2009/02/10

芦部(1987)

芦部信喜(1987)『憲法判例を読む』岩波書店。

故芦部先生の教科書のほうの『憲法』と比べて、優しい語り口で展開されている。憲法判例が簡単に整理されていてわかりやすい。付随的違憲審査権や人権訴訟の射程から話が始まるが、「二重の基準(double standard)」の理論と実際が本書の中心内容となるだろう。したがって、殆どは人権分野であって、統治機構分野は殆どない。

[憲法判断の回避]
法律の争訟がない場合
「板まんだら事件」…宗教上の価値は裁判所では争えない
「警察予備隊事件」…付随的違憲審査制の下で「警察予備隊の設置が憲法9条に違反する」という抽象的な訴えは裁けない
「長沼事件」…森林法に定められた国有保安林を基地の設定のために解除することは平和的生存権を侵害するとした訴えた事件。最高裁は保有林の代替施設の設置があるとして、権利侵害の要件がないと判決した

法律解釈で避けられる場合
「恵庭事件」…切断された自衛隊の連絡線は「防衛の用に供する物」ではないから被告(牧場主)は無罪であると札幌地裁は判決した。自衛隊は違憲であるから無効であるという被告の主張を回避。

統治行為/裁量行為
「砂川事件」…裁判所は条約も違憲審査できるが、安保条約は高度の政治性を有する条約であるから、「一見明白に違憲無効であると認められない限りは」最終的には主権を有する国民の政治的批判に委ねられるべきで裁判所が違憲か合憲か審査すべきではないという趣旨の最高裁判決

「苫米地(とまべち)事件」…衆議院の解散により失職した原告の名前から命名。裁判所は衆議院の解散の効力を裁けないとした

「(昭和)39年参議院定数事件」など…一票の格差は極端な不平等が生じない限り違憲問題を生ずるとは認められない。一票の格差については21世紀に入ってからも重要判例が出ているが、選挙結果それ自体を違憲で無効とはしていない。


国会の尊重
「警察法改正無効事件」…国会混乱の中、国会法あるいは衆議院規則に違反するような形で警察法が改正されたが、与野党がその後の折衝で一応妥協が成立したため、違憲訴訟があったとしても裁判所は国会の自主的な判断を尊重して法律の有効無効を判断すべきではない。


[射程]
外国人
「マクリーン事件」…日本で政治活動をしたために残留期間延長を拒否されたマクリーンさんの事件。外国人の権利は「権利の性質上日本人にのみを対象としている場合を除き」憲法によって保障される。しかしながら、外国人に入国の自由はない。
外国人地方選挙権…選挙権がないのは違憲ではないが、禁止もされていない

法人
「八幡製鉄事件」…「憲法第3章に定める国民の権利及び義務の各条項は、性質上可能な限り内国の法人にも適用されると解すべき」として、特定の政策を支持、推進したり、反対したりする政治的行為をなす自由を有する。
「南九州税理士会政治献金事件」…強制加入の団体なので政治活動は会員個人が自主的に判断すべき

私人間(私人と私人の間の関係)
「日産自動車事件」…就業規則の男女不平等に対して民法90条の「公ノ秩序」を通じて憲法14条を適用
「三菱樹脂事件」…学生運動の経験秘匿を理由に幹部不適任として切り捨て。憲法14条19条は適用されない。(間接適用説か無適用説かは不明)

[二重の基準]
精神的自由の制約は民主的手続きによる修正を難しくするので経済的自由の場合よりも厳しい判断基準が求められるという理論。経済的自由の規制はわかりやすく、積極的目的規制の場合は消極的目的規制よりも許されるとされる。積極的目的とは弱者の救済であり、消極的目的とは危険の防止である。「小売市場事件」(積極的目的、合憲)「薬局距離制限事件」(消極的目的、違憲)あるいは複数の「公衆浴場法違反事件」(消極的目的から積極的目的に変化、いずれも合憲)あたりが参考になる。精神的自由、あるいはその他の人権については、はっきり言えばよくわからないので、各重要事件の内容と判決を丸暗記するしかないような気もする。

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