青木昌彦(2008)『私の履歴書 人生越境ゲーム』日本経済新聞出版社。
青木先生は学生運動、マル経、数理経済学、米国留学、比較制度分析と異なるフィールドを渡り歩いた。異なるフィールドでは異なる制度があって、枠組みそれ自体が別物である。この越境ゲームを成功するためには、多様性を納得いく形で落とし込む必要がある。それがたとえば青木(2008)のような比較制度分析であり、労働者と株主のゲームを描写したAoki (1980 ,AER)である。この越境ゲームには挫折を伴うが、知的ベンチャーとしての再出発に繋がっている。これは岩瀬(2006)で紹介されていたPlanned Happenstance理論(Stanford大学教授が提唱したらしい)にきわめて近い。つまり、careerに関してanchorを下ろしていないのである。Jobs (2005)においてもconnecting the dotsと話されているが、人生の点と点は事後的に繋がるものであるから、事前的には点を振っていくべきなのだ。
また、社会的ムーブメントと高度な知的交流を取り込んでいくダイナミックな半生である。驚くべきことに、この越境ゲームにおける要所要所に多数の有名人物が関わってきている。それがメカニズムデザイン論やフィールドワークとの出会いであって、コテコテの数理経済学を相対化する役割を担っているようだ。それに加えて、アメリカ流の人的資本の形成過程には参考になるものがある。推薦書・ジョブマーケット・テニュア審査の裏話もあるし、初等教育・高等教育・研究所をめぐるアメリカの工夫も記述されている。
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