2009/08/05

Calomiris and Wilson (2004)

経済論戦は甦るより。

Calomiris, Charles W. and Berry Wilson (2004) "Bank Capital and Portfolio Management: The 1930s “Capital Crunch” and the Scramble to Shed Risk," Journal of Business.

企業家が投資家を選ぶという逆選択に対して、投資家は二通りの方法で対抗できる。第一に、融資を減らして、流動的な資産に持ち替えることである。第二に、不良債権の発生が預金に悪影響を与えないように、増資によって自己資本のバッファを増やすことである。大恐慌におけるニューヨークの市中銀行は圧倒的に第一の方法であり、貸出量の簿価と流動資産の比率を見ると、1922年から1931年にかけて2.06から3.33に上昇していたものの、それ以降低下を続けて1940年には0.25となった。第二の方法に関しては1930年以降の市中銀行は増資をしていないという事実がある。

Bernanke (1983)

経済論戦は甦るより。

Ben S. Bernanke (1983). "Nonmonetary effects of the financial crisis in the propagation of the Great Depression". American Economic Review 73 (3): 257–276.

大恐慌における貸し渋りを実証分析する。大恐慌における事実として、銀行の倒産規模が上昇するとともに、銀行以外の事業の倒産規模、とくに中小企業の倒産規模も上昇し、住宅ローンの債務不履行も急増していた。銀行貸出の規模として、商業銀行貸出残高の純増を個人総所得で割ったものを代理変数とすると、1930年10月までは比較的安定して推移していたものの、銀行の倒産規模が最高となった1930年10月には銀行貸出の規模も30%低下していた。
銀行預金に対する銀行貸出の比率を見ると、1929年には85%以上が銀行貸出に回されていたが、1930年10月から1933年1月にかけて72%から58%と急減した。預金が流動的資産へシフトするという貸し渋りの傾向が見られる。
大恐慌時のリスクプレミアムは拡大しており、1930年から1932年にかけて、BaaとTBの利子率格差は2.5%から8%へと拡大している。

Kiyotaki and Moore (1997)

経済論戦は甦るより。

Kiyotaki, Nobuhiro and John Moore. 1997. Credit Cycles. The Journal of Political Economy, Vol. 105, No. 2 (Apr., 1997), pp. 211-248.

投資家と企業家の間にあるホールドアップ問題に着目する。企業家は土地から生産価値を生み出す。生産規模の拡大のためには土地を購入する資金が必要なので、純資産以外に投資家から借りることになる。資金が一旦貸し出されると、企業家によるホールドアップが予想されるので、投資家は企業家の土地を担保とする。ゆえに、土地の担保価値に等しい分だけ、企業家は投資家から借り入れることができる。
何らかのショックによって企業化の所有する土地の担保価値が低下したとき、投資家が貸出しを減らすことになるので、企業家が土地の購入を控えることになる。土地の需要が減ると土地の値段が低下することになるので、土地の買い控えと担保価値の減少の相乗効果によって加速度的に地価が低下することになる。
こうしたデフレスパイラルに対しては、投資家から企業家への富の移転が求められる。企業家の資産の担保価値が増加すれば好循環が生まれ、実質国民所得も増加する。(ただし、デフレスパイラル自体はforward-lookingに織り込まれてしまう。現実にはダラダラと下がるらしい。)

Bernanke and Gertler (1990)

経済論戦は甦るより。

Bernanke, Ben and Mark Gertler. 1990. Financial Fragility and Economic Performance. QJE.

企業家と投資家の間に情報の非対称性が存在する。企業家の責任が限定されているために、risk-lovingに事業を行なう。この傾向は事業に出資する純資産が少ない企業家ほど顕著である。したがって、純資産が少ないほど、貸出の利子率にリスク・プレミアムが上乗せされる。リスクプレミアムが上乗せされるために、ある純資産を下回ると投資を見送らざるをえなくなる。多くの企業家がこの純資産を下回るとき、経済が急激に収縮することになる。
政策インプリケーションとしては、(投資家と企業家の間に立つ)銀行が企業家の能力をモニタリングする必要があるということが提言されている。つまり、企業家のrisk-lovingな事業を回避するためには、計画の見送りに対して報酬を与える必要がある。この投資家から企業家への富の移転によって経済が正常化するわけだが、これとしては過剰債務を抱える企業家に対する投資家の債権放棄が挙げられる。銀行が投資家と企業家の間に立っているとき、銀行に対する公的資金の注入が投資に対してプラスの効果をもたらす。銀行が競争的行動をとるとき、銀行セクターに対する支援は企業家への支援となる。

2009/08/03

Aghion and Saint-Paul (1993)

経済論戦は甦るより。

Aghion, Philippe and Gilles Saint-Paul, 1993. "Uncovering Some Causal Relationships between Productivity Growth and theStructure of Economic Fluctuations: A Tentative Survey," NBER Working Papers 4603.

短期的なマクロ経済ショックである不況によって、生産性向上が促進されるというプラスの長期的経済効果が働く可能性を指摘。
(1)不況が非効率な企業を退出させる。
(2)生産性向上のためのトレーニングに経営資源を投入しやすくなる。
(3)不況が組織改革のインセンティブを高める。
(4)不況に直面することで、正しい経営判断が求められる。

Peek and Rosengren (2000)

経済論戦は甦るより。

Peek, Joe and Eric S. Rosengren, 2000. "Collateral Damage: Effects of the Japanese Bank Crisis on Real Activity in the United States," American Economic Review 90, 30-45.
不況下では貸し手のストック減少のみならず、借り手の投資縮小が考えられる。邦銀の貸し渋りの影響から借り渋りの影響を除去するために、不況の影響を受けていないアメリカ企業への貸出を見る。すると、米銀や日本以外の外国銀行からの貸出はパターンやトレンドは見られない。しかしながら、邦銀の貸出は1986年から1991年まで急速に上昇した後、1992年から急激に下落した。これは株価半減による含み益の消滅から、バーゼル協定の定める自己資本を資産圧縮によって確保する必要があり、長期的関係のない海外案件から貸し渋りをしたと推測される。

経済論戦は甦る


小泉政権を清算主義(Liquidationism)とDebt Deflation理論(リフレ主義)の論争として描写する。清算主義はシュンペーターの創造的破壊であり、不況を新陳代謝の調整プロセスとして正当化する。Debt Deflation理論はアービング・フィッシャーが代表的論者で、デフレ・スパイラルによるシステムのメルトダウンを食い止めるべしという。

なかなか様々な論文をサーベイしているので、参考になると思われる。
Diamond and Rajan (2001), Peek and Rosengren (2000),Aghion and Saint-Paul (1993), Bernanke and Gertler (1990), Kiyotaki and Moore (1997), Bernanke (1983), Calomiris and Wilson (2004), Caballero and Hammour (2005)