真渕勝(1994)『大蔵省統制の政治経済学』中央公論社(中公叢書)、1994年。
政治学的には、多元主義モデルやゴミ箱モデルを脱して、新制度論を輸入したことが画期的であるようだ。
社会保障費と公共事業費が赤字の原因であるという主張は1970年代における財政危機においても主張されてきた。大平内閣のときに財政危機は明白な事実であったようである。田中内閣は革新化した都市住民層の歓心を買うため社会保障費の拡大と大幅な減税を行なった。しかし、立花隆氏らによる政治姿勢の追求から田中角栄氏は失脚した。失った自由民主党の信頼を取り戻すべく、三木内閣は社会保障費と公共事業費の双方を増額した。福田内閣は機関車論に代表されるような内需拡大による日本の国際的立場の向上を達成するために公共事業を拡大した。こういった政治的背景から、財政赤字の原因を社会保障関係費の伸びに求める福祉犯人説と、公共事業関係費の伸びに求める公共事業犯人説に分類されるが、土光臨調の緊急答申はこの双方を原因とした。
一般的な財政赤字の弊害は大きく4つ挙げられる。
第1に、公債は負担を現代世代から将来世代に転嫁させるものであり、公債の増加は世代間の不公平を生む点である。
第2に、公的部門の拡大が物価上昇やクラウディングアウトを生む点である。理論上では、これにより民間部門の資本形成を阻害するとされるが、実際には低金利かつ低インフレの時代が続いており、資本形成に直接の悪影響を及ぼしている可能性は低い。もっとも、低金利でもクラウディングアウトが発生しうるという立場も可能である。
第3に、公共部門の過剰な肥大化を生む点である。これは財政赤字の恒常化が財政錯覚を発生させ、負担感を希薄化させるという意味である。しかし、国債依存度の高まりが危機感を生み、逆に公共部門の縮小を行なうようになると真渕は考えている。
第4に、国債費の増大による財源不足が裁量的な財政運営を圧迫し、財政の硬直化を生む点である。これに関して、真渕はドーマー条件を挙げつつ、この条件は非現実的な仮定であって、現実的には国債費が高い構成比となるまで増大していることを以て、財政の硬直化を肯定している。以上は1970年代における財政危機における議論であり、真渕によれば、これらは旧大蔵省の公式見解でもあった。
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