2010/11/16

Toyabe, Sagawa, Ueda, Muneyuki and Sano (2010)

http://www.nature.com/nphys/journal/vaop/ncurrent/abs/nphys1821.html
Toyabe, Sagawa, Ueda, Muneyuki and Sano (2010) "Experimental demonstration of information-to-energy conversion and validation of the generalized Jarzynski equality," Science.
http://www.chuo-u.ac.jp/chuo-u/pressrelease_files/kouho_926d762ef5d729c7544d1276739468c5_1289788403.pdf
【背景】
車のエンジンは燃料を燃やして温度差を作り、これによりピストンを動かして動作する。しかし、温度差がなければピストンは動かず、エネルギーを取り出すことはできない。これは熱力学第2法則(エントロピー増大則)として知られ、科学における最も基本的な法則の1つである。しかし、1867 年、ジェームズ・クラーク・マックスウェルは、仮想的な悪魔を考えて、この法則に疑問を突き付けた。この悪魔は、分子の動きを観察し、それに応じてシステムを制御する。すると、温度差がないところからエネルギーを取り出せ、熱力学第二法則を破ることができるように見えてしまう。これは、科学史上の重大なパラドックスとして知られ、熱力学第2法則に根本的な疑問を突き付けた[1]。それから約 150 年が経ち、マックスウェルの悪魔はパラドックスではなく、悪魔が情報を処理するのに必要なエネルギーを含めれば、熱力学第二法則が破れないことが分かった。ただし、その理解の過程で、測定で得た情報に基づいて制御を行うこ情報をエネルギーに変換することに成功! “マックスウェルの悪魔”を実験により世界で初めて実現。新規ナノデバイスの実現に期待。 と(フィードバック制御)により情報をエネルギーに変換できるという重要な概念が生まれた。しかし、その科学的重要性にも関わらず、この情報-エネルギー変換は未だに実現できていない。

【実験概要】
実験の概念図を図1に示す。らせん階段の上で熱揺らぎによってランダムに運動(ブラウン運動)する粒子を考える。粒子は上にステップしたり下にステップしたりするが、勾配があるので、平均的には階段を下る(図 1a)。しかし、たとえば、粒子の位置を測定し、粒子が上にステップしたら粒子の後ろに壁を置く。再び、粒子が上にステップしたら粒子の後ろに壁を置く。これを繰り返すと、粒子に階段を登らせることができると期待できる。壁を置くのに理想的にはエネルギーが必要ないことが知られている。したがって、外からエネルギーを供給せずに、粒子に階段を登らせることができる。これは、フィードバック操作により情報をエネルギーに変換することで、粒子を駆動できたと解釈できる。 発表者らは、新規に開発した実験系を用い、このようならせん階段状ポテンシャルを回転ブラウン粒子に加えた。そして、リアルタイム制御システムを構築し、実際に粒子を勾配に逆らって登らせることに成功した。さらに、測定で得た情報量と粒子が得たエネルギーを精密に測定することにより、情報をエネルギーに変換できることを初めて示した。変換効率は約 30%であった。また、このような情報エネルギー変換が新規の理論によって支配されていることを示した。

【実験詳細】
マイクロメートル(1マイクロメートルは 1 ミリメートルの 1000 分の1)サイズのプラスチック粒子を粒子の1点でガラス上に付着させた(図 2a)。すると、粒子は固定した点の周りで自由に回転する回転ブラウン運動を示した。この粒子に、外から高周波の交流電圧を加えることで、らせん階段状のポテンシャルを実現した(図 2b)。さらに、粒子の角度を測定し、得られた情報に応じてポテンシャルをスイッチさせるリアルタイム制御系を構築した(図 2c)。

図 2:a、 実験系。 2個連なった粒子を 1 点でガラス上に付着。これに楕円状の回転電場を加えることで、らせん階段状のポテンシャルを実現した。b、 粒子に課されたらせん階段状ポテンシャル。c、 フィードバックサイクル。このサイクルを繰り返すと、粒子がポテンシャルを登っていくことが期待される。

その結果、粒子をポテンシャルの勾配に逆らって登らせることに成功した(図 3a)。さらに、測定で得た情報量、粒子が得たエネルギー、スイッチによって粒子にした仕事の全てを精密に見積もった。すると、粒子はスイッチによってされた仕事以上のエネルギーを獲得したことを発見した。これは、測定によって得た情報を粒子のエネルギーに変換できたことを示している(図3b)。


図 3:実験結果。情報をエネルギーに変換することに成功。

また、発表者ら(沙川と上田)によって新しく導かれた等式[2]が成り立つことを示した。これは、フィードバック操作とエネルギーを結びつける重要な式であり、情報をエネルギーに変換する「情報熱エンジン」が満たすべき根本的な原理である。

【期待できる波及効果】
マックスウェルの悪魔は熱力学の根本に関わる概念であり、これを実現できた学問的意義は高い。科学者以外にもよく知られた話題であり、多くの人が科学に興味を持つきっかけになると期待できる。また、情報を媒介して駆動する新規のナノデバイスを実現できる可能性があり、ナノサイエンスへの波及効果が期待できる。

【今後の課題】
本研究では、「マクロな悪魔」(コンピューターや測定装置など)が「ミクロな粒子」を制御して情報をエネルギーに変換することに成功した。今後の課題としては、情報を自ら処理するような「ミクロな悪魔」、すなわち、自律的に動くナノデバイスを作ることが挙げられる。これは、現在の微細加工技術を応用すれば、近い将来に実現できると期待している。また、制御方式を改善することで、本研究によって得られた
なるほど?

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