小野一(2008)「現代ベーシック・インカム論の系譜とドイツ政治」『レヴァイアサン』第43号、木鐸社。
ベーシック・インカムをめぐる定義(以下、BI)
(完全BI)社会的立場に関わらず、無制限の市民権としてすべての人に個人単位で支給される。
(部分BI)給付額として最低限の生活保障を下回る水準を設定する。
(生活保護)スティグマと事務コストが発生するが、低収入を証明すれば最低限の生活が保障される。
(スティグマ)低収入を証明する際の恥辱感のこと。
(失業の罠)生活保障の味を覚えて働かないこと。
(負の所得税)BIは事前的な給付だが、負の所得税は事後的な還付と言ってよい。
BIに関して強調される利点
-家族単位の給付でないことは女性の社会進出と整合的である。
-資力調査に伴うスティグマと事務コストが発生しない。
-全員に配布されるため失業の罠がなくなる。
-労働賃金に左右される生活から解放される。
-自由な労働や貢献活動を促進できる。
BIをめぐる論点その1
労働と賃金を切り離すことの影響として、ワークシェアリングの理念が強調される一方、フリーライダーの発生が懸念される。それに対して以下のような反論があるらしい。
(自然からの授かりもの説)そこらへんのモノは労働じゃなくて自然資源からできたものだから、労働に対する対価ではなくて、人間全員に対して報酬を還元すべきだ。
(雇用レント説)労賃が高く設定されていることで、失業者は雇用市場から弾かれている。労働者は失業者から搾取しているのだから、これを元に戻すのは当然である。
(プラグマティックな議論)そもそもフリーライダーを名指ししていくのは難しい。フリーライダーを摘発するコストを考えると、どうでもいいではないか。
(プライスタグ説)たしかにBIにも悪い点はあるよ。でも、BIを導入することで労働から貢献活動へとシフトできるじゃないか。
BIをめぐる論点その2
ドイツとフランスの事例を考えると、純粋なBIを現実に導入することはきわめて難しい。失業の野放しやその他社会保障政策との整合性が課題となるようである。
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