的であったのである。第3に、財政支出は利子率を上げることなく、投資をクラウディングアウトする点である。従来型のIS-LMモデルでは、政府支出は利子率の上昇を通じて民間投資を阻害していた。第4に、財政政策の結果を分析する際には景気変動ショックの制御が課題となる点である。

 MU論文において、政府支出と政府収入の定義はBlanchard and Perotti (2002)に依拠していた。 MU論文は景気変動ショックによって、景気による財政政策の影響を考慮している。 MU論文とBP論文を比較すると、共通点として増税でも財政出動でも投資が減少する現象が観測されている。 また、財政出動の影響として、 BP論文では民間消費が増加するが、 MU論文でも民間消費に大きな影響を与えない。民間消費が減少しないことは RBCモデルと合致しないし、民間消費が増加しないことは従来型のIS-LMモデルと合致しない。そして、減税の効果が、財政出動の効果よりも大きかった。

 MU論文とBP論文における乗数効果をまとめる。財政支出乗数は、MU論文もBP論文も小さい。減税乗数は、 MU論文で大きな効果を発揮する一方で、BP論文はやや弱い影響であった。

Romer and Romer (2007)

Romer, Christina D. and David H. Romer (2007) "The Macroeconomic Effects of Tax Changes: Estimates Based on a New Measure of Fiscal Shocks," NBER Working Paper No. W13264.

Romer and Romer (2007)によれば、政策ショックを外生的に識別することで、減税乗数が大きいという結論を導いている。 RR論文の発見は6つ挙げられる。第1に、減税乗数の大きさである。減税乗数は約3であり、きわめて大きい乗数効果を生じる。第2に、政策ショックの識別である。既存の研究では税収から景気循環による影響を考慮して識別していたが、RR論文では公式文書を基に識別している。その結果、既存の研究よりも高い乗数が算出された。第3に、投資が増税によって減りやすいことである。減税乗数の大きさも、 投資への影響力で説明可能である。第4に、減税の効果が持続性を持つことである。すなわち、物価上昇率や失業率を見る限り、減税によって生産水準が持続的に引き上げられ、物価水準に大きな影響を及ぼすことはない。第5に、政治家による増減税は景気安定化に失敗している。景気安定化のためには、 好況時には財政黒字、不況時には財政赤字が教科書的である。しかし、景気回復の最中に増税をするような政治家は稀有である。第6に、恒常的(inherited)な財政赤字を解消するための増税は他の理由による増税よりも生産水準の引き下げる影響は小さい。財政再建路線が長期利子率を低く抑えるからであると言える。

2009/08/17

Refuted economic doctrines (in Japanese)

ざっとメモ。細かい内容はよくわかんない。

#1: The efficient markets hypothesis
EMHでは市場がすべてを織り込むとしていたが、過去のチャートから将来を予測することはできないという意味ならばまだしも、市場がすべてを織り込むとするのには実証研究が否定的であるし、それにバブルなんて起こるはずもない。EMHが否定されている以上、市場は政府よりも優れている点も劣っている点も持っている。混合経済が計画経済とレッセフェールのどちらよりも望ましいということになる。

#2: The case for privatisation
民営化は政府事業の切り売りによって財政を健全化するとともに事業の効率化が実現できるという意味と、政府では実現しえない効率的な資本配分を達成するという意味があった。とはいえ、これは市場が機能しているということが前提である。
株式のリターンのほうが債券のリターンよりも高いという株式プレミアムパズルというのがあって、EMHの通りに株式市場は経済を反映しているので株式リスクではなく経済リスクを反映しているからという理由と、単に債券に流れないようにプレミアムを乗せるためという理由が考えられた。しかし、EMHの崩壊でこれらの理由はパァになった。

#3: The Great Moderation
21世紀初頭の世界的な超安定成長(The Great Moderation)は金融政策ツールの向上だとか自由主義の恩恵だとか色々と理由付けはされていたものの、急に消滅してしまった。

#4: individual retirement accounts
年金運用が溶けまくりである。いわゆる安全資産が実はジャンクということもあったし、財務アドバイザーも役に立たず、株式は長期的投資に向くとかいうのもウソだった。やり方を変える必要があるだろう。会社ごとの確定拠出型年金を連携させてもよいし、国家的な老年年金でもよいだろう。年金改革は必要不可欠である。

#5: Trickle down
富裕層を伸び伸びさせておけば経済全体に恩恵が降ってくるというのがトリクルダウン理論であった。たとえば、PE企業などによる株式売買が資本配分を効率化させるし、クレジットカードの充実で生活を楽しむことができる上に将来所得や株価・不動産価格の上昇期待から一時的な所得変動を乗り越えることができるし、富裕層向けの贅沢品などの産業が発展して雇用が発生するということになる。ところがバブル崩壊で金融サービスの虚構とか家計の破綻とかが現れるようになってしまった。

#6: Central bank independence
中央銀行の独立性によって、均衡財政と中央銀行による金融政策を両立させていたが、危機時において中央銀行の金融政策に財政ファイナンスが必要となる。

#7: New Keynesian macroeconomics(himaginary)
New Keynesianの中心テーマは、Old Keynesianにミクロ的基礎付けがないとするマネタリストや新しい古典派の批判を需要面で応えるという必要性であった。不完全競争の世界を仮定して、価格硬直性から生まれる小さな景気変動がその一例である。New Keynesianは新しい古典派のような自由競争論に対する反駁である。k%ルールや均衡財政ではなく、中央銀行の利子率操作やビルドインスタビライザーな財政政策といった中期的なマクロ政策を正当化する理論的枠組みとなっていった。しかし、どちらにしろ崩れてしまった現在は防御側になる必要もない。

#8: US labor market superiority
初期の研究では「雇用の流動性が高い=失業率が低い」だったが、後々の研究では「雇用保護法=雇用の安定化+失業率引き下げ」などとされていた。米国の失業率が欧州の失業率を上回って、どちらが正しいのやら。

#9: Real Business Cycle Theory(himaginary)
新しい古典はにおいては雇用等の変動を外生的ショックと見なしたが、RBCにおいては雇用等の変動が社会全体の最適反応であると見なした。が、今回の危機において役に立っていない。また、カリブレーションという手法を導入し、これはニューケインジアンにも応用されている。しかし、ニューケインジアンもまた今回の危機では役に立っていない。

2009/08/06

Rajan (2005)

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』より。

Has Finance Made the World Riskier?
Raghuram G. Rajan

直接金融の進展は銀行という仲介機能が消滅した(disintermediation)とみなされるが、実際にはファンドなど新しい仲介役の登場した(Reintermediation)とみたほうがよい。

Reinhart and Rogoff (2004)

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』より。

Carmen M. Reinhart & Kenneth S. Rogoff, 2004. "Serial Default and the "Paradox" of Rich-to-Poor Capital Flows," American Economic Review, American Economic Association, vol. 94(2), pages 53-58, May.

新興国が海外からの資本流入に頼らずに経済発展を目指すことは望ましい。海外から資本を借りるのは資本市場と財政基盤が既に整っている国に限定さっれるべきである。このことは、所得水準と資本市場の完備性と対外借入の規模の三つには正の相関関係があることから明確にわかる。そのため、新興国はまず財政を均衡させ、インフレを起こさない政策規律を学習するとともに資本市場のインフラを整えるべきであり、そうでなければ外国からの借り入れに頼り切ってしまう。

Obstfeld and Rogoff (2005)

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』より。

The Unsustainable US Current Account Position Revisited
Maurice Obstfeld and Kenneth Rogoff

銀行危機の裏には住宅バブルがあった。スペイン(1997)ノルウェー(1987)フィンランド(1992)スウェーデン(1991)日本(1992)は、それぞれ実質住宅価格がバブル状態であると同時に、崩壊後の経済成長率は酷く落ち込んでいる。一般的な先進国の銀行危機においては、経済成長率は2年間2%ほど落ち込むだけであるが、この五カ国については5%の下落となり、3年後になっても完全には回復しない。

Caballero (2006)

On the Macroeconomics of Asset Shortages
Ricardo J. Caballero
NBER Working Paper No. 12753
December 2006

世界的には金融資産が不足している。家庭、会社、政府、保険会社、金融仲介機関による資産と担保として金融資産がグローバルに必要なのであるが、資産の供給がそれ追いついていない。金融資産の不足に対して資産の価格とバリュエーションの均衡が反応するということが、ここ20年の世界的経済成長で中心的役割を果たしている。いわゆる国際収支の不均衡や、(新興市場、ドットコム企業、不動産、金など)投機バブルの再発的な緊急事態、歴史的に低い実質金利と低い長期金利、世界的なディスインフレ現象や地域的なデフレ現象など、このasset shortageという観点から説明できる。

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』によれば、フレームワークとしては次のようになる。つまり、実物財と金融資産の二財モデルを考える。ワルラスの法則から、供給過多のとき相対価格は下がり、需要過多のとき相対価格が上がる。新興国において投資対象が不足しているために、金融資産の相対価格が上がると同時に、実物財の相対価格が下がると説明できるとのこと。

Tirole (1985)

Tirole, Jean (1985) "Asset Bubbles and Overlapping Generations," Econometrica, Vol. 53, No. 6. (Nov., 1985), pp. 1499-1528.

バブルを作るのは、耐久性・希少性・共通のBeliefである。バブルは必ずしも悪いものではなく、動学的効率性を満たすようにできる。動学的効率性の条件とは、経済成長率よりも投資収益率が大きい状態である。投資が過剰に行なわれているとき、経済成長率のほうが投資収益率を上回り、動学的効率性の条件が満たされない。

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』によれば、バブルな財に投資することで、資本投資が減るとともに投資収益率が上がり、資本の減耗とともに資本設備が適正水準となって動学的効率性の条件が満たされる、となるそうだ。これは世代重複モデルで描写される。

Samuelson (1958)

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』に若干の説明もあるが、主にLjungqvist and Sargentを参考。

An Exact Consumption-Loan Model of Interest with or without the Social Contrivance of Money
Paul A. Samuelson
The Journal of Political Economy, Vol. 66, No. 6. (Dec., 1958), pp. 467-482.

世代重複モデルにおいて最適消費量は(i)各世代の予算制約下における効用最大化(ii)各期におけるマーケット・クリアリングを満たす。しかし、この最適消費量が必ずしも達成されるとは限らない。というのも、今期においてyoung世代がold世代にお金を貸したとき、来期にはそのold世代がいないからである。このように、最適消費量の達成のためにyoung世代がold世代にお金を貸すことになるケースをサミュエルソンケースと呼ぶが、これは不換紙幣を導入することで達成できる。

資本主義は嫌いですか



確率的現象で、ヘッジできるものが「リスク」であり、ヘッジできないものが「不確実性」であるというのがKnight (1921)の思想だったそうだ。リスクの領域で勝負している限り、金融業界は儲からない。したがって、不確実性に挑戦するわけであるが、投資家から集金するためには確率的にテイルをなしているところにリスクを押し込んで不可視にしてしまえばよい。しかし、一旦信頼を失うと一気に弾けてしまう。

経済論戦は甦る』と同様、様々な論文をサーベイしているのは参考になる。
Samuelson (1958), Tirole (1985), Caballero (2006)

Caballero and Hammour (2005)

経済論戦は甦るより。

The Cost of Recessions Revisited: A Reverse-Liquidationist View
Ricardo J. Caballero and Mohamad L. Hammour
The Review of Economic Studies, Vol. 72, No. 2 (Apr., 2005), pp. 313-341.

1972年から1993年までのアメリカ製造業における雇用破壊と雇用創造のデータ分析をする。雇用破壊とは既存企業による解雇者数を指し、雇用創造とは新規参入企業により創出された雇用者数を指す。これらのインパルス反応関数を計算するということらしい。

その結果、不況時においては雇用破壊は大幅に増加する一方、雇用創造は減少する。不況終了後、時間が経過するとともに、雇用破壊の水準は最初の状態より低水準となり、雇用創造は最初の状態に向かって回復するという。結果的に、不況は結果的に既存企業よりも新規産業のほうを殺すということになる。これの理論付けとして、労働市場と資本市場にホールド・アップ問題によるレントの発生を導入することで説明できるらしい。

不況発生時の雇用破壊の急増としては二つの説明がなされる。第一に、設備の老朽化(ろうきゅうか)によって既存企業が退出するケースである。第二に、不況の影響で被った損失をカバーするだけの外部資金を得られなくなった既存企業が退出するケースである。前者のケースがシュンペータ的な破壊、後者のケースが無益な破壊と命名される。

不況発生時の雇用創造の落ち込みとしては、次のような説明がなされている。不況により企業収益が減少するので、新規参入も減少する。どの企業家が不況でも参入できて、どの企業家が参入できないのかという選別は、各企業家の技術ではなく純資産で判断される。そのため、不況によって生産性の低下が生じる。

つまり、不況発生時には無益な破壊が発生するとともに、シュンペータ的破壊が発生するものの、その後シュンペータ的破壊は逆に減少する。また、不況発生により企業家の純資産が低下し、新規参入のハードルが高くなるが、不況からの回復期には破壊に急激なブレーキがかかるので、創造の増加にも歯止めがかかる。ということらしい。

2009/08/05

Calomiris and Wilson (2004)

経済論戦は甦るより。

Calomiris, Charles W. and Berry Wilson (2004) "Bank Capital and Portfolio Management: The 1930s “Capital Crunch” and the Scramble to Shed Risk," Journal of Business.

企業家が投資家を選ぶという逆選択に対して、投資家は二通りの方法で対抗できる。第一に、融資を減らして、流動的な資産に持ち替えることである。第二に、不良債権の発生が預金に悪影響を与えないように、増資によって自己資本のバッファを増やすことである。大恐慌におけるニューヨークの市中銀行は圧倒的に第一の方法であり、貸出量の簿価と流動資産の比率を見ると、1922年から1931年にかけて2.06から3.33に上昇していたものの、それ以降低下を続けて1940年には0.25となった。第二の方法に関しては1930年以降の市中銀行は増資をしていないという事実がある。

Bernanke (1983)

経済論戦は甦るより。

Ben S. Bernanke (1983). "Nonmonetary effects of the financial crisis in the propagation of the Great Depression". American Economic Review 73 (3): 257–276.

大恐慌における貸し渋りを実証分析する。大恐慌における事実として、銀行の倒産規模が上昇するとともに、銀行以外の事業の倒産規模、とくに中小企業の倒産規模も上昇し、住宅ローンの債務不履行も急増していた。銀行貸出の規模として、商業銀行貸出残高の純増を個人総所得で割ったものを代理変数とすると、1930年10月までは比較的安定して推移していたものの、銀行の倒産規模が最高となった1930年10月には銀行貸出の規模も30%低下していた。
銀行預金に対する銀行貸出の比率を見ると、1929年には85%以上が銀行貸出に回されていたが、1930年10月から1933年1月にかけて72%から58%と急減した。預金が流動的資産へシフトするという貸し渋りの傾向が見られる。
大恐慌時のリスクプレミアムは拡大しており、1930年から1932年にかけて、BaaとTBの利子率格差は2.5%から8%へと拡大している。

Kiyotaki and Moore (1997)

経済論戦は甦るより。

Kiyotaki, Nobuhiro and John Moore. 1997. Credit Cycles. The Journal of Political Economy, Vol. 105, No. 2 (Apr., 1997), pp. 211-248.

投資家と企業家の間にあるホールドアップ問題に着目する。企業家は土地から生産価値を生み出す。生産規模の拡大のためには土地を購入する資金が必要なので、純資産以外に投資家から借りることになる。資金が一旦貸し出されると、企業家によるホールドアップが予想されるので、投資家は企業家の土地を担保とする。ゆえに、土地の担保価値に等しい分だけ、企業家は投資家から借り入れることができる。
何らかのショックによって企業化の所有する土地の担保価値が低下したとき、投資家が貸出しを減らすことになるので、企業家が土地の購入を控えることになる。土地の需要が減ると土地の値段が低下することになるので、土地の買い控えと担保価値の減少の相乗効果によって加速度的に地価が低下することになる。
こうしたデフレスパイラルに対しては、投資家から企業家への富の移転が求められる。企業家の資産の担保価値が増加すれば好循環が生まれ、実質国民所得も増加する。(ただし、デフレスパイラル自体はforward-lookingに織り込まれてしまう。現実にはダラダラと下がるらしい。)

Bernanke and Gertler (1990)

経済論戦は甦るより。

Bernanke, Ben and Mark Gertler. 1990. Financial Fragility and Economic Performance. QJE.

企業家と投資家の間に情報の非対称性が存在する。企業家の責任が限定されているために、risk-lovingに事業を行なう。この傾向は事業に出資する純資産が少ない企業家ほど顕著である。したがって、純資産が少ないほど、貸出の利子率にリスク・プレミアムが上乗せされる。リスクプレミアムが上乗せされるために、ある純資産を下回ると投資を見送らざるをえなくなる。多くの企業家がこの純資産を下回るとき、経済が急激に収縮することになる。
政策インプリケーションとしては、(投資家と企業家の間に立つ)銀行が企業家の能力をモニタリングする必要があるということが提言されている。つまり、企業家のrisk-lovingな事業を回避するためには、計画の見送りに対して報酬を与える必要がある。この投資家から企業家への富の移転によって経済が正常化するわけだが、これとしては過剰債務を抱える企業家に対する投資家の債権放棄が挙げられる。銀行が投資家と企業家の間に立っているとき、銀行に対する公的資金の注入が投資に対してプラスの効果をもたらす。銀行が競争的行動をとるとき、銀行セクターに対する支援は企業家への支援となる。

2009/08/03

Aghion and Saint-Paul (1993)

経済論戦は甦るより。

Aghion, Philippe and Gilles Saint-Paul, 1993. "Uncovering Some Causal Relationships between Productivity Growth and theStructure of Economic Fluctuations: A Tentative Survey," NBER Working Papers 4603.

短期的なマクロ経済ショックである不況によって、生産性向上が促進されるというプラスの長期的経済効果が働く可能性を指摘。
(1)不況が非効率な企業を退出させる。
(2)生産性向上のためのトレーニングに経営資源を投入しやすくなる。
(3)不況が組織改革のインセンティブを高める。
(4)不況に直面することで、正しい経営判断が求められる。

Peek and Rosengren (2000)

経済論戦は甦るより。

Peek, Joe and Eric S. Rosengren, 2000. "Collateral Damage: Effects of the Japanese Bank Crisis on Real Activity in the United States," American Economic Review 90, 30-45.
不況下では貸し手のストック減少のみならず、借り手の投資縮小が考えられる。邦銀の貸し渋りの影響から借り渋りの影響を除去するために、不況の影響を受けていないアメリカ企業への貸出を見る。すると、米銀や日本以外の外国銀行からの貸出はパターンやトレンドは見られない。しかしながら、邦銀の貸出は1986年から1991年まで急速に上昇した後、1992年から急激に下落した。これは株価半減による含み益の消滅から、バーゼル協定の定める自己資本を資産圧縮によって確保する必要があり、長期的関係のない海外案件から貸し渋りをしたと推測される。

経済論戦は甦る


小泉政権を清算主義(Liquidationism)とDebt Deflation理論(リフレ主義)の論争として描写する。清算主義はシュンペーターの創造的破壊であり、不況を新陳代謝の調整プロセスとして正当化する。Debt Deflation理論はアービング・フィッシャーが代表的論者で、デフレ・スパイラルによるシステムのメルトダウンを食い止めるべしという。

なかなか様々な論文をサーベイしているので、参考になると思われる。
Diamond and Rajan (2001), Peek and Rosengren (2000),Aghion and Saint-Paul (1993), Bernanke and Gertler (1990), Kiyotaki and Moore (1997), Bernanke (1983), Calomiris and Wilson (2004), Caballero and Hammour (2005)

2009/07/27

Amazonメモ

http://www.amazon.com/Invisible-Edge-Strategy-Intellectual-Property/dp/1591842379

本を入手したら消します。
Wikipediaによれば
2009年、産業コンサルタントのMark BlaxillとRalph Eckardtは、1970年代の日本経済の隆盛は、連邦取引委員会(Federal Trade Commission)とアメリカ合衆国司法省による競争推進政策の直接的な結果だと主張した。1975年、連邦取引委員会はゼロックスと独占禁止法訴訟について和解し、主として日本企業に同社の特許のライセンシングを強制された。その後の4年間で、ゼロックスのコピー機のシェアは100%から14%にまで落ち込んだ。この行動は連邦取引委員会とアメリカ合衆国司法省による競争管理の始まりだった。
ゼロックスに続き、IBM、AT&T、デュポン、ボシュロム、コダックなどの何万もの特許が、安価なライセンシングを強制された。アメリカの特許は、連邦取引委員会とアメリカ合衆国司法省の影響により、非常に安いコストで日本企業に提供された。1950年から1980年にかけて、日本企業はアメリカ企業を中心に35,000もの海外特許を利用した。独占禁止法を推し進めた経済学者達は、1975年以降、予期せぬ日本企業の興隆と米国製造業の凋落に直面することになった。

これが本当ならば、競争政策がひっくり返りますね。

2009/07/24

論文プロポーザルの書き方

Guidelines for Project Proposal

A. Project Summary (1 page)
B. Project Description (up to 15 pages)
I. Background and Significance of the Proposed Research
II. Objectives
III. Theoretical Framework
IV. Present State of Knowledge
V. Work to be Undertaken and Timetable for Specific Goals
C. References (no page limit)

2009/07/22

主要国の中央銀行における金融調節の枠組み

主要国の中央銀行における金融調節の枠組みby白川方明

FRS,BOJ,ECB,BOEが市場金利を政策金利に誘導する手段は主に三種類。
(1)法令または契約に基づく中銀当預の積み立て制度
金融調節を円滑に実施するためには、同時に、中銀当預に対する需要が安定的かつ予測可能であることが不可欠である。中銀当預は民間金融機関の様々な取引にかかる資金決済に利用される。中銀当預の残高について、日々の資金決済需要を安定的に上回る一定の水準に維持するように促す仕組みが設けられていれば、中央銀行による中銀当預に対する需要の予測は容易になり、金融調節を円滑に行うことが可能となる。

(2)公開市場操作
オペは、概念上、長期オペと短期オペに大別されることが多い。長期オペは、主に、銀行券など、中央銀行の安定的な負債に対応するものとして、長期的に資金を供給するための手段であり、国債の買入れがその典型例である。他方、短期オペは、主として一時的な資金過不足に対応するための手段であり、例えば、期間の短いレポ取引(債券等の売戻し条件付き買入れもしくは買戻し条件付き売却)や有担保の資金貸付けなどを通じて実施される。
金融調節において長期オペを用いると、一度に長期間に亘る資金供給を行うことが可能となり、短期金融市場において巨額の短期オペを頻繁に実施する必要性が低下する。この結果、中央銀行のオペにより短期金融市場における金利形成を歪めることを回避できるとともに、オペにかかる中央銀行・民間金融機関双方の実務負担も軽減することができる。他方、長期オペは中央銀行の資産の固定化にもつながるため、その規模が安定的な負債に見合わないものになると、資金過不足の変動に合わせて柔軟に金融調節を実施していくことがより難しくなる惧れがある。

(3)スタンディング・ファシリティ
金利を上と下ではさむというアレ。
貸付ファシリティ:補完貸付制度
預金ファシリティ:当時はBOEとECBのみ。

国際金融ネットワークからみた世界的な金融危機

国際金融ネットワークからみた世界的な金融危機

ネットワーク分析という研究手法があるらしい。金融取引関係を見える化すると、金融取引のハブ機能が浮かび上がってくる。

まず、縦軸をクラスター係数、横軸をリンク次数としてプロットする。クラスター次数は地域内での取引密度を表わし、リンク次数は地域間での取引密度を表わしているとしてよい。これによれば、国際金融は大国の金融機関が水平的でそれ以外は垂直的という屈折したグラフが出てくる。国際貿易は直線であることと比べると、国際金融は大国の金融機関がハブとなっていて、各地域の橋渡しをしているのだと考察することができる。

一方、縦軸を媒介性、横軸を近接性としてプロットする。近接性はある機関から別の機関までに取引仲介される数を示し、媒介性はその地域の機関が取引仲介する数を表わしているとしてよい。これによれば、大国金融機関のハブ機能のおかげで、取引仲介数が低く抑えられていると考察することができる。

こうしたハブ機能はある程度までのショックには強く、別のハブを回していけば機能する。しかし、ハブが大幅に傷んだとき、国際金融取引がまったく機能しなくなる。1998年から2008年の国際金融取引の高まりから、英国とユーロ圏の相互取引が急膨張した。債権債務の膨らみがこうしたリスクを大きくしたものとみられる。

2009/07/21

Lucas (1988)

Lucas Jr., Robert E. 1988. On the Mechanics of Economic Development. Journal of Monetary Economics 22, 3-42.

Introduction
成長論の課題としてはBaumol (1986)の三角形に見られるような、所得水準のバラツキと成長率のバラツキをいかに説明するかということであった。原始的なSolowモデルで均衡成長率と均衡所得のバラツキを説明するためにはパラメータを外生的に与えなければならない。とくにネックになるのは経済成長率と資本成長率の差で、これにはTFP成長率を導入する必要がある。そもそも技術は国が持っているわけじゃなくて、人が持っているわけで、TFPを直接計測するのは難しい。均衡成長に至っていないからバラツキがあるのだという意見もあるが、有力ではない。

Endogenous Growth Model #1 (School Education)
効用関数

を物的資本の蓄積

と人的資本の蓄積

の制約をかけて最大化する。(ハミルトニアンを使う。)
ただしは人的資本の外部効果であり、このためにequilibrium pathがoptimal pathと異なる解となる。外部効果があることによって、資本成長率と経済成長率の差を説明できるが、外部効果の測定については後述。

長期均衡としてbalanced growth pathをハミルトニアンの解に入れると、成長率一定の物的資本と成長率一定の人的資本に収束するらしい。しかし、その物的資本と人的資本の比は初期条件に由来することになり、均衡所得水準のバラツキを説明することができた。しかし、経済成長率のバラツキを説明することはできていない。

Endogenous Growth Model #2 (Learning-by-doing)
今度は経験効果を含んだ二部門モデルを考える。
効用関数

生産関数

Leaning by Doing

これを解くと、のとき複数均衡となる。どちらかの財を集中的に生産するので、成長率がその財の学習に依存した値をとるということになる。
価格統制や開放経済などの政策インプリケーションも導くことができるが、あくまで内生的経済成長論の例示であって、政策提言を行なう論文ではないと書かれている。外部性を導入しないで、初期状態だけで説明するモデルなんて見たことないよ、頑張ったでしょと。(Section 5の最後)

Cities and Growth
人的資本という外生パラメータはどうやって測るのかという問題だと思われる。ミクロ的基礎付けは大事だが、データへの含意はもっと重要である、と。たとえば、経済成長における街の役割を着目しよう。外部効果がないと人は集まらないだろう。地代が高くても人が集まってくるんだとすれば、地代が人的資本の外部性の代理変数になるかもとかなんとか。

2009/07/20

Brainard (1993)

Brainard, S. Lael. 1993. A simple theory of multinational corporations and trade with a trade-off between proximity and concentration. NBER Working Paper No. 4269.

proximity-concentration trade-off
transport costが高い→multinational expansion
increasing returns→export

Abstract
This paper develops a two-sector, two-country model, where firms in a differentiated products sector choose between exporting and multinational expansion as alternative modes of foreign market penetration, based on a trade-off between proximity and concentration advantages. The differentiated sector is characterized by multi-stage production, with increasing returns at the firm level, due to some activity such as R&D that can be spread among any number of production facilities with undiminished value, scale economies at the plant level, and a variable transport cost that rises with distance. A pure multinational equilibrium, where two-way intraindustry trade in intangibles completely supplants two-way trade in differentiated products, is possible even in the absence of factor proportion differences. It is more likely the greater are transport costs relative to the fixed cost of production, and the greater are increasing returns at the firm level relative to the plant level. The model also examines how the pattern of trade and production varies with additional stages of production.
引用するなら Brainard (1997 AER)がベター。

2009/07/19

Today in the Zombieconomy (in Japanese)

Umairの Michael Jacksonに関わるコメントはゾンビ経済のアナロジーとして言及した。

率直に言うと、アナロジーではない。不幸なことに、現実なのだ。

ゾンビ経済はバズワードではない。イベントでもない。実は銀行に関するものでもない。現在の経済状態なのである。

20世紀のビジネスは21世紀の挑戦と戦うことができなかった。経済の大きな領域は無力化して、ゾンビ企業によって生息し続けている。経済の生ける屍であり、なんら価値を生み出せない。

誇張だと考えるだろうか。銀行の預金残高を確認してから、考え直してほしい。

何兆ドルもの投資にもかかわらず、
1)賃金はデフレ傾向である。
2)失業率は上昇し続けている。
3)不完全就業率は失業率よりもはやく膨らんでいる。

ゾンビ企業はこうした現象が起こった原因である。つまり、我々が経済と読んでいたものは、低所得者の家に立つトランプタワーだったのである。そして低所得者のローン支払いが期日となって、こういったものが嘘のイノベーションであったということがわかるのだ。

では、どうすればいいのか。しばらく資本主義について論じてきた。アーカイブをあたったり、ビデオを見たりしてくれ。

2009/07/18

経済指標としてのgoogle

http://gregmankiw.blogspot.com/2009/07/google-searches-as-economic-indicator.html

Google Trendsではcsvファイルも出力できるようだ。これはnews shockとかに使えるのかもしれない。

2009/07/14

松下ウェイ



組織面
・前例主義の見直し
最適政策の踏襲を続けることで時代遅れになった。
・情報伝達
情報チャネルの不全により組織が機能しない。
・権限と責任
海外事業の権限と責任が曖昧で、身動きがとれない。

環境面
・情報化
消費者重視の流れ
・ソリューション
サービスの提供によるスイッチング・コストの引き上げ
・しっくりくる使命
使命を思い切って再定義する。

経営面
・サッカーボール理論
サッカーボールの中に経営者がいる。ボールの表面は顧客と接するオペレーションである。経営資源を表面につぎ込む。
・ムーア時間
製品サイクルが早くなっているので、顧客に届くまでに古くなっては駄目。
・士気の向上
しっかりと取捨選択して、パリッとする。
・将来情報の獲得
SCMによるダウンサイドリスクの抑制。

Billari and Galasso (2008)

Billari, Francesco C. and Vincenzo Galasso (2008) "What Explains Fertility? Evidence from Italian Pension Reforms," CEPR Discussion Paper No. DP7014.

投資財としての子供は引退後に養老の担保となるものであり、消費財としての子供は育児や子供それ自体から快楽を得るものである。子供をこのように扱うことによって、出生率の決定要因は投資財や消費財の観点から考えることができる。これらの理論をそれぞれモデル化した上で、1990年代イタリアにおけるAmato改革とDini改革で年金支出を抑制した影響がどうであったか分析した。 モデル化の結果によれば、年金抑制によって出生率が下がったならば、その結果は子供を消費財として扱う理論と整合的であり、逆に、子供を投資財として扱う理論が整合的になるためには、改革で年金が抑制された層が出生率を増やしていなければならない。一方、実際のデータからは年金改革によって年金収入が減らされた層は出生率が高くなった。これは統計学的に十分であり、出生率の決定要因としては投資財としての子供の色彩が強くなると結論できるのである。


従来の経済モデルにおいて、 投資財としての子供の役割が過小評価され、子供は親にとって負担であるという見方が過大評価されている。老年期における子供から親への所得移転(同居や仕送りなど)が過小評価されているである。 人口の要素と経済の要素を関係づける従来の経済理論は、子供を消費財として扱ったりするなど、 間違っているかもしれない。

また、年金制度の持続性を確保するために年金給付を削減する年金改革をすれば、出生率を高めることができる。

太田(2005)

太田清(2005)「フリーターの増加と労働所得格差の拡大

日本は長い間、個人間の経済的格差に関し、平等な社会であると言われてきた。1990年代後半頃から、日本でも所得格差は拡大しているとの見方も出てきたが、家計所得や賃金統計などに見られる格差の拡大の多くは、人口の高齢化に伴う見かけ上の拡大にすぎないことが指摘されてきた。しかし、1990年代の特に後半以降に起こった労働市場の変化の中で、最近では、所得格差は拡大しているのではないだろうか。本稿では労働市場の変化をもとらえた統計で、そのことを検証した。

その結果、労働所得の格差は1997年以降拡大しており、特に、非正規雇用者の増加の影響もあって、若年層でその拡大のテンポが速いことがわかった。

2009/07/13

Dyer and Singh (1998)

Dyer, Jeffrey H. and Harbir Singh (1998) "The Relational View: Cooperative Strategy and Sources of Inter-Organizational Competitive Advantage," Academy of Management Review.

企業の経営資源として企業間ネットワークを考える。

(1)関係特殊資産
提携関係者の投資が関係特殊資産であればあるほど協力関係による既得権益(レント)の余地が大きいとされる。
・機会主義的行動を防ぐような距離を開けた関係であるほど関係特殊資産を通じたレントの余地が大きくなる。
・提携関係者との取引量が大きいほど、関係特殊資産を通じたレントの余地が大きくなる。

(2)知識共有の慣行
提携関係者の投資が企業間の知識共有慣行にあるほど、レントの余地が大きくなる。
・パートナー特殊的な吸収能力が大きいほど、知識共有によるレントの余地が発生する。
・透明性や互恵関係を推奨し、ただ乗りをやめさせるようなインセンティブがある提携関係であるほど、知識共有によるレントの余地が発生する。

(3)補完的な資源・能力
経営統合したときに資源の価値が高くなり、貴重になり、模倣するのが難しくなるようなシナジーセンシティブな資源を提携関係者が持っている割合が大きいほど、レントの発生余地が大きくなる。
・補完的な資源を統合したときによって企業がレントを得られるならば、それまでの提携経験、内部の探索能力や評価能力への投資、社会ネットワーク・経済ネットワークにおける情報豊富な立場を増大させることができる。
・提携関係者の組織システム・過程・文化(または組織的補完性)における適合度が高いほど、補完的な戦略資源によるレントを提携関係者が作り出せるようになる。


(4)効率的な企業統治
(取引コストを抑えつつ価値を最大化させるような)差別的な方法による統治構造で取引を提携する能力が取引相手にあるほど、レントの余地が大きくなる。
・第三者によるセーフガードよりも自己規律的なセーフガードを採用する能力が提携関係者にあるほど、低い契約コスト・低いモニタリングコスト・低い適合コスト・低い再契約コスト・価値創造の主導権への高いインセンティブを持つことによるレントの余地が大きくなる。
・金銭的な抵当権などの公式な自己規律的セーフガードではなくて、非公式の自己規律的セーフガードを採用する能力が提携関係者にあるほど、低い限界費用・模倣の難しさによるレントを得ることできる。


(5)提携関係によって得られるレントが保たれ続ける理由
・競争企業が因果関係が曖昧なために利益の源泉を特定できない。
・利益の源泉がわかっていても、時間制約のために即座に用意できないという状況である。
・経済学的に存続可能な追加投資ができるような事前の投資をしたこなかったために、相互関連的な資源の不足により実例や投資を真似ることができない。
・必須の補完的戦略資源・関係能力があるパートナーを見つけることができない。
・他の企業と共進化しているなどによって潜在的なパートナーの能力が不可分となっており、潜在的なパートナーの能力にアクセスすることができない。
・機会主義をコントロールし、協力的行動を推奨するような、法的コントロールなどの必須の公式ルールや社会的コントロールなどの非公式ルールを持つ独特かつ社会的で複雑な制度的環境を用意することできない。

藤本(1997)



日本のサプライヤーシステムは承認図方式である。
これは歴史的拘束条件と知識移転が全くの偶然に機能した。
・トヨタから日本電装が独立する際に、日本電装に技術者が大量に移ったため、依存せざるをえなかった。
・敗戦によって技術者が流出することになった航空機産業や鉄道車輌産業が源泉であった可能性がある。
・事後的にトヨタが承認図方式の競争力を見抜いた。

Ge (2009)

Ge Dongsheng (2009) "Architectural Attribute of Component and Transaction Pattern Choice"

(1)アーキテクチャの類型が取引パターンに影響を与えることがわかった。日本においてはインテグラル型であるが、中国においては擬似オープン型であった。

(2)取引パターンがコンポーネントの設計方法に影響を与えることがわかった。中国ではリバース・エンジニアリングが見られた。要するに、先進国の製品を分解して、金かかるところを調べて、安いものを組み立てなおすということである。

(3)アーキテクチャと取引パターンの関係は市場においても違いが見られた。日本においては品質を重視するが、中国では価格を重視することがわかった。

(4)アーキテクチャと取引パターンの関係が産業ダイナミクスや企業の能力構築に影響を与えることがわかった。中国においては、購買システムを通じてリードタイムの短縮とコスト削減をサプライヤーに依存しているものの、現地自動車メーカーは能力構築に気合を入れる傾向にある。コアコンポーネントに関わるリバースエンジニアリングを行なわなければ、製品開発を行なうためのシステムと評価能力が蓄積できない。


先進国のサプライヤーにとっては、アウトソースをするにあたっては、アーキテクチャの類型や能力・環境といった観点に注意をしなければならない。新興国のサプライヤーにとっては市場を利用する一方で、システム統合と評価能力の構築を第一の課題としなければならない。

Dyer (1996)

Dyer, Jeffrey H. (1996) "Does Governance Matter? Keiretsu Alliances and Asset Specificity As Sources of Japanese Competitive Advantage," Organization Science.

(1)日本の自動車メーカーのバリューチェーンにおいて、企業間における相互特殊資産がアメリカよりも存在する。
(2)日本の自動車メーカーが導入しているhybrid/allianceは、ヒエラルキー型のイイトコドリをしている。
(3)日本の自動車メーカーのバリューチェーンでは取引費用が低い。
(4)不確実性が高い状況において、ハイブリッド型ガバナンスがヒエラルキー型ガバナンスよりも効率的である。
(5)資産の特殊性が増加したとき、必ずしも取引費用が増加するとは限らない。

2009/07/12

Barro (1991)

Barro, Robert J, (1991) "Economic Growth in a Cross Section of Countries," The Quarterly Journal of Economics.

-per capita growthとper capita GDPは無相関である。
-ただし、human capitalを入れると、相関は有意に負になる。
-human capitalは就学率で代替している。
-per capita growthとhuman capitalは正の相関関係であった。
-human capitalが高いと出生率が低い。
-human capitalが高いと投資のGDP比が大きい。

-per capita growthと民間投資が政府消費と負の相関関係である。
-政府消費は資源配分の歪みをもたらすが、投資や成長率を活性化させることはないと解釈可能。
-ただし、政府投資と成長率にはわずかに相関関係があった。

-革命・クーデター・政治家の暗殺を「政治の不安定性」とする。
-政治の不安定性は成長率と投資とは逆相関であった。
-政治の不安定性が、財産権、そして財産権と民間投資の関係に影響を与えるものかもしれない。
-逆に、経済がよくないことが政治に影響を与えているのかもしれない。

-「価格の歪み」は成長率と負の相関関係であった。
-政府起因の「市場の歪み」と成長の関係性は今後の研究に期待。

-サブサハラやラテンアメリカの国々における低成長はうまく説明しきれなかった。

Jones and Romer (2000)

Jones, Charles I., and PaulM. Romer (2000) "The New Kaldor Facts: Ideas, Institutions, Population, and Human Capital"

http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20090710/new_kaldor_facts
http://unrepresentativeagent.blogspot.com/2010/01/new-kaldor-facts.html

カルドアの事実
-労働生産性が持続的な速度で成長した
-労働者一人当たりの資本も持続的な速度で成長した
-資本の実質利子率ないし収益率が安定していた
-生産に対する資本の比率も安定していた
-資本と労働の国民所得に占める割合が安定していた
-高成長国の間で「2-5%程度の」目に見える成長率のばらつきがある

新カルドアの事実
-市場規模の拡大
-成長の加速
-現代における成長率のばらつき
-所得ならびに全要素生産性における大きな格差
-労働者一人当たりの人的資本の増加
-実質賃金の長期にわたる安定

2010年1月14日追記。ジャーナルに載った。
Jones, Charles I., and Paul M. Romer. 2010. "The New Kaldor Facts: Ideas, Institutions, Population, and Human Capital." American Economic Journal: Macroeconomics, 2(1): 224–45.

2009/07/10

Lippman and Rumelt (1982)

Lippman, S.A. and R. P. Rumelt (1982) “Uncertain Imitability: An Analysis of Interfirm Differences in Efficiency under Competition,” Bell Journal of Economics.

収益があっても参入がないことや既存企業の収益性にバラツキがあることは、どうやって説明できるだろうか。Industrial Structure Viewのように不完全競争や参入障壁を理由としてしまうこともできるだろう。しかしながら、「企業の行為とその結果」という因果関係の曖昧性(causal ambiguity)があるならば、参入が自由な完全競争であってもパフォーマンスの違いを説明することが可能となる。

モデルを単純化するために、企業の需要サイドは同一の環境とし、供給サイドでは確率分布関数からの実現値によって費用関数を決定するパラメータを使う。参入企業は事前にパラメータの実現値を知らないものの、分布関数と費用関数は知っている。参入することによる利益の割引現在価値がゼロ以上ならば参入することになる。この仮定は、企業の効率性の違いを説明し、さらに既存企業の利潤がゼロを下回る前に参入が止まることになる。

2009/07/06

ゲストエンジニア




 従来の論調では、日本はプロセス・イノベーションや連続的なイノベーションには強いが、プロダクト・イノベーションや非連続的なイノベーションに弱いとされていた。なぜならば、日本の技術者は大企業内での内部昇進型であって、人事流動性が低いからだとされていた。人材育成の考え方として、組織内で育てるという見方と労働市場から調達するという見方がある。しかし、ゲストエンジニアリングは自動車メーカーから部品メーカーへ技術者を派遣することであり、これは両者の中間に位置しているといってよい。このような企業間ネットワークにおける技術者の派遣が人材育成ないし組織能力の向上に繋がるかという点が本書の分析対象である。

 技術者は大きく三種類に分けられ、新型モデルの車両全体を企画する車輌開発責任者、その企画を基にしてコンセプトをデザインするデザイン部門のデザイナー、そして設計開発技術者がある。設計技術者はさらに三種類に分けられ、ボディ構造を設計する構造設計技術者、部品の組み合わせによって機能を発揮させる機構設計技術者、部品ごとに機能を発揮させる機能設計技術者が存在する。最後の機能設計技術者については承認図の部品メーカーの技術者が含まれるが、おおよそ自動車メーカーから派遣されていると考えてよい。
 こうした技術者のレベルを五つの段階に分類することができる。最初は、末端の設計開発から始まり、全体の設計開発、設計開発に関連した問題解決、従来の知識を基にした新しい設計開発の提案、新しい知識を基にした新しい設計開発の提案という順である。ひとつめについては市場調達が可能である。ふたつめとみっつめは問題解決能力、よっつめといつつめは問題発見能力である。こうした問題解決能力と問題発見能力の形成はゲストエンジニアリング制度が有効に働いている。

 第一、経験効果である。技術者の専門領域が担当部品を中心に広がることになる。また、部品メーカーの技術者として開発すると同時に、自動車メーカーから派遣された技術者としても開発している。第二に、専門性再評価効果である。部品開発という新たな領域に圧倒されつつも、システム設計について学習を開始し、高度な業務へと幅を広げて能力を磨き、自らの専門性を再評価することで能力向上意欲やイノベーションの源泉となっているのである。第三に、接触効果である。異なるメンバーや多様な情報に触れ合うことによって、新しいものを創造するという部分に影響を与える。

 この技術者の能力と組織能力との関係を調べるために、承認図メーカーに要求される関係的技能を組織能力としてとらえる。このとき、技術者の能力と組織能力の間に密接な関係がみられた。また、技術者の能力が高いほど汎用的な能力の割合が大きくなるので、高い能力の技術者が部品メーカーに多いほど、企業の関係的技能も汎用的な能力を強めていた。

 ゲストエンジニアリング制度を核とする企業間ネットワークには特徴が見られる。それは、中核企業とその主要サプライヤーとの関係である必要があり、なおかつ長期継続的な関係である必要がある。これらの関係は日本で歴史的に形成されてきたが、近年では環境問題という新しい課題や海外モデルの切り替えなどの設計開発の負担が増大したために、ゲストエンジニアリング制度は難しくなってきている。しかし、旧来のような人材形成目的のゲストエンジニアリングではなく、人材形成目的外で行なわれる傾向があるという。短期的な設計開発要員としてである。一方で、部品メーカー側からも逆ゲストエンジニアリングが行なわれるようになっているようである。

2009/07/05

官僚たちの夏

官僚たちの夏 (新潮文庫)


かなり昔の通産省職員を描いた小説です。(通産省は省庁再編で経産省になりました。)公務員の仕事のひとつとして法案の作成があるでしょうけれども、その過程には数々の利益集団の調整が必要で、これは非常に難しい作業なのでしょう。カシとカリ、後輩からの信頼と先輩からの評価、プライドの高さか腰の低さか、という点が重要であるようですね。

まあ、公務員制度改革と地方分権でこの先わかりませんね。

ハゲタカ

ハゲタカ DVD-BOX


主人公の鷲津政彦は、三葉銀行大手町支店の法人部門で働き、自動車メーカーの下請けの下請けの下請けの工場、三島製作所という小さなネジ工場の世話をしていた。工場の片隅に転がっている加工賃1本7円50銭にすぎないネジ2本を拾い集めると、世話になっている礼としてビールとせんべいを頂戴し、「ちりも積もればビールになった!せんべいにもなった!」と談笑する関係だった。ところが、1993年バブル崩壊によって銀行から貸し渋りを命じられ、経営者の三島健一を自殺に追い込んでしまう。雨の日の葬式で娘の三島由香になじられ、将来の頭取候補で支店長の芝野健夫から「しょうがないだろ。日本は資本主義なんだから。」と励まされる。この事件をきっかけに渡米し、芝野の言う資本の論理を徹底的に学ぶ。

1998年、三葉は不良債権処理を急いでいた。芝野は貸出先の西乃屋という老舗旅館の経営者である宇崎竜童にゴルフ場の売却することを勧めるが、経営者としての才覚がない宇崎竜童は事業拡大を夢見て手放そうとしない。三葉は西乃屋を含む債権をまとめてバルクセールとして売り出した。鷲津は「腐った日本を買い叩く」ために、米ファンド・ホライズンの日本代表として来日したのであった。文字通り、殆どの不良債権が1円で買い叩かれていた。

西乃屋の債権者となった鷲津は宇崎竜童に対し旅館本体を2億円で買うように言いつけるが、期限の2週間には間に合わなかったため転売する。夢を失った宇崎竜童は道路にふらふらと歩いて命を失う。宇崎竜童の長男である松田龍平は家を飛び出し、300万円(*1)をバイトで稼いで起業することを決意する。「金は使うもんですよ。金に使われたら人間おしまいでしょ。」

2000年、玩具メーカーのサンデートイズは創業者一族が会社を私物化しており、経営不振に陥っていた。社長の大河内瑞恵は広告塔になっていたのも事実であった。株式は創業者が過半数を握っていることから、鷲津は最大債権者になることを目指す。鷲津は地銀などから騙すようにして買い集めた鷲津は、さらに社長の息子で取締役の大河内伸彰に対してゴールデンパラシュートを提案する。くわえて伸彰に対しては社長の座まで用意する。メインバンクである三葉側の芝野はその提案を出し抜いて取締役会にて大河内瑞恵を代表取締役の座から降ろすことに成功する。

社長になった大河内伸彰は民事再生法を申請し、そのスポンサーをサドンデス方式の入札で決めることとなる。三葉もホライズンも採算を考慮して奇遇にも同じ190億円と評価するが、鷲津は前社長の大河内瑞恵に接近し、新経営陣と三葉との不適切な金銭関係についてリークされていた。東洋テレビの記者になっていた三島由香にこの証拠を渡したが、報道するためには裏をとる必要があり、三島は芝野に確認をとっていた。芝野は銀行を守る立場にあり、これを否定していたが、無能な大河内伸彰を社長にすることに戸惑いを感じ、ホライズンの提示した入札額が190億円になったときに三島に電話をして事実を明らかにした。鷲津が経営権を握ることになるが、大河内瑞恵を社長にはせず、自己破産(*2)が避けられないようにした。

一方、芝野は三葉を去る。中尾彬は芝野に「かっこええなあ。お前はいつもかっこええ。だからダメなんだ。」と言い放つ。

2004年、芝野は会社再生の専門家として大空電機の経営陣となっていた。ホライズン本社は軍需産業がレンズ事業部の技術を欲しがっているという政治的理由で鷲津に大空電機の買収を命じる。鷲津は株主総会におけるプロキシーファイトという方法で経営の主導権を握ろうとするが、芝野によってカリスマ社長である大木昇三郎の感動的な手紙が読み上げられ現経営陣が勝利する。TBOに戦略を変更するが、ハイパークリエーションというIT企業の社長となった松田龍平がMGS銀行(*3)の資金を利用しつつホワイトナイトとして登場し、TBO合戦が始まる。

松田龍平は大木に対する尊敬を理由にしていたが、嘘であることは明らかだった。そしてインサイダー取引で捕まり、財界からパージされる。一方、鷲津はホライズン本社の意に反して大空電機を守ろうと画策し、解雇される。鷲津はホライズン本社の狙いが熟練した技術であることを逆手にとり、芝野と協力してEBOの準備を進める。鷲津は中尾彬にロビイング活動を頼み、経産省から技術流出に対する懸念を出させた。ホライズンは大空電機から手を引き、新会社の社長として芝野が就任する。

鷲津は日本的経営の象徴を守り、三島製作所を守った。三島健一の葬式で手を合わせられなかった鷲津はようやく仏壇に手を合わせられるのであった。


(*1)当時、有限会社設立に300万円必要だったということ
(*2)当時、破産者は代表取締役の欠格事項に該当していた
(*3)三葉銀行と住倉銀行の合併を考えれば、モデルは予想できる。MGSの略称は何かもう一行ある気がするが。

2009/07/04

Helpman, Melitz, and Yeaple (2004)

Helpman, Elhanan, Marc J. Melitz, and Stephen R. Yeaple (2004) "Export Versus FDI with Heterogeneous Firms," AER.
Helpman, Elhanan, Marc J. Melitz, and Stephen R. Yeaple (2003) "Export versus FDI," NBER Working Paper No. 9439.

Framework
効用関数をCobb-Douglas型関数として、H個の財については企業の異質性をCES型関数で表わす。

この式と収入を与えると効用最大化問題により需要関数を導くことができる。
一方、企業は参入+撤退参入+国内市場のみ参入+国内市場+輸出参入+国内市場+水平的FDIの4種類が存在知る。これは技術力が高い順なのだが、参入するまでは技術力の分布関数(パレート分布を仮定)しかわからない。需要関数と技術力から利潤最大化を設定して、期待利潤とcutoffの水準を計算することができる。

Home Market Effects
-国が大きいほど、国の大きさ以上に企業が参入してくる。
-大国の消費者は多様な財を満喫することができ、高い社会厚生が得られる。
-大国のマーケットでは自国財の活動が盛んで、外国の財はシェアが小さい。

Comparative Statics
一国における外国籍企業の財のシェアに対する貿易財のシェアは、

比較静学をすると、
-技術のバラツキが大きいほどFDI財のシェアが大きくなる。
-代替の弾力性が大きくなるほど貿易財のシェアが大きくなる。(規模の経済)
-水平的FDIの初期費用が小さければFDI財のシェアが大きくなる。
-輸出の初期費用が小さくなれば貿易財のシェアが大きくなる。

Empirics
代理変数を拾ってきてlog-logで分析して係数を見ると、理論的説明と一致した。とくに技術のバラツキによってproximity-concentration tradeoffを説明できることが重要である。

2009/07/02

Hayashi and Prescott (2002)

Hayashi, Fumio and Edward C. Prescott (2002) "The 1990s in Japan: A Lost Decade," Review of Economic Dynamics.

Model
production function
+utility function +b.c. (household)+b.c. (government)+r.c.
細かいことは省略するとして生産関数にTFPと労働時間がかかっていることに留意。理論的にはTFPとか労働時間という供給面で停滞を説明できるはず。(ただし、一般的に言われているように時短が強調されているという印象はなかった。)

Empirics
Calibration+Shooting Algorithm
その結果、TFP成長率が問題となる。労働時間については週40時間労働を下回ることはないとしていて、TFP成長率がかつての輝きを取り戻せば労働時間も一緒に伸びて、均衡水準(growthではなくlevel)もまた昔どおりになる。
一方、Credit Clunch Hypothesisについては上記のモデルの枠外で別に考察。SNAにおける投資、財務省の調査、ローン残高の伸び率と経済成長率の単回帰という3つのアプローチ。いずれも否定的であるとしている。(←リーマンショックの後に貸出が伸びているけど。)

Conclusion
失われた10年の原因はクレジットクランチではない。
TFP成長率の低下が原因である。これは政府が衰退産業に補助金を出したことが原因であろう。(←本論のどこに書いてあったのか不明)

21世紀の国富論

原丈人『21世紀の国富論

昔から「国際派」という種族がいるらしいが、まさに「国際派」と言っていいだろう。
内容をまとめると・・・

日本は世界に貢献しろ!
会社は社会に貢献しろ!
小汚いアメリカの真似をするな!
人間が機械に合わせる時代は終わった!
機械が人間に合わせる時代だ!
ポストIT産業に投資しろ!
ものづくりのノウハウを生かせ!
日本に世界が集まる制度を作れ!

・・・といった感じである。これに共感するかどうかは別にして、要するに国際派の現代版なのだ。公益資本主義とは日本の技術を発展途上国に役立てる何たらかんたらのことらしい。

人を動かす

デール・カーネギー『人を動かす 新装版

人を動かす3原則
(1)人は自分が正しいと思っている。批判も非難も苦情も言わない。
(2)どんな人間でも優れた点、学ぶべき点を持っている。率直で誠実な評価を与えよう。
(3)自己主張もまた欲求のひとつである。強い欲求を起こさせよう。

人に好かれる6原則
(1)人間は、自分に関心を寄せてくれる人々に関心を寄せる。誠実な関心を寄せよう。
(2)笑顔で接しよう。
(3)名前は当人にとって重要である。名前を覚えよう。
(4)人間は自分の話を最後まで話したい。聞き手にまわろう。
(5)相手の関心を見抜いて話題にしよう。自分の人生観も広がる。
(6)人は自分を重要な存在と認めたがっている。心から褒めてあげよう。

人を説得する12原則
(1)議論で捻じ伏せても納得させているわけではない。議論自体を避けるのが好手。
(2)相手の意見に敬意を払い、誤りを指摘しない。
(3)自分の誤りは直ちに潔く認める。
(4)穏やかに話す。
(5)ソクラテス問答法で、イエスが明らかに正答となるような質問を投げながら、誘導する。
(6)味方をつくりたければ、友に勝たせるがいい。相手にしゃべらせる。
(7)人から押し付けられた意見は大切にしない。暗示を与えて、結論は相手に思いつかせる。
(8)互いに相手の身になってこそ話し合いが成立する。他人の身になろう。
(9)相手の考えや希望に対して同情を持とう。
(10)相手の美的価値観に呼びかけよう。
(11)演出を考えよう。
(12)ライバル意識を刺激しよう。

人を変える9原則
(1)まずほめよう。
(2)遠まわしに注意を与えよう。
(3)まず自分の過ちを話す。その後、相手に注意を与えよう。
(4)命令をせず、意見を求めよう。
(5)顔をつぶさない。顔をたてよう。
(6)わずかなことでも、すべて惜しみなく心から褒めよう。
(7)頼られると、評価を落とすまいと努力するようになる。期待をかけよう。
(8)激励して、能力に自身を持たせよう。
(9)喜んで協力させるようにしよう。

幸福な家庭を作る7原則
(1)口やかましく言わない。
(2)長所を認める。
(3)あら探しをしない。
(4)ほめる。
(5)ささやかな心尽くしを怠らない。
(6)礼儀を守る。
(7)正しい性の知識を持つ。

2009/07/01

Tripsas (1997)

Tripsas, M(1997) "Unraveling the Process of Creative Destruction: Complementary Assets and Incumbent Survival in the Typesetter Industry.", Strategic Management Journal,18,119-142.

急進的な技術変化が既存企業を脱落させて新規企業の台頭を導くこともあれば、既存企業が延命して反映を続けることもある。Schumpeterの創造的破壊には二つの理由付けがなされている。前期のSchumpeterは流動性の高い産業において、参入企業が技術的に優位な製品を開発し、同じ製品を繰り返し売っていた既存企業にとって変わると考えていた。後期のSchumpeterは、既存企業が新規産業にはない何らかの優位性を持っていると考えた。

本論文ではこの二つの理由付けに焦点を当てて、既存企業と参入企業の(1)新技術開発への投資、(2)技術能力、(3)補完的な特殊資産から得られる技術革新の恩恵の専有能力を調べた。そして、創造的破壊と補完的な資産の相互作用およびパフォーマンスへの影響を考察する。分析のためのデータとして植字機産業の1886年から1990年の約100年にわたる競争の歴史を用いる。

植字機産業においては、3回の創造的破壊が起こり、そのうち2回は既存企業が生き残るに至った。そこでは補完的な特殊資産が重要な役割を果たしていた。競争的な創造的破壊による影響が既存企業に与える影響を和らげるからである。そして、新技術開発への投資という観点、あるいは技術能力という観点だけから分析をすると、誤った結果を導きかねない。技術変化の競争的含意を調べるときに、複数の観点から考察することの重要性を本論文では強調している。

2009/06/28

Today in The Zombieconomy (in Japanese)

Today in The Zombieconomy

ねえ、ぼくらの資本市場がどうして機能しないのか知りたくない?それは大抵の投資家が煽動・宣伝家で、企業をよりよく分析するというよりは、短命な「最新情報」を探しているからだよ。

実際の食料を生産するのはやめ、「食事の経験」を売り込む食品メーカーのように。

分析やレポートといった長命で質の高い内容を捨てて、低コストで使い捨ての芸能情報を好むメディア界のように。

21世紀版エネルギー革命・金融革命・教育革命・医療革命のような波を起こそうとするのではなく、アバターゲームに投資するベンチャー投資家のように。

ゾンビ経済にようこそ。レイオフと一緒にフライドポテトはいかがですか。

2009/06/26

Krugman (1980)

Krugman, Paul R.(1980) "Scale Economies, Product Differentiation, and the Pattern of Trade," AER.

Model
Utility Function

Increasing Return of Scale

Krugman (1979)

Equilibrium
FOC of UMP

Profit Maximization

Zero Profit


Open Economy
2-country

Iceberg Transport Cost
1/g units produced and shipped to deliver 1 unit.(0<g<1)
これは国外製品の消費に関わっていて、UMPのFOCから舶来品をどれだけ好むか定めることができる。


Balance of Payment
輸入品の消費に関する係数をσとしておく。
Foreign Consumption of Home Goods (Home Price)

Home Consumption of Foreign Goods (Foreign Price)

Relative wage and relative price

Balance of Payment (mesured in wage unit of foreign country)

σはωの増加関数で、σ*はωの減少関数であるので、トレードバランスが均衡する相対賃金が存在する。ω=1にしても必ずしも均衡しない。他の条件を同等とすれば、人口が大きい国ほど賃金が高いことになるらしい。
生産費がどこでも同じとすれば大規模な市場に近いほど輸送費が小さいので恩恵が受けられる。もし労働移動が制限されているならば、賃金の面で差が出てくる。


Home Market Effects
自国市場が貿易パターンに影響を与える。
財にはalphaとbetaの二種類があって、自国ではalpha財を多く生産して外国ではbeta財を多く生産すると考える。貿易によって自国と外国におけるalpha財の生産量の比は以下のようになる。

つまり、自国におけるalpha財の生産をゼロにすることはないのである。したがって、自国市場で比較的大量消費されていた財が集約的に生産されるわけである。

2009/06/25

Gu (2009)

Gu, Shi-Jian (2009) "Super Mario’s escape trip — a proposal of object-intelligent-feedback-based classical Zeno and anti-Zeno effects"

量子論へゲーム論を導入する画期的内容!

Abstract
スーパーマリオは悪魔によって有限井戸型ポテンシャルに囚われている。マリオは浮いている階段を使ってジャンプをすることで井戸から脱出することができる。しかしながら、憎たらしい悪魔は時としてマリオの状態を確認するかもしれない。その時彼は、脱走の発覚を避けるために即座に地面までジャンプするか、脱走プロセスのスピードを上げるか判断しなければならない。それゆえに、悪魔がチョー頻繁にマリオをチェックしたら、マリオが天井にある出口まで到達する確率はゼロになって常に井戸の中にいることになる。これは古典的なゼノ効果が働いていると考えられる。一方、チェックとチェックの間の時間が十分に大きいならば、マリオが高いところまで来ていて、もはや悪魔がどうもこうもできなくなる確率が高くなる。だから、悪魔のチェックは彼女の脱走スピードをアップさせて、古典的な反ゼノ効果が生じることになる。

近能(2002)

近能善範(2002)「自動車部品取引のネットワーク構造とサプライヤーのパフォーマンス」『組織科学』

競争優位の源泉に関して、競争環境に着目する外向きな見解と企業の保有資源・能力に着目する内向きな見解が主流になっている。構造的埋め込み理論はその中間であり、「競争優位をもたらす保有資源・能力の構築に対して、企業が埋め込まれているネットワークが果たす役割が大きい」と考えられている。

この論文では構造的埋め込み理論の立場にたって、自動車部品取引におけるネットワーク構造を分析する。もともと、個々の取引関係に関する実証研究は存在してたが、ネットワーク構造の差異が競争力にどのような関係をもたらすのかという研究はされてこなかった。

実証分析の結果、「主要顧客である自動車メーカーから見て重要度が高い存在となり、なおかつ複数顧客との取引関係を維持するサプライヤーは、部品の取引継続に有利な傾向が見られる」ということが明らかになった。要するに、取引先を増やすのみならず、取引先からの信頼や依存を勝ち得ることが重要ということになる。

2009/06/24

Dunning (1988)

Dunning, John H. (1988) "The Eclectic Paradigm of International Production: A Restatement and Some Possible Extensions," Journal of International Business Studies, Vol.19, No.1, pp.1-31.

Eclectic Paradigm
折衷理論とは海外直接投資に関する様々な既存研究を総括する理論らしい。その理論枠組みはOLIアプローチといって、第一に所有による優位、第二に内部化による優位、第三に立地による優位という順番で条件を見たときに全ての条件を満たすならば海外直接投資を行なうというものらしい。

O: Ownership
他にはない特殊資産を持つことを資産優位性、他にはない特殊取引関係を持つことを取引優位性と呼ぶらしい。

I: Intarnalization
Coaseの枠組みのように、市場の失敗を避けて組織で調達することが考えられる。そのためには組織を内部化することの優位性が高くなければならないが、これを内部化優位性と呼ぶらしい。

L: Location
おそらくこの段階では組織の内部化を行なうことは決定済みであり、あとは内部化の舞台となる立地を考えなければならない。こうした優位性は国とか地理とかに特殊的なものであり、海外直接投資の鍵になるようだ。

Restatement
以上のOLIアプローチはなかなかの批判を受けたらしく、Dunningは要素賦存量と市場の失敗の文脈で説明をしなおす。ここが論文の中心だと信じたい。その後ろのSome possible extentionsはまったく重要でない。

国際生産のタイプ立地優位性に関わる要素賦存量立地優位性と資産優位性に関わる構造的な市場の失敗取引優位性と立地優位性と内部化優位性に関わる取引的な市場の失敗
市場開拓国内において資産優位性を作りだされている。特殊資産が特定の国以外から調達できないとき、その国は立地優位性がある。

市場規模や市場特性も関係する。
生産要素を手に入れることに企業特殊性があるとか、貿易規制があると、売手寡占となる。探したり交渉したりするコストが小さいとか。
所有権に関わる法制度がしっかりしているとか。
リスク分散型国際ポートフォリオの一部にできるとか。
競合の行動から守ってくれるとか。
資源確保国内においては同上。市場規模と市場特性も考えられる。
生産要素や生産技術の利用可能性が投資先として考慮する材料となる。
同上のケースで、さらに市場参加すら難しい場合、政府によるFDI要請がインセンティブとなる。このとき売手寡占が可能。供給を安定化するためと、将来的に市場調達が不可能になることを見込んで、組織の経済学の立場から垂直的統合を説明。
効率性追求垂直的FDIについては上の2つと同様。
水平的FDIについては要素賦存量の分布とHecksher-Ohlin-Samuelsonの定理で説明。
政府の減税政策、投資促進政策、貿易規制とか。規模の経済と範囲の経済。
多角化によるリスク分散。

2009/06/23

西口(2003)

西口敏宏(2003)『中小企業ネットワーク―レント分析と国際比較』有斐閣。

本書は中小企業の分析をネットワークの理論と結びつけ、フィールドワークと国際的な地域比較によって研究したものである。比較の指標となるのはネットワークにおける「レント」である。レントには2種類のレントがあり、情報の仕切りを外すことによる情報共有から生まれるバート・レントと、情報の仕切りを作ることによる協調関係から生まれるコールマン・レントである。バート・レントには「評判」と「中央からの公式な調整」があり、前者はネットワークそのものの信用度からネットワークのメンバーの信用度を推定できるとするものであり、後者は権威機関が参入機会を支援してくれるとするものである。コールマン・レントには「社会的埋め込み」と「情報共有と学習」があり、前者は過去の実績から未来への信頼を推測するものであり、後者は文字通り情報共有と学習から知識創造を得るとするものである。

結論から言えば、5つのインプリケーションが得られた。第一に、多様なニーズに対して、既存の組織や(組織化されていない)社会システムは応ずることができず、何らかの特徴を有するネットワークが次々と発生しているということである。第二に、ネットワークが発生することで情報共有や学習・イノベーションが促されるということである。第三に、コミュニティや協同体といった社会構造が存在する地域において様々なネットワークが確認された。すなわち、ネットワークの形成や発展には地域社会にあるノウハウ等が生かされている。第四に、ネットワークが機能するために信頼は必ずしも必要ではなく、逆に信頼関係は構築されていくというものである。ただし、新しいネットワークを底支えするには社会的関係の構築が不可欠であった。すなわち、新しいネットワークにおいて、新しいメンバー同士が小さな成功体験を繰り返すことで、好循環に信頼関係を生む。第五に、ネットワークに参加する自体にレントがあり、それに維持や発展は依存するということである。

Christensen and Bower (1996)

Christensen, C. M. and J. L. Bower (1996) “Customer Power, Strategic Investment, and the Failure of Leading Firms,”Strategic Management Journal.

技術革新を分析する先行研究としては、資源依存の理論と資源配分の理論がある。資源依存の理論によれば、マネジャーは競争環境が要請する革新プログラムに資源配分をしなければならない。資源配分の理論によれば、保守的なマネジャーは技術革新よりも製品需要が確実のプロジェクトを支援する傾向がある。

では、一見適切なマネジメントが行なわれている企業が、それでも技術変化に直面したときに産業におけるリーダーシップを発揮できなくなるというのはどうしてか。そこで、資源依存の理論と資源配分の理論を折衷し、顧客需要が技術革新における資源配分を形づけると分析する。

技術が顧客のニーズを満たすものである限り、既存企業は包括的な産業技術の発展に貢献する。ところが、同じ企業が、既存顧客の需要に基づいて資源配分をしたりするために、新興市場にとって過剰な技術しか伸びない。逆に新興企業は既存企業の手が届かない顧客層をターゲットとし、そこに即した技術進展がやがて主流の技術を驚かすようになる。

2009/06/20

Diamond and Rajan (2001)

Diamond, Douglas W. and Raghuram G. Rajan (2001) "Liquidity risk, liquidity creation and financial fragility:A theory of banking," JPE.

背景
借り手にとっても貸し手にとっても流動性が重要である。借り手は資金集めがいつもうまく行くとは限らないという不確実性に直面している。貸し手は急に資金が必要になったときに貸した金を回収しなければならないという不確実性に直面している。商業銀行はこうした借り手と貸し手の間に立って金融仲介業務をしているのだ。

モデル設定
Diamond and Dybvig (1983)のように確率的にimpatient lenderとpatient lenderが発生する。impatient lenderはliquidateやsellによって現金を調達する。

さらにrelationship lenderは借り手の情報をよく知っている。資産を差し押さえて現金化する際には他の貸し手よりも資産の用途を知っているので高く処分できる。

後はかなりゴリゴリ。
Lecture Note 1, Note 2

含意
銀行の借方では資金不足の借り手に資金供給している。その一方で資金供給するための資金を預金者から集めている。銀行はfragile capital structure (subject to runs)をもつrelationship lenderなのだ。銀行はfragile capital structureを管理する能力を持っており、その能力から手数料(rent)を得ている。このrentはbank-runが生じると無に帰してしまう。

貸し手と借り手の双方に流動性を供給しているのは金融機関のなかで銀行だけである。MMFでは預金者に対するliquidityを保っている反面、運用は流動性のある資産で行なうのであって、illiquid assetsは避ける。生命保険では契約者に支払うタイミングが観察可能であるから云々。IBは将来のキャッシュフローに興味があって、VCはベンチャーのon-goingに興味がある。

預金資金は安全資産に投じて貸出資金は市場から調達するというナローバンク論は、銀行の流動性供給という役割を殺すことになる。全額保護の預金保険もまた銀行の流動性供給を殺す。部分保護の預金保険はうまくいかないこともない。引出規制は預金者が困ってしまう。

Baumol (1986)

Baumol, William R. (1986) "Productivity Growth, Convergence, and Welfare: What the Long-run Data Show," AER.

横軸にGDP per worker
縦軸にAverage Growth Rate
をとって国別にプロットしていく。
理論的には均衡状態に近づくので右下がりの関係が生まれるはずである。
しかし、実際にはGDP per workerが低いほどGrowth Rateにバラツキがあり、マイナス成長さえも存在する。
この形状は三角形となっており、これをボーモルの三角形と呼ぶ。

後にSala-i-Martinが収斂性を定義した。
均衡水準に収斂していくことをbeta-convergenceと呼ぶ。いわば所得と成長率の右下がりの関係である。
また、所得のバラツキが収斂していくことをsigma-convergenceと呼ぶ。

2009/06/19

Mankiw, Romer, and Weil (1992)

Mankiw, N. Gregory, David Romer, and David N. Weil (1992) "A Contribution to the Empirics of Economic Growth," QJE.

モデル設定
物的資本・人的資本・労働量でできるCobb-Douglas型の生産関数を労働量A(t)L(t)で割って

資本蓄積



Level Effects
均衡状態(steady state)で

Y(t)/L(t)=A(t)y(t)に注意して対数をとると、

あとは色々と仮定をおきつつ実際のデータでregressionを走らせる。
修正済み決定係数によれば、均衡所得の水準がばらついていることの80%をこのモデル説明できた。
係数を見る限り、教育投資や設備投資が均衡所得に影響している。

Growth Effects
均衡状態に至るまでの成長率として

平均成長率を左辺に作るように変形して

これはボーモルの三角形に条件をコントロールすると右下がり関係を導けることを示している。
regressionを走らせてln y(0)の係数が負であることを確認すればよい。