2009/08/31

安場保吉

安場経済学の意義とその背景

開発経済学で結構重要な先生。
安場先生のご研究は経済発展の理論的・実証的・比較経済史的研究に関わる,きわめて幅の広いものである。たとえば,アメリカにおける出生率の研究や米国奴隷制の研究はアメリカ経済史に大きな影響を残した。また,わが国で数量経済史(Quantitative Economic History)と呼ばれる分野における,戦前日本の生産指数や統計の信憑性の検討,日本経済の二重構造に関する考察,海上輸送と工業化についての研究等は学界の財産となっている。安場先生は1970年代からアジア諸国の経済発展にも関心を持たれ,この分野でもパイオニアとなられた。その上で,安場先生はその著書『東南アジアの経済発展:経済学者の証言』(ミネルヴァ書房,2002年11月刊)において,ご自分の立場を「新古典派ラディカル政治経済学」とまとめられた。

2009/08/29

Krugman (1994)

Krugman, Paul (1994) "Competitiveness- A Dangerous Obsession," Foreign Affairs.

製造業の衰退は消費構造の変化であり、貿易赤字のせいではない。
国際貿易はプラスサムであり、国ごとに競争するものではない。
参照→kuma_asset

Shin (2009)

Shin, Hyun Song (2009) "Financial Intermediation and the Post-Crisis Financial System," mimeo.

証券化は信用リスクを分散させるものであり、金融仲介が長いほど短期貸しと長期借りのギャップを埋めることができるとされていた。しかし、今回の金融危機はそれ以外の可能性を指摘した。証券化はレバレッジのかかったセクターにリスクを集中させた。短期債券は金融仲介業での貸し借りが大きく膨らんだ。金融仲介業同士は大きく絡み合うようになった。金融仲介の鎖が長くなることで、レバレッジの倍率とバランスシートの大きさが膨らんだが、鎖は短いほうが金融システムは安定的になる。

2009/08/24

Buera and Kaboski (2009)

Buera, F. J. and Kaboski, J. P. (2009), The Rise of the Service Economy, NBER WorkingPaper 14822.

原点から正の無限大までにサービスを配置して、パラメータが小さいほど簡単なサービスで大きいほど複雑なサービスとする。サービスは家庭で作り出すか、市場から調達するか選ばれ、工業製品はサービスに付随して消費される。家庭で作り出されるサービスはカスタム化可能なので高い効用が得られる一方、市場のサービスは低いコストで調達できる。

所得が上昇するにしたがって、より複雑なサービスが消費されるようになり、最初の段階では家庭ではなく市場から安く調達される。経済全体の生産性成長にしたがって、コストよりも効用のほうが重要になり、市場から家庭へと消費がシフトする。したがって、サービス財を消費せず→市場サービス財を消費する→家庭サービス財を消費する、というプロダクト・サイクルがみられる。一方で、低スキル労働者の世代が高スキル労働者に置き換わると、機会費用の関係で、家庭サービス財から市場サービス財へと消費行動が変わる。

この論文では、三つの事実をモデル化した。第一に、サービス財の消費が増え、GDPにおけるサービス部門の割合が60%から80%に増えたこと。第二に、低スキルなサービス業が衰退する一方で高スキルなサービス業が25%も増え、スキル集約的なサービス財の量と対価が増えたこと。第三に、大卒の給料と高卒の給料の比が125%から200%に増えたこと。

2009/08/19

Antras et al. (2006)

Antras, Pol, Luis Garicano, and Esteban Rossi-Hansberg, 2006. "Offshoring in a Knowledge Economy," The Quarterly Journal of Economics, MIT Press, vol. 121(1), pages 31-77, 02.

Model
様々なスキルをもつ人々がチームを組んで問題解決という生産活動をする。各チームはひとりのマネジャーとマネージャーのスキルに対応した労働者が就く。コミュニケーションコストが小さいほど多くの労働者で厚生可能である。
開放経済においては市場としてNorthとSouthを考える。SouthはNorthよりもスキルの上限が低い。SouthがどれほどNorthのスキルに追いついているかというパラメータとしてOverlapを設定する。Overlapにより均衡が二種類現れる。Southがすべて労働者になるLow Quality Offshoring EquilibriumとSouthにもマネジャーが残るHigh Quality Offshoring Equilibriumである。Communication costとOverlapが低いときLQEとなり、高いときはHGEとなる。

Globalizationの影響
LQEなときにはNorthの賃金格差が広がり、HQEなときには賃金格差は小さくなる。Northにおける限界収入はskillが高ければ増えるが、低ければ減る。

LQEなときにはSouthの低スキル労働者の賃金が上昇し、HQEなときには賃金は下がる。LQEなときにはNorthの低スキル労働者の賃金が下がり、HQEなときには賃金が上がる。最低水準のスキルを持つ人々は賃金が下がる。

Communication Costの低下
悪いマネジャーが労働者とうまく仕事ができる一方で、良いマネジャーが労働者とマッチしなくなる。労働者におけるスキルのバラツキが増えることによって、賃金格差が広がる。収入のベースラインは何の話なのかよくわからん。

Skill Overlapの増加
限界収入のバラツキが減る。収入のベースラインは上がる。労働者におけるスキルのバラツキが増えることによって、賃金格差が広がる。

2009/08/18

Iversen and Wren (1998)

Iversen, Torben and Anne Wren (1998) "Equality, Employment, and Budgetary Restraint: The Trilemma of the Service Economy," World Politics, July 1998.

1960年代まで製造業が雇用の中心だった。経済成長によって、必需財から工業製品へと需要が移り変わり、エンゲルの法則が働いた。さらに、生産性の向上から相対価格が下がり、マテリアル財(テレビ、家、車、家電など)の潜在的ニーズが満たされるに至った。製造業が経済成長を牽引し、雇用を吸収するとともに、実質賃金を引き上げたと言って良い。

1970年代後半以来の20年間で経済構造は大きく変化した。国際化によって政府の役割が限定的になるとともに、新興国が低賃金労働力を供給するようになった。賃金格差と失業の発生は公共部門の拡大によって緩和できるかもしれないが、財政規律との両立は難しい。

工業製品自体も市場全体に行き渡り、量より質が求められるようになった。工業製品の需要が伸び悩む代わりに、サービス財へと需要がシフトした。そして、サービス部門が成長の源泉となるに至っている。ところが、サービス部門自体は生産性の向上の余地がなく、雇用が拡大しているところは低賃金となる。公共部門で高賃金の雇用を確保することは可能だが、財政への負担となる。以上がサービス経済のトリレンマとなる。

エスピンアンデルセンの福祉国家レジームによってトリレンマにおける位置づけを分類できる。自由主義国家においては財政規律と雇用を重視する。保守主義国家においては財政規律と平等賃金を重視する。社会民主主義国家においては雇用と平等賃金を重視する。

Hicks(1937)

Hicks, John R. (1937) "Mr. Keynes and the 'Classics'; A Suggested Interpretation," Econometrica, Vol. 5, No. 2 (Apr., 1937), pp. 147-159.

Hicks(1937)はKeynesの一般理論をIS-LMモデルへと昇華させた。従来の新古典派のモデルでは、 I(Yf, i)=S(i), M=kYとなる一方、Keynesモデルは、I(i)=S(Y), L(i)=Mとなっている。新古典派では所得は完全雇用水準であり、 貨幣量との間に貨幣数量説が成り立って、貨幣の中立性が保たれる。このHicksに書き改められたKeynesモデルが初期のIS-LMモデルである。縦軸に利子率、横軸に所得をとれば、二つの関係式をIS曲線とLM曲線として図示することができ、経済を簡易に表現できるようになった。このIS-LMモデルを原型にマクロ経済学が発展したわけである。

Blanchard and Perotti (2002), Mountford and Uhlig (2005)

Mountford, Andrew and Harald Uhlig (2005) "What are the Effects of Fiscal Policy Shocks?," SFB 649 Discussion Paper 2005-039.
Blanchard, Olivier J. and Roberto Perotti (2002) "An Empirical Characterization of the Dynamic Effects of Changes in Government Spending and Taxes on Output," Quarterly Journal of Economics, Vol. 117, Issue 4 (Nov., 2002), pp. 1329-1368.

Mountford and Uhlig (2005)は、構造VARの枠組みで政策ショックを適当に識別し、 1955年から2000年におけるアメリカの四半期データを分析した。重要なインプリケーションは以下の4つである。第1に、予期されない減税が最も高い乗数効果で経済を刺激する点である。ただし、減税分の財源は国債で補われる。第2に、政府支出乗数が低い点である。 従来型のIS-LMモデルでは、増税を伴わない国債を財源とした財政出動が、減税よりも乗数が高い。ところが、この実証分析では減税のほうが効果的であったのである。第3に、財政支出は利子率を上げることなく、投資をクラウディングアウトする点である。従来型のIS-LMモデルでは、政府支出は利子率の上昇を通じて民間投資を阻害していた。第4に、財政政策の結果を分析する際には景気変動ショックの制御が課題となる点である。

 MU論文において、政府支出と政府収入の定義はBlanchard and Perotti (2002)に依拠していた。 MU論文は景気変動ショックによって、景気による財政政策の影響を考慮している。 MU論文とBP論文を比較すると、共通点として増税でも財政出動でも投資が減少する現象が観測されている。 また、財政出動の影響として、 BP論文では民間消費が増加するが、 MU論文でも民間消費に大きな影響を与えない。民間消費が減少しないことは RBCモデルと合致しないし、民間消費が増加しないことは従来型のIS-LMモデルと合致しない。そして、減税の効果が、財政出動の効果よりも大きかった。

 MU論文とBP論文における乗数効果をまとめる。財政支出乗数は、MU論文もBP論文も小さい。減税乗数は、 MU論文で大きな効果を発揮する一方で、BP論文はやや弱い影響であった。

Romer and Romer (2007)

Romer, Christina D. and David H. Romer (2007) "The Macroeconomic Effects of Tax Changes: Estimates Based on a New Measure of Fiscal Shocks," NBER Working Paper No. W13264.

Romer and Romer (2007)によれば、政策ショックを外生的に識別することで、減税乗数が大きいという結論を導いている。 RR論文の発見は6つ挙げられる。第1に、減税乗数の大きさである。減税乗数は約3であり、きわめて大きい乗数効果を生じる。第2に、政策ショックの識別である。既存の研究では税収から景気循環による影響を考慮して識別していたが、RR論文では公式文書を基に識別している。その結果、既存の研究よりも高い乗数が算出された。第3に、投資が増税によって減りやすいことである。減税乗数の大きさも、 投資への影響力で説明可能である。第4に、減税の効果が持続性を持つことである。すなわち、物価上昇率や失業率を見る限り、減税によって生産水準が持続的に引き上げられ、物価水準に大きな影響を及ぼすことはない。第5に、政治家による増減税は景気安定化に失敗している。景気安定化のためには、 好況時には財政黒字、不況時には財政赤字が教科書的である。しかし、景気回復の最中に増税をするような政治家は稀有である。第6に、恒常的(inherited)な財政赤字を解消するための増税は他の理由による増税よりも生産水準の引き下げる影響は小さい。財政再建路線が長期利子率を低く抑えるからであると言える。

2009/08/17

Refuted economic doctrines (in Japanese)

ざっとメモ。細かい内容はよくわかんない。

#1: The efficient markets hypothesis
EMHでは市場がすべてを織り込むとしていたが、過去のチャートから将来を予測することはできないという意味ならばまだしも、市場がすべてを織り込むとするのには実証研究が否定的であるし、それにバブルなんて起こるはずもない。EMHが否定されている以上、市場は政府よりも優れている点も劣っている点も持っている。混合経済が計画経済とレッセフェールのどちらよりも望ましいということになる。

#2: The case for privatisation
民営化は政府事業の切り売りによって財政を健全化するとともに事業の効率化が実現できるという意味と、政府では実現しえない効率的な資本配分を達成するという意味があった。とはいえ、これは市場が機能しているということが前提である。
株式のリターンのほうが債券のリターンよりも高いという株式プレミアムパズルというのがあって、EMHの通りに株式市場は経済を反映しているので株式リスクではなく経済リスクを反映しているからという理由と、単に債券に流れないようにプレミアムを乗せるためという理由が考えられた。しかし、EMHの崩壊でこれらの理由はパァになった。

#3: The Great Moderation
21世紀初頭の世界的な超安定成長(The Great Moderation)は金融政策ツールの向上だとか自由主義の恩恵だとか色々と理由付けはされていたものの、急に消滅してしまった。

#4: individual retirement accounts
年金運用が溶けまくりである。いわゆる安全資産が実はジャンクということもあったし、財務アドバイザーも役に立たず、株式は長期的投資に向くとかいうのもウソだった。やり方を変える必要があるだろう。会社ごとの確定拠出型年金を連携させてもよいし、国家的な老年年金でもよいだろう。年金改革は必要不可欠である。

#5: Trickle down
富裕層を伸び伸びさせておけば経済全体に恩恵が降ってくるというのがトリクルダウン理論であった。たとえば、PE企業などによる株式売買が資本配分を効率化させるし、クレジットカードの充実で生活を楽しむことができる上に将来所得や株価・不動産価格の上昇期待から一時的な所得変動を乗り越えることができるし、富裕層向けの贅沢品などの産業が発展して雇用が発生するということになる。ところがバブル崩壊で金融サービスの虚構とか家計の破綻とかが現れるようになってしまった。

#6: Central bank independence
中央銀行の独立性によって、均衡財政と中央銀行による金融政策を両立させていたが、危機時において中央銀行の金融政策に財政ファイナンスが必要となる。

#7: New Keynesian macroeconomics(himaginary)
New Keynesianの中心テーマは、Old Keynesianにミクロ的基礎付けがないとするマネタリストや新しい古典派の批判を需要面で応えるという必要性であった。不完全競争の世界を仮定して、価格硬直性から生まれる小さな景気変動がその一例である。New Keynesianは新しい古典派のような自由競争論に対する反駁である。k%ルールや均衡財政ではなく、中央銀行の利子率操作やビルドインスタビライザーな財政政策といった中期的なマクロ政策を正当化する理論的枠組みとなっていった。しかし、どちらにしろ崩れてしまった現在は防御側になる必要もない。

#8: US labor market superiority
初期の研究では「雇用の流動性が高い=失業率が低い」だったが、後々の研究では「雇用保護法=雇用の安定化+失業率引き下げ」などとされていた。米国の失業率が欧州の失業率を上回って、どちらが正しいのやら。

#9: Real Business Cycle Theory(himaginary)
新しい古典はにおいては雇用等の変動を外生的ショックと見なしたが、RBCにおいては雇用等の変動が社会全体の最適反応であると見なした。が、今回の危機において役に立っていない。また、カリブレーションという手法を導入し、これはニューケインジアンにも応用されている。しかし、ニューケインジアンもまた今回の危機では役に立っていない。

2009/08/06

Rajan (2005)

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』より。

Has Finance Made the World Riskier?
Raghuram G. Rajan

直接金融の進展は銀行という仲介機能が消滅した(disintermediation)とみなされるが、実際にはファンドなど新しい仲介役の登場した(Reintermediation)とみたほうがよい。

Reinhart and Rogoff (2004)

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』より。

Carmen M. Reinhart & Kenneth S. Rogoff, 2004. "Serial Default and the "Paradox" of Rich-to-Poor Capital Flows," American Economic Review, American Economic Association, vol. 94(2), pages 53-58, May.

新興国が海外からの資本流入に頼らずに経済発展を目指すことは望ましい。海外から資本を借りるのは資本市場と財政基盤が既に整っている国に限定さっれるべきである。このことは、所得水準と資本市場の完備性と対外借入の規模の三つには正の相関関係があることから明確にわかる。そのため、新興国はまず財政を均衡させ、インフレを起こさない政策規律を学習するとともに資本市場のインフラを整えるべきであり、そうでなければ外国からの借り入れに頼り切ってしまう。

Obstfeld and Rogoff (2005)

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』より。

The Unsustainable US Current Account Position Revisited
Maurice Obstfeld and Kenneth Rogoff

銀行危機の裏には住宅バブルがあった。スペイン(1997)ノルウェー(1987)フィンランド(1992)スウェーデン(1991)日本(1992)は、それぞれ実質住宅価格がバブル状態であると同時に、崩壊後の経済成長率は酷く落ち込んでいる。一般的な先進国の銀行危機においては、経済成長率は2年間2%ほど落ち込むだけであるが、この五カ国については5%の下落となり、3年後になっても完全には回復しない。

Caballero (2006)

On the Macroeconomics of Asset Shortages
Ricardo J. Caballero
NBER Working Paper No. 12753
December 2006

世界的には金融資産が不足している。家庭、会社、政府、保険会社、金融仲介機関による資産と担保として金融資産がグローバルに必要なのであるが、資産の供給がそれ追いついていない。金融資産の不足に対して資産の価格とバリュエーションの均衡が反応するということが、ここ20年の世界的経済成長で中心的役割を果たしている。いわゆる国際収支の不均衡や、(新興市場、ドットコム企業、不動産、金など)投機バブルの再発的な緊急事態、歴史的に低い実質金利と低い長期金利、世界的なディスインフレ現象や地域的なデフレ現象など、このasset shortageという観点から説明できる。

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』によれば、フレームワークとしては次のようになる。つまり、実物財と金融資産の二財モデルを考える。ワルラスの法則から、供給過多のとき相対価格は下がり、需要過多のとき相対価格が上がる。新興国において投資対象が不足しているために、金融資産の相対価格が上がると同時に、実物財の相対価格が下がると説明できるとのこと。

Tirole (1985)

Tirole, Jean (1985) "Asset Bubbles and Overlapping Generations," Econometrica, Vol. 53, No. 6. (Nov., 1985), pp. 1499-1528.

バブルを作るのは、耐久性・希少性・共通のBeliefである。バブルは必ずしも悪いものではなく、動学的効率性を満たすようにできる。動学的効率性の条件とは、経済成長率よりも投資収益率が大きい状態である。投資が過剰に行なわれているとき、経済成長率のほうが投資収益率を上回り、動学的効率性の条件が満たされない。

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』によれば、バブルな財に投資することで、資本投資が減るとともに投資収益率が上がり、資本の減耗とともに資本設備が適正水準となって動学的効率性の条件が満たされる、となるそうだ。これは世代重複モデルで描写される。

Samuelson (1958)

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』に若干の説明もあるが、主にLjungqvist and Sargentを参考。

An Exact Consumption-Loan Model of Interest with or without the Social Contrivance of Money
Paul A. Samuelson
The Journal of Political Economy, Vol. 66, No. 6. (Dec., 1958), pp. 467-482.

世代重複モデルにおいて最適消費量は(i)各世代の予算制約下における効用最大化(ii)各期におけるマーケット・クリアリングを満たす。しかし、この最適消費量が必ずしも達成されるとは限らない。というのも、今期においてyoung世代がold世代にお金を貸したとき、来期にはそのold世代がいないからである。このように、最適消費量の達成のためにyoung世代がold世代にお金を貸すことになるケースをサミュエルソンケースと呼ぶが、これは不換紙幣を導入することで達成できる。

資本主義は嫌いですか



確率的現象で、ヘッジできるものが「リスク」であり、ヘッジできないものが「不確実性」であるというのがKnight (1921)の思想だったそうだ。リスクの領域で勝負している限り、金融業界は儲からない。したがって、不確実性に挑戦するわけであるが、投資家から集金するためには確率的にテイルをなしているところにリスクを押し込んで不可視にしてしまえばよい。しかし、一旦信頼を失うと一気に弾けてしまう。

経済論戦は甦る』と同様、様々な論文をサーベイしているのは参考になる。
Samuelson (1958), Tirole (1985), Caballero (2006)

Caballero and Hammour (2005)

経済論戦は甦るより。

The Cost of Recessions Revisited: A Reverse-Liquidationist View
Ricardo J. Caballero and Mohamad L. Hammour
The Review of Economic Studies, Vol. 72, No. 2 (Apr., 2005), pp. 313-341.

1972年から1993年までのアメリカ製造業における雇用破壊と雇用創造のデータ分析をする。雇用破壊とは既存企業による解雇者数を指し、雇用創造とは新規参入企業により創出された雇用者数を指す。これらのインパルス反応関数を計算するということらしい。

その結果、不況時においては雇用破壊は大幅に増加する一方、雇用創造は減少する。不況終了後、時間が経過するとともに、雇用破壊の水準は最初の状態より低水準となり、雇用創造は最初の状態に向かって回復するという。結果的に、不況は結果的に既存企業よりも新規産業のほうを殺すということになる。これの理論付けとして、労働市場と資本市場にホールド・アップ問題によるレントの発生を導入することで説明できるらしい。

不況発生時の雇用破壊の急増としては二つの説明がなされる。第一に、設備の老朽化(ろうきゅうか)によって既存企業が退出するケースである。第二に、不況の影響で被った損失をカバーするだけの外部資金を得られなくなった既存企業が退出するケースである。前者のケースがシュンペータ的な破壊、後者のケースが無益な破壊と命名される。

不況発生時の雇用創造の落ち込みとしては、次のような説明がなされている。不況により企業収益が減少するので、新規参入も減少する。どの企業家が不況でも参入できて、どの企業家が参入できないのかという選別は、各企業家の技術ではなく純資産で判断される。そのため、不況によって生産性の低下が生じる。

つまり、不況発生時には無益な破壊が発生するとともに、シュンペータ的破壊が発生するものの、その後シュンペータ的破壊は逆に減少する。また、不況発生により企業家の純資産が低下し、新規参入のハードルが高くなるが、不況からの回復期には破壊に急激なブレーキがかかるので、創造の増加にも歯止めがかかる。ということらしい。

2009/08/05

Calomiris and Wilson (2004)

経済論戦は甦るより。

Calomiris, Charles W. and Berry Wilson (2004) "Bank Capital and Portfolio Management: The 1930s “Capital Crunch” and the Scramble to Shed Risk," Journal of Business.

企業家が投資家を選ぶという逆選択に対して、投資家は二通りの方法で対抗できる。第一に、融資を減らして、流動的な資産に持ち替えることである。第二に、不良債権の発生が預金に悪影響を与えないように、増資によって自己資本のバッファを増やすことである。大恐慌におけるニューヨークの市中銀行は圧倒的に第一の方法であり、貸出量の簿価と流動資産の比率を見ると、1922年から1931年にかけて2.06から3.33に上昇していたものの、それ以降低下を続けて1940年には0.25となった。第二の方法に関しては1930年以降の市中銀行は増資をしていないという事実がある。

Bernanke (1983)

経済論戦は甦るより。

Ben S. Bernanke (1983). "Nonmonetary effects of the financial crisis in the propagation of the Great Depression". American Economic Review 73 (3): 257–276.

大恐慌における貸し渋りを実証分析する。大恐慌における事実として、銀行の倒産規模が上昇するとともに、銀行以外の事業の倒産規模、とくに中小企業の倒産規模も上昇し、住宅ローンの債務不履行も急増していた。銀行貸出の規模として、商業銀行貸出残高の純増を個人総所得で割ったものを代理変数とすると、1930年10月までは比較的安定して推移していたものの、銀行の倒産規模が最高となった1930年10月には銀行貸出の規模も30%低下していた。
銀行預金に対する銀行貸出の比率を見ると、1929年には85%以上が銀行貸出に回されていたが、1930年10月から1933年1月にかけて72%から58%と急減した。預金が流動的資産へシフトするという貸し渋りの傾向が見られる。
大恐慌時のリスクプレミアムは拡大しており、1930年から1932年にかけて、BaaとTBの利子率格差は2.5%から8%へと拡大している。

Kiyotaki and Moore (1997)

経済論戦は甦るより。

Kiyotaki, Nobuhiro and John Moore. 1997. Credit Cycles. The Journal of Political Economy, Vol. 105, No. 2 (Apr., 1997), pp. 211-248.

投資家と企業家の間にあるホールドアップ問題に着目する。企業家は土地から生産価値を生み出す。生産規模の拡大のためには土地を購入する資金が必要なので、純資産以外に投資家から借りることになる。資金が一旦貸し出されると、企業家によるホールドアップが予想されるので、投資家は企業家の土地を担保とする。ゆえに、土地の担保価値に等しい分だけ、企業家は投資家から借り入れることができる。
何らかのショックによって企業化の所有する土地の担保価値が低下したとき、投資家が貸出しを減らすことになるので、企業家が土地の購入を控えることになる。土地の需要が減ると土地の値段が低下することになるので、土地の買い控えと担保価値の減少の相乗効果によって加速度的に地価が低下することになる。
こうしたデフレスパイラルに対しては、投資家から企業家への富の移転が求められる。企業家の資産の担保価値が増加すれば好循環が生まれ、実質国民所得も増加する。(ただし、デフレスパイラル自体はforward-lookingに織り込まれてしまう。現実にはダラダラと下がるらしい。)

Bernanke and Gertler (1990)

経済論戦は甦るより。

Bernanke, Ben and Mark Gertler. 1990. Financial Fragility and Economic Performance. QJE.

企業家と投資家の間に情報の非対称性が存在する。企業家の責任が限定されているために、risk-lovingに事業を行なう。この傾向は事業に出資する純資産が少ない企業家ほど顕著である。したがって、純資産が少ないほど、貸出の利子率にリスク・プレミアムが上乗せされる。リスクプレミアムが上乗せされるために、ある純資産を下回ると投資を見送らざるをえなくなる。多くの企業家がこの純資産を下回るとき、経済が急激に収縮することになる。
政策インプリケーションとしては、(投資家と企業家の間に立つ)銀行が企業家の能力をモニタリングする必要があるということが提言されている。つまり、企業家のrisk-lovingな事業を回避するためには、計画の見送りに対して報酬を与える必要がある。この投資家から企業家への富の移転によって経済が正常化するわけだが、これとしては過剰債務を抱える企業家に対する投資家の債権放棄が挙げられる。銀行が投資家と企業家の間に立っているとき、銀行に対する公的資金の注入が投資に対してプラスの効果をもたらす。銀行が競争的行動をとるとき、銀行セクターに対する支援は企業家への支援となる。

2009/08/03

Aghion and Saint-Paul (1993)

経済論戦は甦るより。

Aghion, Philippe and Gilles Saint-Paul, 1993. "Uncovering Some Causal Relationships between Productivity Growth and theStructure of Economic Fluctuations: A Tentative Survey," NBER Working Papers 4603.

短期的なマクロ経済ショックである不況によって、生産性向上が促進されるというプラスの長期的経済効果が働く可能性を指摘。
(1)不況が非効率な企業を退出させる。
(2)生産性向上のためのトレーニングに経営資源を投入しやすくなる。
(3)不況が組織改革のインセンティブを高める。
(4)不況に直面することで、正しい経営判断が求められる。

Peek and Rosengren (2000)

経済論戦は甦るより。

Peek, Joe and Eric S. Rosengren, 2000. "Collateral Damage: Effects of the Japanese Bank Crisis on Real Activity in the United States," American Economic Review 90, 30-45.
不況下では貸し手のストック減少のみならず、借り手の投資縮小が考えられる。邦銀の貸し渋りの影響から借り渋りの影響を除去するために、不況の影響を受けていないアメリカ企業への貸出を見る。すると、米銀や日本以外の外国銀行からの貸出はパターンやトレンドは見られない。しかしながら、邦銀の貸出は1986年から1991年まで急速に上昇した後、1992年から急激に下落した。これは株価半減による含み益の消滅から、バーゼル協定の定める自己資本を資産圧縮によって確保する必要があり、長期的関係のない海外案件から貸し渋りをしたと推測される。

経済論戦は甦る


小泉政権を清算主義(Liquidationism)とDebt Deflation理論(リフレ主義)の論争として描写する。清算主義はシュンペーターの創造的破壊であり、不況を新陳代謝の調整プロセスとして正当化する。Debt Deflation理論はアービング・フィッシャーが代表的論者で、デフレ・スパイラルによるシステムのメルトダウンを食い止めるべしという。

なかなか様々な論文をサーベイしているので、参考になると思われる。
Diamond and Rajan (2001), Peek and Rosengren (2000),Aghion and Saint-Paul (1993), Bernanke and Gertler (1990), Kiyotaki and Moore (1997), Bernanke (1983), Calomiris and Wilson (2004), Caballero and Hammour (2005)