2009/08/06

Reinhart and Rogoff (2004)

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』より。

Carmen M. Reinhart & Kenneth S. Rogoff, 2004. "Serial Default and the "Paradox" of Rich-to-Poor Capital Flows," American Economic Review, American Economic Association, vol. 94(2), pages 53-58, May.

新興国が海外からの資本流入に頼らずに経済発展を目指すことは望ましい。海外から資本を借りるのは資本市場と財政基盤が既に整っている国に限定さっれるべきである。このことは、所得水準と資本市場の完備性と対外借入の規模の三つには正の相関関係があることから明確にわかる。そのため、新興国はまず財政を均衡させ、インフレを起こさない政策規律を学習するとともに資本市場のインフラを整えるべきであり、そうでなければ外国からの借り入れに頼り切ってしまう。

Obstfeld and Rogoff (2005)

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』より。

The Unsustainable US Current Account Position Revisited
Maurice Obstfeld and Kenneth Rogoff

銀行危機の裏には住宅バブルがあった。スペイン(1997)ノルウェー(1987)フィンランド(1992)スウェーデン(1991)日本(1992)は、それぞれ実質住宅価格がバブル状態であると同時に、崩壊後の経済成長率は酷く落ち込んでいる。一般的な先進国の銀行危機においては、経済成長率は2年間2%ほど落ち込むだけであるが、この五カ国については5%の下落となり、3年後になっても完全には回復しない。

Caballero (2006)

On the Macroeconomics of Asset Shortages
Ricardo J. Caballero
NBER Working Paper No. 12753
December 2006

世界的には金融資産が不足している。家庭、会社、政府、保険会社、金融仲介機関による資産と担保として金融資産がグローバルに必要なのであるが、資産の供給がそれ追いついていない。金融資産の不足に対して資産の価格とバリュエーションの均衡が反応するということが、ここ20年の世界的経済成長で中心的役割を果たしている。いわゆる国際収支の不均衡や、(新興市場、ドットコム企業、不動産、金など)投機バブルの再発的な緊急事態、歴史的に低い実質金利と低い長期金利、世界的なディスインフレ現象や地域的なデフレ現象など、このasset shortageという観点から説明できる。

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』によれば、フレームワークとしては次のようになる。つまり、実物財と金融資産の二財モデルを考える。ワルラスの法則から、供給過多のとき相対価格は下がり、需要過多のとき相対価格が上がる。新興国において投資対象が不足しているために、金融資産の相対価格が上がると同時に、実物財の相対価格が下がると説明できるとのこと。

Tirole (1985)

Tirole, Jean (1985) "Asset Bubbles and Overlapping Generations," Econometrica, Vol. 53, No. 6. (Nov., 1985), pp. 1499-1528.

バブルを作るのは、耐久性・希少性・共通のBeliefである。バブルは必ずしも悪いものではなく、動学的効率性を満たすようにできる。動学的効率性の条件とは、経済成長率よりも投資収益率が大きい状態である。投資が過剰に行なわれているとき、経済成長率のほうが投資収益率を上回り、動学的効率性の条件が満たされない。

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』によれば、バブルな財に投資することで、資本投資が減るとともに投資収益率が上がり、資本の減耗とともに資本設備が適正水準となって動学的効率性の条件が満たされる、となるそうだ。これは世代重複モデルで描写される。

Samuelson (1958)

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』に若干の説明もあるが、主にLjungqvist and Sargentを参考。

An Exact Consumption-Loan Model of Interest with or without the Social Contrivance of Money
Paul A. Samuelson
The Journal of Political Economy, Vol. 66, No. 6. (Dec., 1958), pp. 467-482.

世代重複モデルにおいて最適消費量は(i)各世代の予算制約下における効用最大化(ii)各期におけるマーケット・クリアリングを満たす。しかし、この最適消費量が必ずしも達成されるとは限らない。というのも、今期においてyoung世代がold世代にお金を貸したとき、来期にはそのold世代がいないからである。このように、最適消費量の達成のためにyoung世代がold世代にお金を貸すことになるケースをサミュエルソンケースと呼ぶが、これは不換紙幣を導入することで達成できる。

資本主義は嫌いですか



確率的現象で、ヘッジできるものが「リスク」であり、ヘッジできないものが「不確実性」であるというのがKnight (1921)の思想だったそうだ。リスクの領域で勝負している限り、金融業界は儲からない。したがって、不確実性に挑戦するわけであるが、投資家から集金するためには確率的にテイルをなしているところにリスクを押し込んで不可視にしてしまえばよい。しかし、一旦信頼を失うと一気に弾けてしまう。

経済論戦は甦る』と同様、様々な論文をサーベイしているのは参考になる。
Samuelson (1958), Tirole (1985), Caballero (2006)

Caballero and Hammour (2005)

経済論戦は甦るより。

The Cost of Recessions Revisited: A Reverse-Liquidationist View
Ricardo J. Caballero and Mohamad L. Hammour
The Review of Economic Studies, Vol. 72, No. 2 (Apr., 2005), pp. 313-341.

1972年から1993年までのアメリカ製造業における雇用破壊と雇用創造のデータ分析をする。雇用破壊とは既存企業による解雇者数を指し、雇用創造とは新規参入企業により創出された雇用者数を指す。これらのインパルス反応関数を計算するということらしい。

その結果、不況時においては雇用破壊は大幅に増加する一方、雇用創造は減少する。不況終了後、時間が経過するとともに、雇用破壊の水準は最初の状態より低水準となり、雇用創造は最初の状態に向かって回復するという。結果的に、不況は結果的に既存企業よりも新規産業のほうを殺すということになる。これの理論付けとして、労働市場と資本市場にホールド・アップ問題によるレントの発生を導入することで説明できるらしい。

不況発生時の雇用破壊の急増としては二つの説明がなされる。第一に、設備の老朽化(ろうきゅうか)によって既存企業が退出するケースである。第二に、不況の影響で被った損失をカバーするだけの外部資金を得られなくなった既存企業が退出するケースである。前者のケースがシュンペータ的な破壊、後者のケースが無益な破壊と命名される。

不況発生時の雇用創造の落ち込みとしては、次のような説明がなされている。不況により企業収益が減少するので、新規参入も減少する。どの企業家が不況でも参入できて、どの企業家が参入できないのかという選別は、各企業家の技術ではなく純資産で判断される。そのため、不況によって生産性の低下が生じる。

つまり、不況発生時には無益な破壊が発生するとともに、シュンペータ的破壊が発生するものの、その後シュンペータ的破壊は逆に減少する。また、不況発生により企業家の純資産が低下し、新規参入のハードルが高くなるが、不況からの回復期には破壊に急激なブレーキがかかるので、創造の増加にも歯止めがかかる。ということらしい。