2009/07/06

ゲストエンジニア




 従来の論調では、日本はプロセス・イノベーションや連続的なイノベーションには強いが、プロダクト・イノベーションや非連続的なイノベーションに弱いとされていた。なぜならば、日本の技術者は大企業内での内部昇進型であって、人事流動性が低いからだとされていた。人材育成の考え方として、組織内で育てるという見方と労働市場から調達するという見方がある。しかし、ゲストエンジニアリングは自動車メーカーから部品メーカーへ技術者を派遣することであり、これは両者の中間に位置しているといってよい。このような企業間ネットワークにおける技術者の派遣が人材育成ないし組織能力の向上に繋がるかという点が本書の分析対象である。

 技術者は大きく三種類に分けられ、新型モデルの車両全体を企画する車輌開発責任者、その企画を基にしてコンセプトをデザインするデザイン部門のデザイナー、そして設計開発技術者がある。設計技術者はさらに三種類に分けられ、ボディ構造を設計する構造設計技術者、部品の組み合わせによって機能を発揮させる機構設計技術者、部品ごとに機能を発揮させる機能設計技術者が存在する。最後の機能設計技術者については承認図の部品メーカーの技術者が含まれるが、おおよそ自動車メーカーから派遣されていると考えてよい。
 こうした技術者のレベルを五つの段階に分類することができる。最初は、末端の設計開発から始まり、全体の設計開発、設計開発に関連した問題解決、従来の知識を基にした新しい設計開発の提案、新しい知識を基にした新しい設計開発の提案という順である。ひとつめについては市場調達が可能である。ふたつめとみっつめは問題解決能力、よっつめといつつめは問題発見能力である。こうした問題解決能力と問題発見能力の形成はゲストエンジニアリング制度が有効に働いている。

 第一、経験効果である。技術者の専門領域が担当部品を中心に広がることになる。また、部品メーカーの技術者として開発すると同時に、自動車メーカーから派遣された技術者としても開発している。第二に、専門性再評価効果である。部品開発という新たな領域に圧倒されつつも、システム設計について学習を開始し、高度な業務へと幅を広げて能力を磨き、自らの専門性を再評価することで能力向上意欲やイノベーションの源泉となっているのである。第三に、接触効果である。異なるメンバーや多様な情報に触れ合うことによって、新しいものを創造するという部分に影響を与える。

 この技術者の能力と組織能力との関係を調べるために、承認図メーカーに要求される関係的技能を組織能力としてとらえる。このとき、技術者の能力と組織能力の間に密接な関係がみられた。また、技術者の能力が高いほど汎用的な能力の割合が大きくなるので、高い能力の技術者が部品メーカーに多いほど、企業の関係的技能も汎用的な能力を強めていた。

 ゲストエンジニアリング制度を核とする企業間ネットワークには特徴が見られる。それは、中核企業とその主要サプライヤーとの関係である必要があり、なおかつ長期継続的な関係である必要がある。これらの関係は日本で歴史的に形成されてきたが、近年では環境問題という新しい課題や海外モデルの切り替えなどの設計開発の負担が増大したために、ゲストエンジニアリング制度は難しくなってきている。しかし、旧来のような人材形成目的のゲストエンジニアリングではなく、人材形成目的外で行なわれる傾向があるという。短期的な設計開発要員としてである。一方で、部品メーカー側からも逆ゲストエンジニアリングが行なわれるようになっているようである。

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