2009/02/04

宇沢(2005)

宇沢弘文(2005)「ケインズと『一般理論』」同志社大学社会的共通資本研究センター、ディスカッション・ペーパー<http://www1.doshisha.ac.jp/~rc-socap/publication/9keynes_uzawa.pdf>、2009年2月4日ダウンロード。

すぐれた知的能力をもち、良好な社会的環境のなかで育ち、一般大衆に比べてはるかに深い知識と正確な判断能力をもつ人々が、イギリス全体の長期的な利益を指向して、政府に対し理性的な診断をおこない、政策のあり方について助言を与えるという賢人の役割を果たしてきたが、イギリスの繁栄は、これらの賢人たちの貢献によるところが大きい。
―ハロッド
経済学に新しい地平をひらき、新しい分析方法をつくり出し、それによって公共政策への手段としての経済学の威信を回復したという意味で、ケインズ経済学はたしかに一つの革命であったといえよう。
―シュンペーター
現代の経済社会について、そのもっとも顕著な欠陥は、完全雇用を実現できないということと、富と所得の分布が恣意的であり、不平等であるということである。『一般理論』は、第一の問題に対する解答を与えようとするものであるが、第二の問題に対しても、つぎの二つの点で重要な関わりをもつ。
すなわち、富と所得の分布の不平等性については、十九世紀の終わり頃から、その是正をはかるために、西欧社会では大きな進歩がなされてきた。とくに大英帝国では、所得税、付加税、相続税などという直接税の制度を通じて、富と所得の分布の平等化という試みがなされたが、これをさらにいっそう強化することを望んでいる人々も多い。しかし、これに対しては、二つの観点から問題が生ずる。第一には、脱税ないしは節税のためにあまりにも多くの努力が払われ、リスクを、ある程度負担して、新しい経済活動をおこなおうとする意欲を不当に弱めて、そのために資源配分に歪みが生ずるという点である。第二には、資本蓄積の過程に障害を与えるという点である。資本蓄積が主として、高所得者階層の貯蓄に依存しているために、完全雇用ないしはそれに近いところでは問題はないとしても、非自発的失業が大量に存在するときには、貯蓄性向が高く、したがって、消費性向が低くなって、有効需要は逆に小さくなり、所得水準の低下、非自発的失業の増大を惹き起こすということは、『一般理論』の基本的命題の示すところでもある。
―ケインズ

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