2009/07/27

Amazonメモ

http://www.amazon.com/Invisible-Edge-Strategy-Intellectual-Property/dp/1591842379

本を入手したら消します。
Wikipediaによれば
2009年、産業コンサルタントのMark BlaxillとRalph Eckardtは、1970年代の日本経済の隆盛は、連邦取引委員会(Federal Trade Commission)とアメリカ合衆国司法省による競争推進政策の直接的な結果だと主張した。1975年、連邦取引委員会はゼロックスと独占禁止法訴訟について和解し、主として日本企業に同社の特許のライセンシングを強制された。その後の4年間で、ゼロックスのコピー機のシェアは100%から14%にまで落ち込んだ。この行動は連邦取引委員会とアメリカ合衆国司法省による競争管理の始まりだった。
ゼロックスに続き、IBM、AT&T、デュポン、ボシュロム、コダックなどの何万もの特許が、安価なライセンシングを強制された。アメリカの特許は、連邦取引委員会とアメリカ合衆国司法省の影響により、非常に安いコストで日本企業に提供された。1950年から1980年にかけて、日本企業はアメリカ企業を中心に35,000もの海外特許を利用した。独占禁止法を推し進めた経済学者達は、1975年以降、予期せぬ日本企業の興隆と米国製造業の凋落に直面することになった。

これが本当ならば、競争政策がひっくり返りますね。

2009/07/24

論文プロポーザルの書き方

Guidelines for Project Proposal

A. Project Summary (1 page)
B. Project Description (up to 15 pages)
I. Background and Significance of the Proposed Research
II. Objectives
III. Theoretical Framework
IV. Present State of Knowledge
V. Work to be Undertaken and Timetable for Specific Goals
C. References (no page limit)

2009/07/22

主要国の中央銀行における金融調節の枠組み

主要国の中央銀行における金融調節の枠組みby白川方明

FRS,BOJ,ECB,BOEが市場金利を政策金利に誘導する手段は主に三種類。
(1)法令または契約に基づく中銀当預の積み立て制度
金融調節を円滑に実施するためには、同時に、中銀当預に対する需要が安定的かつ予測可能であることが不可欠である。中銀当預は民間金融機関の様々な取引にかかる資金決済に利用される。中銀当預の残高について、日々の資金決済需要を安定的に上回る一定の水準に維持するように促す仕組みが設けられていれば、中央銀行による中銀当預に対する需要の予測は容易になり、金融調節を円滑に行うことが可能となる。

(2)公開市場操作
オペは、概念上、長期オペと短期オペに大別されることが多い。長期オペは、主に、銀行券など、中央銀行の安定的な負債に対応するものとして、長期的に資金を供給するための手段であり、国債の買入れがその典型例である。他方、短期オペは、主として一時的な資金過不足に対応するための手段であり、例えば、期間の短いレポ取引(債券等の売戻し条件付き買入れもしくは買戻し条件付き売却)や有担保の資金貸付けなどを通じて実施される。
金融調節において長期オペを用いると、一度に長期間に亘る資金供給を行うことが可能となり、短期金融市場において巨額の短期オペを頻繁に実施する必要性が低下する。この結果、中央銀行のオペにより短期金融市場における金利形成を歪めることを回避できるとともに、オペにかかる中央銀行・民間金融機関双方の実務負担も軽減することができる。他方、長期オペは中央銀行の資産の固定化にもつながるため、その規模が安定的な負債に見合わないものになると、資金過不足の変動に合わせて柔軟に金融調節を実施していくことがより難しくなる惧れがある。

(3)スタンディング・ファシリティ
金利を上と下ではさむというアレ。
貸付ファシリティ:補完貸付制度
預金ファシリティ:当時はBOEとECBのみ。

国際金融ネットワークからみた世界的な金融危機

国際金融ネットワークからみた世界的な金融危機

ネットワーク分析という研究手法があるらしい。金融取引関係を見える化すると、金融取引のハブ機能が浮かび上がってくる。

まず、縦軸をクラスター係数、横軸をリンク次数としてプロットする。クラスター次数は地域内での取引密度を表わし、リンク次数は地域間での取引密度を表わしているとしてよい。これによれば、国際金融は大国の金融機関が水平的でそれ以外は垂直的という屈折したグラフが出てくる。国際貿易は直線であることと比べると、国際金融は大国の金融機関がハブとなっていて、各地域の橋渡しをしているのだと考察することができる。

一方、縦軸を媒介性、横軸を近接性としてプロットする。近接性はある機関から別の機関までに取引仲介される数を示し、媒介性はその地域の機関が取引仲介する数を表わしているとしてよい。これによれば、大国金融機関のハブ機能のおかげで、取引仲介数が低く抑えられていると考察することができる。

こうしたハブ機能はある程度までのショックには強く、別のハブを回していけば機能する。しかし、ハブが大幅に傷んだとき、国際金融取引がまったく機能しなくなる。1998年から2008年の国際金融取引の高まりから、英国とユーロ圏の相互取引が急膨張した。債権債務の膨らみがこうしたリスクを大きくしたものとみられる。

2009/07/21

Lucas (1988)

Lucas Jr., Robert E. 1988. On the Mechanics of Economic Development. Journal of Monetary Economics 22, 3-42.

Introduction
成長論の課題としてはBaumol (1986)の三角形に見られるような、所得水準のバラツキと成長率のバラツキをいかに説明するかということであった。原始的なSolowモデルで均衡成長率と均衡所得のバラツキを説明するためにはパラメータを外生的に与えなければならない。とくにネックになるのは経済成長率と資本成長率の差で、これにはTFP成長率を導入する必要がある。そもそも技術は国が持っているわけじゃなくて、人が持っているわけで、TFPを直接計測するのは難しい。均衡成長に至っていないからバラツキがあるのだという意見もあるが、有力ではない。

Endogenous Growth Model #1 (School Education)
効用関数

を物的資本の蓄積

と人的資本の蓄積

の制約をかけて最大化する。(ハミルトニアンを使う。)
ただしは人的資本の外部効果であり、このためにequilibrium pathがoptimal pathと異なる解となる。外部効果があることによって、資本成長率と経済成長率の差を説明できるが、外部効果の測定については後述。

長期均衡としてbalanced growth pathをハミルトニアンの解に入れると、成長率一定の物的資本と成長率一定の人的資本に収束するらしい。しかし、その物的資本と人的資本の比は初期条件に由来することになり、均衡所得水準のバラツキを説明することができた。しかし、経済成長率のバラツキを説明することはできていない。

Endogenous Growth Model #2 (Learning-by-doing)
今度は経験効果を含んだ二部門モデルを考える。
効用関数

生産関数

Leaning by Doing

これを解くと、のとき複数均衡となる。どちらかの財を集中的に生産するので、成長率がその財の学習に依存した値をとるということになる。
価格統制や開放経済などの政策インプリケーションも導くことができるが、あくまで内生的経済成長論の例示であって、政策提言を行なう論文ではないと書かれている。外部性を導入しないで、初期状態だけで説明するモデルなんて見たことないよ、頑張ったでしょと。(Section 5の最後)

Cities and Growth
人的資本という外生パラメータはどうやって測るのかという問題だと思われる。ミクロ的基礎付けは大事だが、データへの含意はもっと重要である、と。たとえば、経済成長における街の役割を着目しよう。外部効果がないと人は集まらないだろう。地代が高くても人が集まってくるんだとすれば、地代が人的資本の外部性の代理変数になるかもとかなんとか。

2009/07/20

Brainard (1993)

Brainard, S. Lael. 1993. A simple theory of multinational corporations and trade with a trade-off between proximity and concentration. NBER Working Paper No. 4269.

proximity-concentration trade-off
transport costが高い→multinational expansion
increasing returns→export

Abstract
This paper develops a two-sector, two-country model, where firms in a differentiated products sector choose between exporting and multinational expansion as alternative modes of foreign market penetration, based on a trade-off between proximity and concentration advantages. The differentiated sector is characterized by multi-stage production, with increasing returns at the firm level, due to some activity such as R&D that can be spread among any number of production facilities with undiminished value, scale economies at the plant level, and a variable transport cost that rises with distance. A pure multinational equilibrium, where two-way intraindustry trade in intangibles completely supplants two-way trade in differentiated products, is possible even in the absence of factor proportion differences. It is more likely the greater are transport costs relative to the fixed cost of production, and the greater are increasing returns at the firm level relative to the plant level. The model also examines how the pattern of trade and production varies with additional stages of production.
引用するなら Brainard (1997 AER)がベター。

2009/07/19

Today in the Zombieconomy (in Japanese)

Umairの Michael Jacksonに関わるコメントはゾンビ経済のアナロジーとして言及した。

率直に言うと、アナロジーではない。不幸なことに、現実なのだ。

ゾンビ経済はバズワードではない。イベントでもない。実は銀行に関するものでもない。現在の経済状態なのである。

20世紀のビジネスは21世紀の挑戦と戦うことができなかった。経済の大きな領域は無力化して、ゾンビ企業によって生息し続けている。経済の生ける屍であり、なんら価値を生み出せない。

誇張だと考えるだろうか。銀行の預金残高を確認してから、考え直してほしい。

何兆ドルもの投資にもかかわらず、
1)賃金はデフレ傾向である。
2)失業率は上昇し続けている。
3)不完全就業率は失業率よりもはやく膨らんでいる。

ゾンビ企業はこうした現象が起こった原因である。つまり、我々が経済と読んでいたものは、低所得者の家に立つトランプタワーだったのである。そして低所得者のローン支払いが期日となって、こういったものが嘘のイノベーションであったということがわかるのだ。

では、どうすればいいのか。しばらく資本主義について論じてきた。アーカイブをあたったり、ビデオを見たりしてくれ。

2009/07/18

経済指標としてのgoogle

http://gregmankiw.blogspot.com/2009/07/google-searches-as-economic-indicator.html

Google Trendsではcsvファイルも出力できるようだ。これはnews shockとかに使えるのかもしれない。

2009/07/14

松下ウェイ



組織面
・前例主義の見直し
最適政策の踏襲を続けることで時代遅れになった。
・情報伝達
情報チャネルの不全により組織が機能しない。
・権限と責任
海外事業の権限と責任が曖昧で、身動きがとれない。

環境面
・情報化
消費者重視の流れ
・ソリューション
サービスの提供によるスイッチング・コストの引き上げ
・しっくりくる使命
使命を思い切って再定義する。

経営面
・サッカーボール理論
サッカーボールの中に経営者がいる。ボールの表面は顧客と接するオペレーションである。経営資源を表面につぎ込む。
・ムーア時間
製品サイクルが早くなっているので、顧客に届くまでに古くなっては駄目。
・士気の向上
しっかりと取捨選択して、パリッとする。
・将来情報の獲得
SCMによるダウンサイドリスクの抑制。

Billari and Galasso (2008)

Billari, Francesco C. and Vincenzo Galasso (2008) "What Explains Fertility? Evidence from Italian Pension Reforms," CEPR Discussion Paper No. DP7014.

投資財としての子供は引退後に養老の担保となるものであり、消費財としての子供は育児や子供それ自体から快楽を得るものである。子供をこのように扱うことによって、出生率の決定要因は投資財や消費財の観点から考えることができる。これらの理論をそれぞれモデル化した上で、1990年代イタリアにおけるAmato改革とDini改革で年金支出を抑制した影響がどうであったか分析した。 モデル化の結果によれば、年金抑制によって出生率が下がったならば、その結果は子供を消費財として扱う理論と整合的であり、逆に、子供を投資財として扱う理論が整合的になるためには、改革で年金が抑制された層が出生率を増やしていなければならない。一方、実際のデータからは年金改革によって年金収入が減らされた層は出生率が高くなった。これは統計学的に十分であり、出生率の決定要因としては投資財としての子供の色彩が強くなると結論できるのである。


従来の経済モデルにおいて、 投資財としての子供の役割が過小評価され、子供は親にとって負担であるという見方が過大評価されている。老年期における子供から親への所得移転(同居や仕送りなど)が過小評価されているである。 人口の要素と経済の要素を関係づける従来の経済理論は、子供を消費財として扱ったりするなど、 間違っているかもしれない。

また、年金制度の持続性を確保するために年金給付を削減する年金改革をすれば、出生率を高めることができる。

太田(2005)

太田清(2005)「フリーターの増加と労働所得格差の拡大

日本は長い間、個人間の経済的格差に関し、平等な社会であると言われてきた。1990年代後半頃から、日本でも所得格差は拡大しているとの見方も出てきたが、家計所得や賃金統計などに見られる格差の拡大の多くは、人口の高齢化に伴う見かけ上の拡大にすぎないことが指摘されてきた。しかし、1990年代の特に後半以降に起こった労働市場の変化の中で、最近では、所得格差は拡大しているのではないだろうか。本稿では労働市場の変化をもとらえた統計で、そのことを検証した。

その結果、労働所得の格差は1997年以降拡大しており、特に、非正規雇用者の増加の影響もあって、若年層でその拡大のテンポが速いことがわかった。

2009/07/13

Dyer and Singh (1998)

Dyer, Jeffrey H. and Harbir Singh (1998) "The Relational View: Cooperative Strategy and Sources of Inter-Organizational Competitive Advantage," Academy of Management Review.

企業の経営資源として企業間ネットワークを考える。

(1)関係特殊資産
提携関係者の投資が関係特殊資産であればあるほど協力関係による既得権益(レント)の余地が大きいとされる。
・機会主義的行動を防ぐような距離を開けた関係であるほど関係特殊資産を通じたレントの余地が大きくなる。
・提携関係者との取引量が大きいほど、関係特殊資産を通じたレントの余地が大きくなる。

(2)知識共有の慣行
提携関係者の投資が企業間の知識共有慣行にあるほど、レントの余地が大きくなる。
・パートナー特殊的な吸収能力が大きいほど、知識共有によるレントの余地が発生する。
・透明性や互恵関係を推奨し、ただ乗りをやめさせるようなインセンティブがある提携関係であるほど、知識共有によるレントの余地が発生する。

(3)補完的な資源・能力
経営統合したときに資源の価値が高くなり、貴重になり、模倣するのが難しくなるようなシナジーセンシティブな資源を提携関係者が持っている割合が大きいほど、レントの発生余地が大きくなる。
・補完的な資源を統合したときによって企業がレントを得られるならば、それまでの提携経験、内部の探索能力や評価能力への投資、社会ネットワーク・経済ネットワークにおける情報豊富な立場を増大させることができる。
・提携関係者の組織システム・過程・文化(または組織的補完性)における適合度が高いほど、補完的な戦略資源によるレントを提携関係者が作り出せるようになる。


(4)効率的な企業統治
(取引コストを抑えつつ価値を最大化させるような)差別的な方法による統治構造で取引を提携する能力が取引相手にあるほど、レントの余地が大きくなる。
・第三者によるセーフガードよりも自己規律的なセーフガードを採用する能力が提携関係者にあるほど、低い契約コスト・低いモニタリングコスト・低い適合コスト・低い再契約コスト・価値創造の主導権への高いインセンティブを持つことによるレントの余地が大きくなる。
・金銭的な抵当権などの公式な自己規律的セーフガードではなくて、非公式の自己規律的セーフガードを採用する能力が提携関係者にあるほど、低い限界費用・模倣の難しさによるレントを得ることできる。


(5)提携関係によって得られるレントが保たれ続ける理由
・競争企業が因果関係が曖昧なために利益の源泉を特定できない。
・利益の源泉がわかっていても、時間制約のために即座に用意できないという状況である。
・経済学的に存続可能な追加投資ができるような事前の投資をしたこなかったために、相互関連的な資源の不足により実例や投資を真似ることができない。
・必須の補完的戦略資源・関係能力があるパートナーを見つけることができない。
・他の企業と共進化しているなどによって潜在的なパートナーの能力が不可分となっており、潜在的なパートナーの能力にアクセスすることができない。
・機会主義をコントロールし、協力的行動を推奨するような、法的コントロールなどの必須の公式ルールや社会的コントロールなどの非公式ルールを持つ独特かつ社会的で複雑な制度的環境を用意することできない。

藤本(1997)



日本のサプライヤーシステムは承認図方式である。
これは歴史的拘束条件と知識移転が全くの偶然に機能した。
・トヨタから日本電装が独立する際に、日本電装に技術者が大量に移ったため、依存せざるをえなかった。
・敗戦によって技術者が流出することになった航空機産業や鉄道車輌産業が源泉であった可能性がある。
・事後的にトヨタが承認図方式の競争力を見抜いた。

Ge (2009)

Ge Dongsheng (2009) "Architectural Attribute of Component and Transaction Pattern Choice"

(1)アーキテクチャの類型が取引パターンに影響を与えることがわかった。日本においてはインテグラル型であるが、中国においては擬似オープン型であった。

(2)取引パターンがコンポーネントの設計方法に影響を与えることがわかった。中国ではリバース・エンジニアリングが見られた。要するに、先進国の製品を分解して、金かかるところを調べて、安いものを組み立てなおすということである。

(3)アーキテクチャと取引パターンの関係は市場においても違いが見られた。日本においては品質を重視するが、中国では価格を重視することがわかった。

(4)アーキテクチャと取引パターンの関係が産業ダイナミクスや企業の能力構築に影響を与えることがわかった。中国においては、購買システムを通じてリードタイムの短縮とコスト削減をサプライヤーに依存しているものの、現地自動車メーカーは能力構築に気合を入れる傾向にある。コアコンポーネントに関わるリバースエンジニアリングを行なわなければ、製品開発を行なうためのシステムと評価能力が蓄積できない。


先進国のサプライヤーにとっては、アウトソースをするにあたっては、アーキテクチャの類型や能力・環境といった観点に注意をしなければならない。新興国のサプライヤーにとっては市場を利用する一方で、システム統合と評価能力の構築を第一の課題としなければならない。

Dyer (1996)

Dyer, Jeffrey H. (1996) "Does Governance Matter? Keiretsu Alliances and Asset Specificity As Sources of Japanese Competitive Advantage," Organization Science.

(1)日本の自動車メーカーのバリューチェーンにおいて、企業間における相互特殊資産がアメリカよりも存在する。
(2)日本の自動車メーカーが導入しているhybrid/allianceは、ヒエラルキー型のイイトコドリをしている。
(3)日本の自動車メーカーのバリューチェーンでは取引費用が低い。
(4)不確実性が高い状況において、ハイブリッド型ガバナンスがヒエラルキー型ガバナンスよりも効率的である。
(5)資産の特殊性が増加したとき、必ずしも取引費用が増加するとは限らない。

2009/07/12

Barro (1991)

Barro, Robert J, (1991) "Economic Growth in a Cross Section of Countries," The Quarterly Journal of Economics.

-per capita growthとper capita GDPは無相関である。
-ただし、human capitalを入れると、相関は有意に負になる。
-human capitalは就学率で代替している。
-per capita growthとhuman capitalは正の相関関係であった。
-human capitalが高いと出生率が低い。
-human capitalが高いと投資のGDP比が大きい。

-per capita growthと民間投資が政府消費と負の相関関係である。
-政府消費は資源配分の歪みをもたらすが、投資や成長率を活性化させることはないと解釈可能。
-ただし、政府投資と成長率にはわずかに相関関係があった。

-革命・クーデター・政治家の暗殺を「政治の不安定性」とする。
-政治の不安定性は成長率と投資とは逆相関であった。
-政治の不安定性が、財産権、そして財産権と民間投資の関係に影響を与えるものかもしれない。
-逆に、経済がよくないことが政治に影響を与えているのかもしれない。

-「価格の歪み」は成長率と負の相関関係であった。
-政府起因の「市場の歪み」と成長の関係性は今後の研究に期待。

-サブサハラやラテンアメリカの国々における低成長はうまく説明しきれなかった。

Jones and Romer (2000)

Jones, Charles I., and PaulM. Romer (2000) "The New Kaldor Facts: Ideas, Institutions, Population, and Human Capital"

http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20090710/new_kaldor_facts
http://unrepresentativeagent.blogspot.com/2010/01/new-kaldor-facts.html

カルドアの事実
-労働生産性が持続的な速度で成長した
-労働者一人当たりの資本も持続的な速度で成長した
-資本の実質利子率ないし収益率が安定していた
-生産に対する資本の比率も安定していた
-資本と労働の国民所得に占める割合が安定していた
-高成長国の間で「2-5%程度の」目に見える成長率のばらつきがある

新カルドアの事実
-市場規模の拡大
-成長の加速
-現代における成長率のばらつき
-所得ならびに全要素生産性における大きな格差
-労働者一人当たりの人的資本の増加
-実質賃金の長期にわたる安定

2010年1月14日追記。ジャーナルに載った。
Jones, Charles I., and Paul M. Romer. 2010. "The New Kaldor Facts: Ideas, Institutions, Population, and Human Capital." American Economic Journal: Macroeconomics, 2(1): 224–45.

2009/07/10

Lippman and Rumelt (1982)

Lippman, S.A. and R. P. Rumelt (1982) “Uncertain Imitability: An Analysis of Interfirm Differences in Efficiency under Competition,” Bell Journal of Economics.

収益があっても参入がないことや既存企業の収益性にバラツキがあることは、どうやって説明できるだろうか。Industrial Structure Viewのように不完全競争や参入障壁を理由としてしまうこともできるだろう。しかしながら、「企業の行為とその結果」という因果関係の曖昧性(causal ambiguity)があるならば、参入が自由な完全競争であってもパフォーマンスの違いを説明することが可能となる。

モデルを単純化するために、企業の需要サイドは同一の環境とし、供給サイドでは確率分布関数からの実現値によって費用関数を決定するパラメータを使う。参入企業は事前にパラメータの実現値を知らないものの、分布関数と費用関数は知っている。参入することによる利益の割引現在価値がゼロ以上ならば参入することになる。この仮定は、企業の効率性の違いを説明し、さらに既存企業の利潤がゼロを下回る前に参入が止まることになる。

2009/07/06

ゲストエンジニア




 従来の論調では、日本はプロセス・イノベーションや連続的なイノベーションには強いが、プロダクト・イノベーションや非連続的なイノベーションに弱いとされていた。なぜならば、日本の技術者は大企業内での内部昇進型であって、人事流動性が低いからだとされていた。人材育成の考え方として、組織内で育てるという見方と労働市場から調達するという見方がある。しかし、ゲストエンジニアリングは自動車メーカーから部品メーカーへ技術者を派遣することであり、これは両者の中間に位置しているといってよい。このような企業間ネットワークにおける技術者の派遣が人材育成ないし組織能力の向上に繋がるかという点が本書の分析対象である。

 技術者は大きく三種類に分けられ、新型モデルの車両全体を企画する車輌開発責任者、その企画を基にしてコンセプトをデザインするデザイン部門のデザイナー、そして設計開発技術者がある。設計技術者はさらに三種類に分けられ、ボディ構造を設計する構造設計技術者、部品の組み合わせによって機能を発揮させる機構設計技術者、部品ごとに機能を発揮させる機能設計技術者が存在する。最後の機能設計技術者については承認図の部品メーカーの技術者が含まれるが、おおよそ自動車メーカーから派遣されていると考えてよい。
 こうした技術者のレベルを五つの段階に分類することができる。最初は、末端の設計開発から始まり、全体の設計開発、設計開発に関連した問題解決、従来の知識を基にした新しい設計開発の提案、新しい知識を基にした新しい設計開発の提案という順である。ひとつめについては市場調達が可能である。ふたつめとみっつめは問題解決能力、よっつめといつつめは問題発見能力である。こうした問題解決能力と問題発見能力の形成はゲストエンジニアリング制度が有効に働いている。

 第一、経験効果である。技術者の専門領域が担当部品を中心に広がることになる。また、部品メーカーの技術者として開発すると同時に、自動車メーカーから派遣された技術者としても開発している。第二に、専門性再評価効果である。部品開発という新たな領域に圧倒されつつも、システム設計について学習を開始し、高度な業務へと幅を広げて能力を磨き、自らの専門性を再評価することで能力向上意欲やイノベーションの源泉となっているのである。第三に、接触効果である。異なるメンバーや多様な情報に触れ合うことによって、新しいものを創造するという部分に影響を与える。

 この技術者の能力と組織能力との関係を調べるために、承認図メーカーに要求される関係的技能を組織能力としてとらえる。このとき、技術者の能力と組織能力の間に密接な関係がみられた。また、技術者の能力が高いほど汎用的な能力の割合が大きくなるので、高い能力の技術者が部品メーカーに多いほど、企業の関係的技能も汎用的な能力を強めていた。

 ゲストエンジニアリング制度を核とする企業間ネットワークには特徴が見られる。それは、中核企業とその主要サプライヤーとの関係である必要があり、なおかつ長期継続的な関係である必要がある。これらの関係は日本で歴史的に形成されてきたが、近年では環境問題という新しい課題や海外モデルの切り替えなどの設計開発の負担が増大したために、ゲストエンジニアリング制度は難しくなってきている。しかし、旧来のような人材形成目的のゲストエンジニアリングではなく、人材形成目的外で行なわれる傾向があるという。短期的な設計開発要員としてである。一方で、部品メーカー側からも逆ゲストエンジニアリングが行なわれるようになっているようである。

2009/07/05

官僚たちの夏

官僚たちの夏 (新潮文庫)


かなり昔の通産省職員を描いた小説です。(通産省は省庁再編で経産省になりました。)公務員の仕事のひとつとして法案の作成があるでしょうけれども、その過程には数々の利益集団の調整が必要で、これは非常に難しい作業なのでしょう。カシとカリ、後輩からの信頼と先輩からの評価、プライドの高さか腰の低さか、という点が重要であるようですね。

まあ、公務員制度改革と地方分権でこの先わかりませんね。

ハゲタカ

ハゲタカ DVD-BOX


主人公の鷲津政彦は、三葉銀行大手町支店の法人部門で働き、自動車メーカーの下請けの下請けの下請けの工場、三島製作所という小さなネジ工場の世話をしていた。工場の片隅に転がっている加工賃1本7円50銭にすぎないネジ2本を拾い集めると、世話になっている礼としてビールとせんべいを頂戴し、「ちりも積もればビールになった!せんべいにもなった!」と談笑する関係だった。ところが、1993年バブル崩壊によって銀行から貸し渋りを命じられ、経営者の三島健一を自殺に追い込んでしまう。雨の日の葬式で娘の三島由香になじられ、将来の頭取候補で支店長の芝野健夫から「しょうがないだろ。日本は資本主義なんだから。」と励まされる。この事件をきっかけに渡米し、芝野の言う資本の論理を徹底的に学ぶ。

1998年、三葉は不良債権処理を急いでいた。芝野は貸出先の西乃屋という老舗旅館の経営者である宇崎竜童にゴルフ場の売却することを勧めるが、経営者としての才覚がない宇崎竜童は事業拡大を夢見て手放そうとしない。三葉は西乃屋を含む債権をまとめてバルクセールとして売り出した。鷲津は「腐った日本を買い叩く」ために、米ファンド・ホライズンの日本代表として来日したのであった。文字通り、殆どの不良債権が1円で買い叩かれていた。

西乃屋の債権者となった鷲津は宇崎竜童に対し旅館本体を2億円で買うように言いつけるが、期限の2週間には間に合わなかったため転売する。夢を失った宇崎竜童は道路にふらふらと歩いて命を失う。宇崎竜童の長男である松田龍平は家を飛び出し、300万円(*1)をバイトで稼いで起業することを決意する。「金は使うもんですよ。金に使われたら人間おしまいでしょ。」

2000年、玩具メーカーのサンデートイズは創業者一族が会社を私物化しており、経営不振に陥っていた。社長の大河内瑞恵は広告塔になっていたのも事実であった。株式は創業者が過半数を握っていることから、鷲津は最大債権者になることを目指す。鷲津は地銀などから騙すようにして買い集めた鷲津は、さらに社長の息子で取締役の大河内伸彰に対してゴールデンパラシュートを提案する。くわえて伸彰に対しては社長の座まで用意する。メインバンクである三葉側の芝野はその提案を出し抜いて取締役会にて大河内瑞恵を代表取締役の座から降ろすことに成功する。

社長になった大河内伸彰は民事再生法を申請し、そのスポンサーをサドンデス方式の入札で決めることとなる。三葉もホライズンも採算を考慮して奇遇にも同じ190億円と評価するが、鷲津は前社長の大河内瑞恵に接近し、新経営陣と三葉との不適切な金銭関係についてリークされていた。東洋テレビの記者になっていた三島由香にこの証拠を渡したが、報道するためには裏をとる必要があり、三島は芝野に確認をとっていた。芝野は銀行を守る立場にあり、これを否定していたが、無能な大河内伸彰を社長にすることに戸惑いを感じ、ホライズンの提示した入札額が190億円になったときに三島に電話をして事実を明らかにした。鷲津が経営権を握ることになるが、大河内瑞恵を社長にはせず、自己破産(*2)が避けられないようにした。

一方、芝野は三葉を去る。中尾彬は芝野に「かっこええなあ。お前はいつもかっこええ。だからダメなんだ。」と言い放つ。

2004年、芝野は会社再生の専門家として大空電機の経営陣となっていた。ホライズン本社は軍需産業がレンズ事業部の技術を欲しがっているという政治的理由で鷲津に大空電機の買収を命じる。鷲津は株主総会におけるプロキシーファイトという方法で経営の主導権を握ろうとするが、芝野によってカリスマ社長である大木昇三郎の感動的な手紙が読み上げられ現経営陣が勝利する。TBOに戦略を変更するが、ハイパークリエーションというIT企業の社長となった松田龍平がMGS銀行(*3)の資金を利用しつつホワイトナイトとして登場し、TBO合戦が始まる。

松田龍平は大木に対する尊敬を理由にしていたが、嘘であることは明らかだった。そしてインサイダー取引で捕まり、財界からパージされる。一方、鷲津はホライズン本社の意に反して大空電機を守ろうと画策し、解雇される。鷲津はホライズン本社の狙いが熟練した技術であることを逆手にとり、芝野と協力してEBOの準備を進める。鷲津は中尾彬にロビイング活動を頼み、経産省から技術流出に対する懸念を出させた。ホライズンは大空電機から手を引き、新会社の社長として芝野が就任する。

鷲津は日本的経営の象徴を守り、三島製作所を守った。三島健一の葬式で手を合わせられなかった鷲津はようやく仏壇に手を合わせられるのであった。


(*1)当時、有限会社設立に300万円必要だったということ
(*2)当時、破産者は代表取締役の欠格事項に該当していた
(*3)三葉銀行と住倉銀行の合併を考えれば、モデルは予想できる。MGSの略称は何かもう一行ある気がするが。

2009/07/04

Helpman, Melitz, and Yeaple (2004)

Helpman, Elhanan, Marc J. Melitz, and Stephen R. Yeaple (2004) "Export Versus FDI with Heterogeneous Firms," AER.
Helpman, Elhanan, Marc J. Melitz, and Stephen R. Yeaple (2003) "Export versus FDI," NBER Working Paper No. 9439.

Framework
効用関数をCobb-Douglas型関数として、H個の財については企業の異質性をCES型関数で表わす。

この式と収入を与えると効用最大化問題により需要関数を導くことができる。
一方、企業は参入+撤退参入+国内市場のみ参入+国内市場+輸出参入+国内市場+水平的FDIの4種類が存在知る。これは技術力が高い順なのだが、参入するまでは技術力の分布関数(パレート分布を仮定)しかわからない。需要関数と技術力から利潤最大化を設定して、期待利潤とcutoffの水準を計算することができる。

Home Market Effects
-国が大きいほど、国の大きさ以上に企業が参入してくる。
-大国の消費者は多様な財を満喫することができ、高い社会厚生が得られる。
-大国のマーケットでは自国財の活動が盛んで、外国の財はシェアが小さい。

Comparative Statics
一国における外国籍企業の財のシェアに対する貿易財のシェアは、

比較静学をすると、
-技術のバラツキが大きいほどFDI財のシェアが大きくなる。
-代替の弾力性が大きくなるほど貿易財のシェアが大きくなる。(規模の経済)
-水平的FDIの初期費用が小さければFDI財のシェアが大きくなる。
-輸出の初期費用が小さくなれば貿易財のシェアが大きくなる。

Empirics
代理変数を拾ってきてlog-logで分析して係数を見ると、理論的説明と一致した。とくに技術のバラツキによってproximity-concentration tradeoffを説明できることが重要である。

2009/07/02

Hayashi and Prescott (2002)

Hayashi, Fumio and Edward C. Prescott (2002) "The 1990s in Japan: A Lost Decade," Review of Economic Dynamics.

Model
production function
+utility function +b.c. (household)+b.c. (government)+r.c.
細かいことは省略するとして生産関数にTFPと労働時間がかかっていることに留意。理論的にはTFPとか労働時間という供給面で停滞を説明できるはず。(ただし、一般的に言われているように時短が強調されているという印象はなかった。)

Empirics
Calibration+Shooting Algorithm
その結果、TFP成長率が問題となる。労働時間については週40時間労働を下回ることはないとしていて、TFP成長率がかつての輝きを取り戻せば労働時間も一緒に伸びて、均衡水準(growthではなくlevel)もまた昔どおりになる。
一方、Credit Clunch Hypothesisについては上記のモデルの枠外で別に考察。SNAにおける投資、財務省の調査、ローン残高の伸び率と経済成長率の単回帰という3つのアプローチ。いずれも否定的であるとしている。(←リーマンショックの後に貸出が伸びているけど。)

Conclusion
失われた10年の原因はクレジットクランチではない。
TFP成長率の低下が原因である。これは政府が衰退産業に補助金を出したことが原因であろう。(←本論のどこに書いてあったのか不明)

21世紀の国富論

原丈人『21世紀の国富論

昔から「国際派」という種族がいるらしいが、まさに「国際派」と言っていいだろう。
内容をまとめると・・・

日本は世界に貢献しろ!
会社は社会に貢献しろ!
小汚いアメリカの真似をするな!
人間が機械に合わせる時代は終わった!
機械が人間に合わせる時代だ!
ポストIT産業に投資しろ!
ものづくりのノウハウを生かせ!
日本に世界が集まる制度を作れ!

・・・といった感じである。これに共感するかどうかは別にして、要するに国際派の現代版なのだ。公益資本主義とは日本の技術を発展途上国に役立てる何たらかんたらのことらしい。

人を動かす

デール・カーネギー『人を動かす 新装版

人を動かす3原則
(1)人は自分が正しいと思っている。批判も非難も苦情も言わない。
(2)どんな人間でも優れた点、学ぶべき点を持っている。率直で誠実な評価を与えよう。
(3)自己主張もまた欲求のひとつである。強い欲求を起こさせよう。

人に好かれる6原則
(1)人間は、自分に関心を寄せてくれる人々に関心を寄せる。誠実な関心を寄せよう。
(2)笑顔で接しよう。
(3)名前は当人にとって重要である。名前を覚えよう。
(4)人間は自分の話を最後まで話したい。聞き手にまわろう。
(5)相手の関心を見抜いて話題にしよう。自分の人生観も広がる。
(6)人は自分を重要な存在と認めたがっている。心から褒めてあげよう。

人を説得する12原則
(1)議論で捻じ伏せても納得させているわけではない。議論自体を避けるのが好手。
(2)相手の意見に敬意を払い、誤りを指摘しない。
(3)自分の誤りは直ちに潔く認める。
(4)穏やかに話す。
(5)ソクラテス問答法で、イエスが明らかに正答となるような質問を投げながら、誘導する。
(6)味方をつくりたければ、友に勝たせるがいい。相手にしゃべらせる。
(7)人から押し付けられた意見は大切にしない。暗示を与えて、結論は相手に思いつかせる。
(8)互いに相手の身になってこそ話し合いが成立する。他人の身になろう。
(9)相手の考えや希望に対して同情を持とう。
(10)相手の美的価値観に呼びかけよう。
(11)演出を考えよう。
(12)ライバル意識を刺激しよう。

人を変える9原則
(1)まずほめよう。
(2)遠まわしに注意を与えよう。
(3)まず自分の過ちを話す。その後、相手に注意を与えよう。
(4)命令をせず、意見を求めよう。
(5)顔をつぶさない。顔をたてよう。
(6)わずかなことでも、すべて惜しみなく心から褒めよう。
(7)頼られると、評価を落とすまいと努力するようになる。期待をかけよう。
(8)激励して、能力に自身を持たせよう。
(9)喜んで協力させるようにしよう。

幸福な家庭を作る7原則
(1)口やかましく言わない。
(2)長所を認める。
(3)あら探しをしない。
(4)ほめる。
(5)ささやかな心尽くしを怠らない。
(6)礼儀を守る。
(7)正しい性の知識を持つ。

2009/07/01

Tripsas (1997)

Tripsas, M(1997) "Unraveling the Process of Creative Destruction: Complementary Assets and Incumbent Survival in the Typesetter Industry.", Strategic Management Journal,18,119-142.

急進的な技術変化が既存企業を脱落させて新規企業の台頭を導くこともあれば、既存企業が延命して反映を続けることもある。Schumpeterの創造的破壊には二つの理由付けがなされている。前期のSchumpeterは流動性の高い産業において、参入企業が技術的に優位な製品を開発し、同じ製品を繰り返し売っていた既存企業にとって変わると考えていた。後期のSchumpeterは、既存企業が新規産業にはない何らかの優位性を持っていると考えた。

本論文ではこの二つの理由付けに焦点を当てて、既存企業と参入企業の(1)新技術開発への投資、(2)技術能力、(3)補完的な特殊資産から得られる技術革新の恩恵の専有能力を調べた。そして、創造的破壊と補完的な資産の相互作用およびパフォーマンスへの影響を考察する。分析のためのデータとして植字機産業の1886年から1990年の約100年にわたる競争の歴史を用いる。

植字機産業においては、3回の創造的破壊が起こり、そのうち2回は既存企業が生き残るに至った。そこでは補完的な特殊資産が重要な役割を果たしていた。競争的な創造的破壊による影響が既存企業に与える影響を和らげるからである。そして、新技術開発への投資という観点、あるいは技術能力という観点だけから分析をすると、誤った結果を導きかねない。技術変化の競争的含意を調べるときに、複数の観点から考察することの重要性を本論文では強調している。