2010/02/14

Lost Decades #3

全国市街地価格指数は1991年9月末にピークに下落する一方であるようだ。土地については場所によって指数も違うが、同じ場所でも一物四価、一物多価と呼ばれる。時価、公示価格、相続税評価額、固定資産税評価額の四価に加えて、路線価、基準地価などなど。Kiyotaki-Mooreは担保となる生産要素の価格をモデル化しているが、実証はされているのだろうか。

日本労働年鑑 第66集 1996年版
http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/rn/1996/rn1996-039.html
東京都の人口。1965年から伸びが鈍化しており、1990年-1993年は横ばいである。本社機能が東京一極集中していることを考えると、東京都人口と日本経済に相関関係があるかも。

第一次産業は1975年に折れる。これはルイスの転換点として研究されていたはず。理髪料金の値段が面白い。これを労賃の指標とすると、大量生産物は値段が変わらない一方で、労賃が上がり続ける。そして米価も上がっていて、カレーライスの値段がそれに似た動き。物価上昇は労賃に関係しているのだ。したがって、リフレ政策は効果なしと思われる。

2010/02/12

Lost Decades #2

自動車製造業
http://e2a.jp/number/080218.shtml
なんと国内自動車生産台数のピークは1990年、自動車製造業従事者のピークは1991年の94万人である。もっというと完成車製造業従事者のピークは1985年であり、部品製造業従事者が近年は伸びていた。2001年の80万人がボトムのようだ。

2010/02/10

Lost Decades #1

日本は失われた10年、失われた15年、失われた20年などと言われ続けているが、ピークとしては株価の最高値は1989年38915円87銭、ドル建てGDPの最高値は1995年5兆2640億ドル、名目GDPは2007年515.7兆円などというようにバラバラ。生産指標はおおよそ横ばいで推移していて、シュリンクしているのは株価程度。もうちょっと細かい指標を見てみよう、とふと思った。

新聞の発行部数
http://www.slis.keio.ac.jp/~ueda/sotsuron98/koyama98.html
http://walking-elephant.blogspot.com/2008/08/ipod.html
おおよそIT化の影響が大きい。伸び悩みはむしろ人口増加率減のようだ。

2010/02/05

大英帝国衰亡史

神野直彦先生は「宇沢先生によれば、ローマ帝国衰亡史と同様、アメリカ帝国は2011年に崩壊する!」と東大最後の授業で煽っていた。どうやらローマ帝国は10年かけて崩壊したらしく、アメリカ9・11の2001年から10年ということのようだ。それと関連して、この大英帝国衰亡史の行っていることが面白い。
英国は興隆していくにつれて市場を開放し自由貿易を促進していったが、そのうちに製品はほとんど輸入品になり、最後に残された砦が金融業界であったこと。そして貿易黒字を貯め込んで、その資産を海外に投資して、海外の資産の収益で輸入品を大量に買い始めた。もともと英国は軍事費はとても少なかったが、その海外の資産を守るために、急激に国防費を増やしていき、その国防費負担が大幅な財政赤字へとつながっていって、国力の衰退へとつながっていった。
大英帝国衰亡史
http://d.hatena.ne.jp/yumyum2/20010319/984928152

Google技術講演会

音声ファイル
http://www.megaupload.com/?d=2SRKMVRR
質疑応答もあったのだが、筑波大を名乗る就活生に意味不明な質問を沢山されてしまった。(小生が技術に疎いからかもしれないが。)小生がした質問は「Google日本語変換ってアプリケーションによっては挙動が不審なんだけど!」エンジニアの答えは「XPをお使いですよね?XPはTSFからIMMへの移行期であり、どちらかというとOS上の問題。もちろん、OpenOffice.org等はまた別の問題ですが。」いじわるな質問にもきちんと対応するエンジニアかっこいい!!さすがに筆記用具・メモ帳すら持たずに手ぶらで行っただけなので質問の答えは専門外だったが、ここはGoogle先生に聞いて補完しておいた。

ちなみに20%プロジェクトは、任意じゃなくて義務。したがって、何らかの形で時間の20%を使わなければならない。それから、よくある誤解だが、実際には個人の変換データはグーグルに送られない。64bit版はIM.DLLを書き換えて終了。Google日本語入力はクラッシュ対策のためにDLLを極小化し、レンダラ(変換候補の表示)とコンバータ(変換辞書)を大きくしている。アプリケーションからDLLを通じてレンダラとコンバータに殆どナマの情報を受け渡すのだ。このクラッシュ対策により、アップデートが自然に行なわれる。一度レンダラとコンバータをKILLして、新しいレンダラとコンバータにすり替えたとき、あたかもレンダラとコンバータが同じままにアップデートできているのである。(先日カタカナ語変換ができるようになった。)

※比較的よくまとまっているブログ(大阪講演)
Google日本語入力の技術講演会
http://cpplover.blogspot.com/2010/01/google_30.html
Googleの講演会に行ってきました
http://d.hatena.ne.jp/sak_65536/20100130/1264860202

※比較的よくまとまっているブログ(東大講演)
http://d.hatena.ne.jp/nokuno/20100204/1265304469
http://d.hatena.ne.jp/kazukichi_0914/20100205/1265332682

Chaney (2008)

Distorted Gravity: The Intensive and Extensive Margins of International Trade
By Thomas Chaney
American Economic Review 2008, 98:4, 1707–1721

同じ内容のJob-Market Paper (Distorted gravity: Heterogeneous Firms, Market Structure and the Geography of International Trade)
http://sticerd.lse.ac.uk/seminarpapers/special21022005.pdf

Melitz (2003)を踏み台にして、下記引用部のような対立する見解について、実証分析してる。その結果としてFirm Heterogeneityの仮定のもとでは、(1)貿易障壁が小さくなったり輸出の参入障壁が小さくなったりすると輸出量が増える。(2)代替弾力性の小さいセクターほど、貿易障壁が小さくなった時の貿易増加が小さくなる。

企業の生産性の異質性が貿易量に与える影響の実証
http://tetteresearch.net/seminarpaper/2005/11/16.html
貿易を行うときの障壁が低下したときに貿易量がどれだけ増えるかは、各財の需要の代替弾力性に正に依することがKrugmanのモデルによって示されていた。代替弾力性が大きいと貿易コストの低下で輸出入品の価格が下がったときにそれだけ国内品から需要を奪うからである。しかし、その分析は産業内の企業の生産性が同質であることを前提にしていた。この論文は生産性にばらつきがあるケースでは、財の需要の代替弾力性の影響は正反対になることを示している。生産性にばらつきがあるケースでは,一部の高い生産性を持つ企業しか輸出しない。この場合貿易コストが低下したときにはすでに輸出していた企業が輸出量を伸ばす効果だけでなく,新たに外国市場に参入する企業が出てくる効果も出てくる。後者の効果は代替弾力性が小さいほど大きい。新たに参入する企業は輸出企業の中では比較的生産性が低いので代替の弾力性が小さくて市場競争が激しくないときほどより多く輸出することができるからだ。この後者の効果が大きいと,需要の代替弾力性が小さいときこそ,貿易を行うときの障壁が低下したときの貿易量拡大効果は大きいことになる。

2010/02/04

Johnson (1982)

Chalmers A. Johnson. MITI and the Japanese Miracle: The Growth of Industrial Policy, 1925-1975 (June 1, 1982 ed.). Stanford University Press. pp. 412.
chap.1
いわば通産省の産業政策を経済成長の源泉とする政治学本である。一方、Esteban-Pretel and Sawada (2009)では、産業政策は無効というシミュレーションをしている。とはいえ、後者の論文では産業政策を補助金のようなTangible policiesと行政指導のようなIntangible policiesに分け、経済的な変数として識別できるTangible policiesのみを扱っている。したがって、前者の政治学本はIntangible policiesであり、これを否定したわけではない。そのIntangible policiesを否定する本としては三輪芳朗とマーク・ラムザイヤーの本がある。(ここにレビュー。)ちなみにこの三輪先生は、産業組織論とかコーポレート・ガバナンスがご専門なのだが、ゲーム理論からはアプローチしないという先生でおられる。行政改革委員会で滅茶苦茶やっていたみたいである。

Rationality

http://gregmankiw.blogspot.com/2010/01/economics.html
ミクロ経済学の重要な仮定であるのは「One More. Rational people make decisions on the basis of the cost of one more unit.」である。ところが下記のジョーク動画でも言っているが、オレンジを買う人がワンモアオレンジ、ワンモアオレンジと繰り返し言って買うわけがない。ドラマ不毛地帯でも、ここで引き下がるわけにはいかんのや、というような非合理的な現実に直面する。もし人間がそのように動くならば一般均衡モデルは脱構築しなければならないが、その場合どのような仮定がモデルの前提になるのかは不明である。Matsuyama (JPE 2002)のようにイチかゼロを選ぶ選好を持っているのかもしれない。

Mankiw's 10 principles of economics

2010/02/03

行動経済学


このNudgeという本が読み途中で床に転がっているのだが、行動経済学の本である。この人気の行動経済学は、経済学の傍流に過ぎず、以下のように断じられている。
http://blog.livedoor.jp/yagena/archives/50564161.html
「行動経済学/実験経済学/神経経済学に関連するセッションが一つもない」(中略)私は行動経済学系の専門家ではないので断定的なことは言えませんが、書かれる関連論文の本数は已然として多いものの、昔と比べると、革新的な論文が量産されているような印象はあまりありません。(中略)世間で盛り上がりを見せるこれらの分野に対して、一定の距離を置いて冷静に見つめ直すべき、というプログラム委員会の強い意思表示である可能性もあるのではないかと思います。(後略)
http://unrepresentativeagent.blogspot.com/2009/12/rant-on-behavioural-economics.html
行動経済学なるものが正確に何を指すのか僕にはよくわからないけれど、hyperbolic discountingとかloss aversionとかのような普通でない(exotic) preferenceであれば、habitのように、これまで使われたフレームワームに取り入れられて終わるのではないだろうか。経済学の「標準的な」フレームワークはとても柔軟である。(中略)わけのわからない些細なことをちょっと変わった仮定を使って説明するよりも、マクロ経済学の観点でいえば、標準的なセットアップで最適とされる政策と「行動経済学的」な仮定の下で最適な政策が大きく異なる、というような例がほしい。
そりゃーそーだわ。ミクロ的基礎付けにどうやって応用するかが第一関門で、そうすると結局単純化した形で取り込まれることになるわけで、そうすると結局既存のモデルと大差がなく、既に取り込まれているとも言える。

多田洋介(2003)『行動経済学入門』日本経済新聞社。
http://chachaimemo.blogspot.com/2009/03/2003.html
日本経済学会2008年度石川賞講演論文「行動経済学は政策をどう変えるのか」
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~iwamoto/Docs/2009/KodoKeizaigakuhaSeisakuwodoKaerunoka.pdf
↑内容は面白いが、引用しにくいし、まとめられないからpdfを直接読むと良い。

Mankiw, Weinzierl, and Yagan (2009)

Journal of Economic Perspectives
Vol. 23, No. 4, Fall 2009
Optimal Taxation in Theory and Practice
N. Gregory Mankiw, Matthew Weinzierl and Danny Yagan
http://unrepresentativeagent.blogspot.com/2009/12/optimal-taxation-in-theory-and-practice.html
1.最適な限界税率曲線(収入レベルに応じた限界税率をあらわす)は「能力」の分布度合いによって異なる。
2.高収入の人に対する最適限界税率は下がる可能性がある。
3.Flat taxとLump-sum Transferの組み合わせが最適課税に近い可能性がある。
4.最適な再配分の度合いは賃金格差とともに拡大する。
5.税率は収入だけではなくて個々人の特徴(学歴、IQ、年齢、性別、背の高さ、肌の色、人種、等)に依存するのが最適である。
6.最終消費財のみ課税されるべきである。そして、税率は一律であるべきだ。
7.資本所得(capital income)に課税してはいけない。
8.長期的な課税方法を考えた場合、最適課税は、過去の収入の歴史や現在の資産レベルに依存し、それらが労働収入と資本収入に対する課税方法に与える影響は単純ではない。
ふーむ。第三項はフリードマンの負の所得税、あるいはベーシック・インカムということになるんだろうか。しかしながら、政府税調の石光弘でさえ党税調との協調に失敗したのだから、最適税制というものは結論をひとつにできる性質のものではなく、税制改革は到底の努力を費やさなければ不可能である。その点、税制についてのモデルを考えるとなると火傷しかねないので、手をつけないほうが宜しいであろう。

Doepke and Schneider (2006)

Matthias Doepke & Martin Schneider, 2006. "Inflation and the Redistribution of Nominal Wealth," Journal of Political Economy, University of Chicago Press, vol. 114(6), pages 1069-1097, December.

This study quantitatively assesses the effects of inflation through changes in the value of nominal assets. It documents nominal asset positions in the United States across sectors and groups of households and estimates the wealth redistribution caused by a moderate inflation episode. The main losers from inflation are rich, old households, the major bondholders in the economy. The main winners are young, middle-class households with fixed-rate mortgage debt. Besides transferring resources from the old to the young, inflation is a boon for the government and a tax on foreigners. Lately, the amount of U.S. nominal assets held by foreigners has grown dramatically, increasing the potential for a large inflation-induced wealth transfer from foreigners to domestic households.

http://unrepresentativeagent.blogspot.com/2010/01/inflation-and-redistribution.html
Doepke and Schneider(JPE2006)は、一言で言うと、予想されなかったインフレによって得する人と損する人をデータから整理して、突然インフレ率がこの先10年5%上がった際、得する人と損する人が実際どのくらい得あるいは損するのか計算してみた論文である。インフレが異なる主体にどのように異なる影響を与えるか、というのは、閉鎖経済でのrepresentative agentとして国をモデル化する場合完全に無視されている要素であるが、その危険性を指摘した論文とも言えよう。

http://lagakos.faculty.asu.edu/~lagakos/teaching/ds_2006_5.pdf
まとめスライド(?)

2010/02/01

Hochberg, Ljungqvist, and Lu (2007)

Whom You Know Matters: Venture Capital Networks and Investment Performance
YAEL V. HOCHBERG, ALEXANDER LJUNGQVIST, and YANG LU
THE JOURNAL OF FINANCE VOL. LXII, NO. 1 FEBRUARY 2007

ベンチャーキャピタルのパフォーマンスがリレーションシップやネットワークの強さによって形付けられるらしい。さらに、良かれなネットワークを有しているベンチャーキャピタルのポートフォリオに含まれる会社は、その後の融資あるいは出口戦略まで生き残る傾向が強いようだ。

http://jp.techcrunch.com/archives/20090627the-top-100-networked-venture-capitalists/
著者らが過去のベンチャーの見返りを調べたところ、「ネットワークに優れたVC会社は、有意に優れた投資実績を得ている」ことがわかった。各社のポートフォリオにあった会社のうち、IPOまたは買収によってExitした会社の数を、成功の指標にしている。

この研究では、あるVC会社のネットワークの定義を、投資ラウンドで共同出資したことのある他の全VC会社数から成るとしている。共同出資者が多いほど、そのVCのネットワークは優れていることになる。そしてネットワークが多いほど、全体の見返りも大きい。VC会社のネットワークの大きさと、見返りの大きさとのこの相関は、契約案件や人材、アドバイザー、潜在顧客、見込みExitなどの情報へのアクセスと何らかの関係があるのかもしれない。

Arthur (1989)

Positive Feedbacks in the Economy
Journal article by W. Brian Arthur; The McKinsey Quarterly, No. 1, 1994.

どうやら限定合理性系の経済学者らしい。ダイヤモンド社から内容Quote.

伝統的な経済理論は、収穫逓減という前提の上に構築されている。経済活動においては、常に負のフィードバックが起こり、価格や市場シェアの変化は予測可能で、それらは必ず均衡につながる、というものだ。どのような大変化も、結局は自らに対する反応によって帳消しとなるために、この負のフィードバックは経済を安定化させる傾向がある。例えば、1970年代の石油価格の高騰は、省エネルギーや油田探査活動の強化を促して、80年代初めには「予測どおりに」石油価格の暴落を招いた。伝統的な理論によれば、均衡が、その状況下で可能な限り「最適」な結果、すなわち最も効率的な資源の利用と配分を定める。

Unquote.ここから先は本文を読んでね、というダイヤモンド社の魂胆だと思うが、収穫逓増の世界では逆のことが起こるということはKrugman論文等々によって確認済み。目新しい研究というよりはむしろ当時の最新経済学を実務家に講義しているイメージ。ちょっと実例をあげているのかな。